民泊・マンスリーの法律相談

住宅宿泊事業(民泊)1か月(30日)規制の検討|民泊・マンスリーの法律相談

住宅宿泊事業(民泊)1か月(30日)規制の検討|民泊・マンスリーの法律相談

6月15日に施行された住宅宿泊事業法(民泊)について、登録事業者数は低調に留まっている。

原因としては、法令や条例の運用状況や旅館業との兼ね合いなど様々なものが挙げられるが、一言でいうとすれば「民泊事業を運営するビジョンが見えない」に尽きるものと思われる。

住宅宿泊事業に限らず、いかなる事業であっても、一定程度収益のビジョンが見えなければリスクが大きいと判断し、事業に乗り出すことはしないであろう。

住宅宿泊事業に関しては、現在その側面が顕著な状態にある。

住宅宿泊事業法が新法ということもあるが、各自自治体が行う上乗せ条例も統一的な運営を妨げ、ローカルごとに運営を検討しなければならないというコストを生じさせている。

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他方で、そのような不確かな住宅宿泊事業への視線が絶えないのは、従前行われてきた「ウィークリーマンション」や「マンスリーマンション」といった賃貸借契約をベースとした事業形態に打撃を与え、住宅宿泊事業や旅館業へのシフトを迫られているからと考えられる。

事の発端は、厚生労働省が発表した「旅館業に関する規制について」と題された資料だ。この資料には、「旅館業か不動産賃貸業かの判断基準」として次のような基準と資料を設け、ウィークリーマンションが不動産賃貸業のカテゴリーから外れることを明確化した。

  • 施設の管理・経営形態を総体的にみて、宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管責任が営業者にあると社会通念上認められること。
  • 施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないことを原則として業しているものであること。

「旅館業に関する規制について」から引用)

事業者の多くが疑問を持つのは、「なぜ1か月を境にウィークリーマンションとマンスリーマンションが区別されているのか」という点に集約される。

そこでこの区別について若干の検討を加えてみたい。

この表から見るに、「施設の衛生管理責任」の所在と「生活の本拠」を要素としていることは容易に見て取れるが、なぜこれが1か月の区切りに影響するのであろうか。

「不動産賃貸業(一時的滞在)」欄を見ると、旅館業法の適用除外としての民泊特区が掲げられているのみなので、不動産賃貸業においては、「一時的滞在」を認めない趣旨であることが読み取れる。

民法上の不動産を含む賃貸借契約の成立は、目的物すなわち「対象物件」と「賃料」について特定すれば、それ以上は不要となり、1か月以上か未満かということは影響しない。

他方、旅館業法にいう宿泊について、厚生労働省のホームページには

1 定義
旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されており、「宿泊」とは「寝具を使用して施設を利用すること」とされている。旅館業は「人を宿泊させる」ことであり、生活の本拠を置くような場合、例えばアパートや間借り部屋などは貸室業・貸家業であって旅館業には含まれない。

厚生労働省より引用

と記載されている。

住宅宿泊事業(民泊)1か月(30日)規制の検討|民泊・マンスリーの法律相談 (2)

となると、旅館業法上も1か月以上か未満かということは旅館業法の適用の有無に直接には影響しているわけではないことになる。

では、この「1か月」区切りは何であろうか。

実は参考になる最高裁判所の判例がある。

本件は住所の所在が争われた事案で、民法第22条において、「各人の生活の本拠をその者の住所とする。」との条文があることから、その「生活の本拠」がいかに定まるかという点を判断した判例となる。

要約すれば、「生活の本拠」と認められるには、定住の意思と定住の事実が必要となるというのが、踏襲されてきた理解であるが、この定住の事実の判断根拠には客観的事実を総合して決するとの総合的判断基準を示したことになる。

したがって、判決文にあるように、住所の所在は滞在日数の有無や財産所在地などの要素のいずれかをもって決定するものではない。実際の判決文は次のとおりとなる。

住所所在地の認定は各般の客観的事実を綜合して判断すべきものであつて、これらの事実があつたからと言つて、同町に上告人の住所があるものと認めなければならないものではない。もとより論旨もいうように特定の場所を特定人の住所と判断するについて、その者が間断なくその場所に居住することを要するものではなく、又単に滞在日数の多いかどうかによつてのみ判断すべきものでもないけれども、所論のような客観的施設の有無によつてのみ判断すべきものでもない。要するに原判決の確定した事実に基いて上告人の生活の本拠を考えるときは原判決が上告人の住所を豊中市にあつたものと判示したのは相当である。

(最高裁判所第3小法廷判決/昭和25年(オ)第172号)

となると、冒頭に戻っての「1か月」区切りとはどのような趣旨か。

これは、あくまで最低でも1か月程度の滞在がなければ、滞在期間という要素からは消極的な方向に流れるべきであるとの行政側の理解を示したに過ぎないということになろう。

確かに、電気、ガス、水道やインターネットといった現代のインフラにおいても、1か月が単位化されていることに照らせばある種合理性も頷けなくもない。

他方で、衛生管理要素を置けば、1か月未満の不動産賃貸がそれのみで旅館業法の適用範囲に含まれることを意味するかといえばそれは否定されるべきとなろう。

例えば、マンスリーマンションの「マンスリー」は何日を指すのか。ということについては、ほぼ30日前後であれば問題ないと理解することが出来る。

しかし、逆に言えば関連事情を積み上げて考えた結果、30日を超えている賃貸であっても生活の本拠無しとして旅館業法の適用が検討される余地も残されている点に留意しなければならないともいえる。

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