共有不動産の問題

共有不動産を売却したいが、共有者が所在不明の場合

共有不動産を売却する場合には、共有者の全員が売却することについて合意していなければなりません。共有不動産の売却は、変更行為・処分行為にあたり、法律上全員の合意がなければならないからです。

ところが、共有不動産のうち、一部の人の所在が解らなく連絡が取れないと言うケースがあります。

たとえば、ABCD4名で共有している不動産なのに、Dが行方不明になってしまったという場合です。

このような場合に、どのように対応すべきでしょうか。

まず、不動産登記上、当該共有不動産の所有者欄にDは記載されており、住所が記載されているはずです。

まずは、この住所に連絡を取り、また、この住所を基にして当該Dの現住所を探していきます。こちらは戸籍の付票を取り寄せることによって可能となります。

弁護士の業務としても、交渉業務として受任して、このように所在を調査していくことは珍しいことではありません。

特定の士業には職務上請求という方法により戸籍や住民票等の調査を行っていくことができますので、こうした方法を利用するなどして、Dの所在を調査していきます。

そして、現在の住所地が判明した場合には、そこに対して連絡を取り、不動産の売却についてDと話し合い・交渉を進めていきます。

では、住民票上を調査したものの、住民票上の住所(住民登録上の住所)に連絡をとってもDと連絡が取れない場合にはどうでしょうか。

この場合には、一つには、裁判所に不在者財産管理人の選任を求めるという方法があります。

実際には、Dの承諾が必要であるのに、Dが不在で連絡が取れない状態であるため、裁判所を通じて、Dに代わる代理人を立て、裁判所の許可を得た上で、当該不動産を売却するという方法があります。

不在者財産管理人とは、従来の住所を去り容易に戻る見込みのない者に財産管理人がいない場合に、家庭裁判所が財産管理人を選任する制度に基づいて選任された管理人です。

不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存したり、家庭裁判所の権限外行為許可を得ることができれば、不在者に代わって、不動産の売却などを行うことができるようになります。

(不在者の財産の管理)

第二十五条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。

2 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。

(管理人の改任)

第二十六条 不在者が管理人を置いた場合において、その不在者の生死が明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、管理人を改任することができる。

(管理人の職務)

第二十七条 前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。

2 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。


3 前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。

(管理人の権限)

第二十八条 管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。

(管理人の担保提供及び報酬)

第二十九条 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。

2 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。

従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に、家庭裁判所は、申立てにより、不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため、財産管理人選任等の処分を行うことができます。

このようにして選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行うことができます。

もちろん、この不在者財産管理人の選任の手続のためには、申立書の作成を始め、各種資料の収集などが必要となりますし、不動産を売却するためには、裁判所に説明をしてその許可を得る必要があります。

その他、失踪宣告という制度もあります。

こちらは、共有者Dの生死が7年以上明らかでないなど、不在者財産管理人よりもより要件(条件)は厳しいですが、同様にこの申立てをすることができます。

この失踪宣告がなされた場合には、当該「人」(上記のケースでいうと、D)は、法律上、死亡したのと同様に扱われます。

死亡したのと同様に扱われるというのがどういうことかというと、死亡したのと同様に相続が発生します。

ですので、Dに遺言があれば別として、ない場合には、法定相続分に従い、配偶者や子ども等の親族が、相続人としてDの財産を相続することになります(相続放棄等をしない限り)。結果として、相続人らと交渉して同意を得ることにより、当該共有不動産を売却することが出来る可能性があります。

(相続放棄等をしない限り)、結果として、相続人らと交渉して同意を得ることにより、当該共有不動産を売却することが出来る可能性があります。

ちなみに、相続人がいない場合には、相続財産管理人を選任して、相続人不存在の手続を進めた上で、特別縁故者等がなければ、最終的には、その共有者の持分はなくなります。

なくなるというのは、たとえば、それまでABCDが4分の1ずつ共有していた不動産であれば、Dが死亡し相続人がいない場合には、Dの持分は消滅し、ABCの3人が3分の1ずつ不動産を共有することになります(「共有の弾力性」などとよくいわれますね。)。

結果、ABCの共有になりますので、ABCだけで、Dの関与なく不動産を処分することができるようになります。

(持分の放棄及び共有者の死亡)

第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。

ただ、このように記載はしましたが、実際のところ、手続を実践していくにもそれなりに手間も時間もかかります。

様々な方法がある中で、どのような方法がベストなのかについては、共有不動産の問題に詳しい弁護士と相談した上で、決めていくことが望ましいと思います。


 本記事は2019年6月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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