不動産売買・不動産賃貸のトラブル

一括借り上げ・サブリーストラブルについての考察|不動産売買・賃貸借の法律相談

「一括借り上げ」「家賃保証」の契約書

不動産賃貸借を巡り、一括借り上げと家賃保証を目玉とするサブリース契約が取りざたされて久しい。

しかし、未だにこのサブリース契約のリスクについて十分な理解を得ないまま取引を実行してしまうケースが後を絶たず、トラブルの件数が増加し続けている。

このサブリース契約とは、取引によって多少の差はあるものの、基本的には、オーナーが物件(アパートなど)を建築し、建築したアパートを一括して不動産管理業者に賃貸し(マスターリース)、不動産管理業者は当該賃借したアパートを一般向けとして更に賃貸を行う(転貸=サブリース)という形態を採る。

この、オーナーと不動産管理業者との間にある賃貸借契約の条項に「一括借り上げ」と「家賃保証」の条項が組み込まれている。

オーナーにはこれら条項は非常に魅力的に映るが、オーナー側が契約書全体の文言をきちんと把握していないことが主な原因となり、トラブルとなっている。

サブリースを巡るトラブルを取材すると、ほとんどが家賃収入が減額されるリスクについて十分な説明を受けていないという訴えでした。


マンションや戸建てなどを売買する場合、法律によって重要事項説明が不動産会社に義務づけられています。


会社はさまざまなリスクについて口頭と書面で説明しなければなりません。


しかしサブリースの場合、一括借り上げという貸し借りの契約のため、この法律の対象外となり、売買のときのような厳格な説明は義務づけられていないのです。

(NHKのHP クローズアップ現代より引用)→こちら

「長期間借り上げる」「安定した家賃収入を保証する」などとうたう業者に勧誘され、銀行などから融資を受けてアパートを建設し、サブリース契約を結ぶケースが多い。国土交通省の登録業者の管理するサブリース物件戸数は2017年末で290万を超える。


業者から途中で家賃の減額やそれに応じなければ解約をすると迫られ、建設した際の借入金の返済に行き詰まるのがトラブルの典型例だ。消費者庁によると、全国の消費生活センターなどに寄せられたサブリースをめぐる相談は17年度は361件と3年連続で増えた。

(日本経済新聞 サブリースに潜むリスク アパート経営でトラブルも より引用)→こちら

重要事項説明書のない賃貸借契約書

不動産を賃貸したことがある人であれば、必ず経験したことがあるのが、「重要事項説明」と呼ばれる手続。

宅地建物取引業表法に規定されており、昭和42年から導入された重要事項の説明義務は、賃借人となる一般消費者の利益保護などを目的とする業務規制として導入された。

宅地建物取引業法第35条第1項によれば、

  • 宅地建物取引業者が「当事者」である場合 ⇒ 売買、交換
  • 宅地建物取引業者が「媒介」を行う場合 ⇒ 売買、交換、賃借

の場合に、重要事項を説明する必要があるため、不動産管理業者が当事者(賃借人)としてオーナーから賃借を受ける際は、重要事項説明を行う義務はないということになる。

元々、賃貸人の立場に立つものが賃借人の立場に立つものに比べて、より優位な立場であることがほとんどであり、仲介業者を介しての取引が一般的である。

そこで法は、仲介業者を介して立場の弱い賃借人に契約条項の理解を得られるまで説明を受けることができるようにするための制度を設けた。しかし、同法によれば、不動産管理会社などが当事者となり、オーナーから直接賃借する場合、オーナーは契約内容について説明を受ける機会を持たない。

賃貸住宅管理業者登録制度

このようなサブリース問題と題される問題に対応するために国土交通省が創設したのが、「賃貸住宅管理業者登録制度」。

施行は平成23年12月1日となる。創設から既に7年が経過している同制度は、同制度に登録を行った賃貸住宅管理業者が行う業務に一定のルールを設けることで、より適正な運営確保などを目指したものとなる。

ただし、同制度は強制ではなく、あくまで任意である。

また、一定のルールに該当する「賃貸住宅管理業務処理準則」も、あくまで行政上のものであり、準則違反を裁判所に持ち込んでも、準則違反が直ちに法令上の債務不履行などの法的責任を生じさせるものではない。

国土交通省側も登録業者が登録規程や準則に違反した場合に、直ちに行政処分や刑事罰などの法令にあるような対応が取れるわけではなく、それら違反事実の公表や登録を抹消するなど、事実上の措置に留まるような緩やかな対応を予定していることが規程上読み取れる。

他方で、賃貸住宅管理業務処理準則第5条では、サブリース形式をとる場合に、賃借人となる賃貸住宅管理業者がオーナーである賃貸人に対して、重要事項の説明等を行うことを求めている。

「一括借り上げ」や「家賃保証」と並んで、保証額減額に関する条項が契約書に設けられていれば、この重要事項の説明で、オーナーに減額のリスクが伝わるという構図だ。

オーナーと賃貸住宅管理業者それぞれに求められるべきもの

「サブリース問題」の括りであたかも、一括借り上げスキーム自体が「悪」と認識されている風潮が一部ではある。

しかし、取引当事者が十分な説明を尽くし、理解をしたうえで行われた取引であればなんら誹りに値しない。

賃料減額改定や賃貸借契約解除についても、文言の詳細化によってある程度の予測可能性をもたせることも可能だ。

あくまで、問題視されているのは、リスクコントロールのままならないまま、一般個人に近い立場に立つオーナーが取引を実行してしまうことと、オーナーに不利益な情報を伝えたくない相手方の関係。

オーナー側は賃貸住宅管理業者登録制度の存在を改めて確認し、登録業者に重要事項の説明を求めるよう働きかけるか、投資額が大きくなる場合は自らも専門家の助言を受ける方が望ましい。

登録業者側は他の事業者との差別化という意味や後々に大きなトラブルを回避する意味でも、積極的に登録制度の準則に従った運用が望ましいだろう。


 本記事は2019年6月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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