【増える外国人賃貸需要に適応するための法律Q&A】

Q1

わたしはワンルームの賃貸アパートを所有しておりますが、部屋に2段ベッドを設置して、海外からの留学生を1部屋に複数人入居させています。

通常貸し出すより収入は増えますが、法的に問題はないのでしょうか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

A1

入居者が外国人か否かではなく、事業態様が賃貸事業か宿泊事業かという点に法的な問題があります。

近年旅館業法の改正により、1室よりホテル・旅館として宿泊事業を運営できるようになりました。

この宿泊事業ですが、「旅館業における衛生等管理要領」によれば、

「『宿泊」とは、宿泊時間の長短にかかわらず寝具を使用して前各項の施設を利用することをいう。」と定義され、「寝具」については「寝台(木等による枠組構造のものをいう。)」との記載が見られます。

そのため、当該ワンルームの運営態様が旅館業法上の宿泊事業と解釈された場合には、旅館業法の許可が必要となり、現状では無許可営業を行っている可能性が生じています。

なお、「旅館業法に関するQ&A」においては、旅館業と賃貸業との違いを、

①施設の管理・経営形態を総体的にみて、宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められるかどうか、

②施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有するかどうかにより判断すると回答されており、上記寝具の貸出しがあるからといって直ちに宿泊事業と認定されるわけではありません。

 また、仮に賃貸事業に該当する場合は、1部屋に複数名入居させられるかどうかは専ら賃貸借契約書の定めに委ねられていますが、

他の部屋に居住する居住者がいる場合、生活騒音等に配慮しなければ法的なトラブルに発展する可能性があります。

Q2

外国人の方から入居契約の申し込みがあり、入居させることになりました。

仲介してくれた会社の社員から

「外国人の方も増えている世の中なので…」と言われ

了承しましたが、追々確認すると、保証人がいないので、

滞納が発生した時点で強制退去してもらう契約内容になっていました。

そのような契約形態は認められるのでしょうか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

A2

ほとんどの場合、契約書に記載があるからといって、直ちに強制退去を求めることは困難です。

国籍に関わらず、日本の民法が準拠法として適用されること(日本の法律が適用されること)を前提とすれば、

賃料滞納を理由とする賃貸借契約の解除及びそれに伴う目的物(物件)の明渡請求の可否は、

裁判実務上、信頼関係が破壊されたか否かにより決するという法理が確立しています。

また、この法理は、賃料滞納の場面においては、概ね3か月分の滞納により信頼関係が破壊されたと認定される傾向にあります。

そのため、滞納が発生した時点で、直ちに強制退去を求めることができる余地はかなり低いと言わざるを得ません。

なお、契約書の記載があるからといって、裁判手続によらず直ちに強制退去を求める場合、

関係刑法規定又は自力救済禁止違反に該当し、更なるトラブルを招く恐れがありますので、十分注意する必要があります。

 なお、質問の背景は外国人であるか否かに関わらず保証人がいない賃借人の滞納リスクにどのように備えるかと言い換えることができます。

この場合、一般的には保証会社を利用することが考えられます。

また、当該外国人の属性によっては滞納リスクをヘッジする手法も少なからず存在します。

そのような手法の検討に当たっては専門家への相談をお勧めいたします。

Q3

知人に部屋を貸していたのですが、勝手に転貸され民泊運用されていることが発覚しました。

契約書には転貸不可の文言はなかったのですが、賃貸人であるわたしに許可なく転貸することは法律上問題はないのでしょうか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

A3

法令並びに契約書上の転貸違反及び用法違反として問題を生じさせる余地があります。

民泊運用とのことですが、いわゆる住宅宿泊事業に基づく運営が行われていることを前提に回答します。

この場合、住宅宿泊事業の届出を行うためには、賃借人においては賃貸人の住宅宿泊事業承諾書面が添付資料として求められています(同法3条2項7号、厚労省・国交省規則4条3項11号)が、

予期せぬ運用がなされているとあり、当該承諾について何らかの問題が生じている可能性が見込まれます。

また、契約書の文言等に照らし、予定していない用途で利用がなされているのであれば、用法違反(民法616条、594条1項)を問える余地もあります。

なお、上記厚労省・国交省規則4条3項は、住宅宿泊事業の用に供することにつき、「転貸」と文言を用いています。

そのため、同法に基づく宿泊事業について、無断転貸(民法612条)と捉える余地もありそうですが、

一般的に宿泊事業における宿泊サービス提供行為は必ずしも同条における「転貸」と評価されるものではないので、この点は留意が必要です。

以上まとめると、住宅宿泊事業の届出上の手続に瑕疵がある可能性があり、

また民法上の用法違反や無断転貸の可能性が生じていることになり、その程度いかんによっては、

上記信頼関係が破壊されたとして契約の解除及びそれに伴う物件の明渡しを求めることができます。


カテゴリの最新記事