共有不動産の問題

解体しようとする建物が共有名義のときの注意点|不動産弁護士専門相談

建物の一部の所有者からの承諾だけで建物を解体できるのか?

建物が老朽化していて建替が必要であったり、土地を売却するために建物をあらかじめ取り壊そうとする場合があります。

建物の名義が特定の誰かの単独の名義である場合には、その所有者たる名義人の承諾があればよいですし、自己の所有の建物であれば問題ありません。

問題となりやすいのは、建物が共有名義の場合、あるいは亡くなられた人の名義の建物を取り壊す際には、対応について注意が必要です。

この記事ではその点について解説してみたいと思います。

まず、具体例として、

  • 建物所有権が3分の1ずつAさん、Bさん、Cさんに共有されている場合
  • 建物所有権が10名以上の多人数で共有されている場合
  • 建物の名義が亡くなった人の名義になっている場合

などを想定してみたいと思います。

このような場合には、法律上、原則として、建物の所有者全員の同意がなければ建物を取り壊すことはできません。

■(共有物の変更)

第二百五十一条 
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

■(共有物の管理)
第二百五十二条 
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

民法上は、共有物の場合に、その重要性に応じて3つの行為に分類されています。

  • 変更行為(処分行為)→全員の同意の下で行う
  • 管理行為      →持ち分の過半数で行う
  • 保存行為     →各共有者が単独でできる

たとえば、土地建物などの不動産を売却することは、不動産に影響を与える重要な行為ですので、変更行為として、不動産の所有者全員の同意でなければ行うことができません。

これに対し、たとえば、不動産について軽微な補修を行うような場合には、補修が行われても他の共有者にとって通常困ることはありませんので、単独で行うことができます。

そして、不動産の建物を解体することは、もちろん解体されてしまえば当該建物は消滅してしまうわけですから、こちらの処分(変更)行為にあたる典型的なものです。なので、共有者の全員の同意がなければすることはできません。

建物の滅失登記と解体合意とは違う!

このように解体については全員でないとできないと説明した際に、「いやいや建物の滅失登記は、共有者の単独でできますよ」といわれたことがあります。

これはどのような意味なのでしょうか?

これは建物を解体した後の滅失登記については、確かに共有者の単独でできます。だから滅失登記ができるのだから、共有者の単独の承諾で取り壊せるのではないか、という考え方と思われます。

ですが、これは正しくはありません。

これは建物を解体するという行為と、建物を解体した後に行う法務局での登記とは別です。

建物を解体することは、民法上の変更行為であり、全員の同意が必要です。

共有者の一人が、他の共有者に無断で建物を取り壊しできるわけはないので、(たとえば、3人共有の建物を、その一人が独断で適法に取り壊せるとしたら、他の2人の共有者は困りますよね)このあたりはある意味あたりまえにも思われます。

滅失登記が単独でできるのは、滅失登記の申請それ自体は、なすべきものをなしただけですので他の共有者にとって不利益はなく、前述の処分・管理・保存の3類型でいう保存行為だからです。

これはすでに建物を全員の合意で取り壊した後、取り壊したことを申請することについては、いずれにしても申請すべきものを申請するだけなので、他の共有者にとって不利益はありません。

なので、解体後の滅失登記は共有者の単独で行うことができるのです。

要するに、

「建物を取り壊すこと」は、共有者全員の合意が必要

「建物を取り壊したので、滅失の登記申請をすること」は、保存行為として各共有者が単独でできる、

ということです。建物を壊すこと自体と、壊したあとの登記とは扱いが違うということです。

損害賠償責任や犯罪となる可能性も

実際に、私たちが関与したケースでも、一部の共有者の承諾が得られないところで解体工事に着手しようとして、損害賠償請求する旨の警告がされたようなこともあります。

最初は、共有者の一部の承諾だけに基づいて解体を進めようとしたようですが、実際に解体してしまっていら損害賠償責任を負ったり、建造物損壊罪(刑法260条前段)などにも該当する場合があり、様々な責任を負っていたでしょう。

よくある反論として、「老朽化していて価値がないから解体するしかなかった」といわれることがあります。

しかし、いままさに崩れる危険性が差し迫っていて、法律上、正当防衛や緊急避難に該当するような状況でない限りは、単に老朽化していたから、とか、建物としての価値がないから、という理由だけの反論では通らないケースも多いと思われますので、要注意です。


(建造物等損壊及び同致死傷)

第二百六十条 
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

全員の同意がとれずに解体できない場合はどうする?

このように、建物の取り壊しの場合には、原則として、全員の同意が必要です。

では、冒頭のケースではどのような対応が必要でしょうか。

①建物所有権が3分の1ずつAさん、Bさん、Cさんに共有されている場合

A、B、Cさんの全員の合意がなければ建物を壊す(変更行為)はできない。

 → だれか一人が拒否している場合には、取り壊すことはできない。

②建物所有権が10名以上の多人数で共有されている場合

 → 10名以上の全員が同意しなければ、取り壊すことができない。

③建物の名義が亡くなった人の名義になっている場合

 → 亡くなった人の相続人を明らかにし、その全員の同意がなければ取り壊すことができない。

ですが、このルールがあるために、建物の利活用ができないケースもあります。

④共有者間で建物の利用方法(取り壊すかどうか)の折り合いがつかない場合

 → 上記のABCさんjのうち、Cさんが反対している場合にはそのままでは解体できません。

⑤多数の共有者や行方不明の共有者などがいて全員の承諾が取りにくい場合

 → 全員の所在を明らかにして承諾を得る必要があります。認知症の場合には承諾が得られない場合もありえます。

⑥建物の名義人に亡くなられた人が含まれている、あるいは、亡くなられた人が共有者に一人である

 → 亡くなった人の相続人が所有者ですので、探し出して承諾を選る必要があります。

といった場合などです。

このような場合には、弁護士が共有物に関する調停や訴訟を利用する目的で、共有者が誰であるかの調査であったり、共有者間の調整のために交渉を行うケースもあります。

いずれにしても単独の共有者からの依頼で取り壊すことなく、適切な方法で対処していくことが重要でしょう。


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