法務問題

【無料雛形プレゼント】新型コロナを理由とする賃料の支払猶予と賃料減額の法律相談|弁護士が解説

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による実体経済への影響は、いよいよ顕著なものとなってきました。

こうした中、不動産賃貸オーナーが、業績の悪化したテナント(特に飲食店)から賃料の猶予や減額の申入れを受けることが急増しており、私たちも日々ご相談をいただいているところです。

法的論点の整理

まず、法的にどうなるか(仮に訴訟になった場合にどのような判決が下されるか)を簡潔に整理してみましょう。

賃料の猶予について

賃料の猶予については、感染症の流行というやむをえない事情があったとしても、これを正面から認める規定は民法や借地借家法にありません。

賃貸借契約書においても、そのような規定が設けられていることは極めて例外的だと思います。

したがって、例外的な契約条項がある場合を除けば、賃料の猶予はあくまでも賃貸人の承諾があってのことであり、賃借人が一方的に賃料の支払いを拒否すれば、それは債務不履行として契約解除や損害賠償の原因となります。

ただし、賃料滞納による契約解除が通常どおり認められるかについては、少々微妙なところがあります。

ご承知のとおり、賃貸借契約は当事者間の継続的な信頼関係を基盤とすることから、形式的な債務不履行があっても直ちに契約解除が認められるわけではなく、信頼関係が破壊されたと評価できる場合に限り契約解除が認められるという、確立した判例法理があります(信頼関係破壊の法理)。

実際には具体的な事案ごとの個別事情をふまえた判断になりますが、感染症の流行というやむをえない事情に起因する賃料滞納については、裁判所が通常よりも厳しく(賃借人に対して甘く)信頼関係破壊の法理を適用する可能性は否定できません。

つまり、通常であれば3か月程度の賃料滞納で信頼関係の破壊が認められるところ、たとえば6か月程度の賃料滞納がなければ認められないというケースが出てくるかもしれないということです。

賃料の減額について

借地借家法32条

賃料の減額については、借地借家法32条(建物の場合。借地の場合は11条。)に規定があり、多くの賃貸借契約書にも規定が設けられているところです。

《借地借家法32条1項条文引用》

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

問題は、感染症の流行による賃借人の業績悪化等が減額事由になるかですが、現時点において確立した判例・学説は見当たりません。

ただ、当事者間の公平の観点からすると、いかに感染症の流行というやむをえない事情があったとしても、賃借人の一時的な業績悪化等を賃料減額に直結させて賃貸人の負担に帰せしめるというのは論理に飛躍があります。

感染症の流行により不動産価格や賃料水準が低下してはじめて、その影響を当事者間で公平に分配すべく賃料減額を認めるというのが、妥当な考え方であるように思われます。

なお、定期借家においては、借地借家法32条に基づく賃料減額を排除する旨の特約条項が設けられていることが少なくありませんが、この場合でも、いわゆる事情変更の法理により、極めて例外的ではあるものの賃料減額が認められる余地が生じうる点、注意を要します。

民法611条1項

さて、賃料の減額については、民法611条1項の規定によるアプローチもありえます(2020年3月31日以前に締結された契約については旧民法611条1項の類推適用により同様の結論となります。)。

《民法611条1項条文引用》

(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)
賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。

本条項適用の要件は、

①賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなったこと、

②それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであること、です。

上記①の「使用及び収益をすることができなくなったこと」というのは、基本的には物理的に利用することができない状態を指すものと考えられます。

今回の新型コロナウィルス感染症についていえば、新型インフルエンザ等対策特別措置法(いわゆる新型コロナ特措法)に基づき、政府の緊急事態宣言をふまえて都道府県知事より、当該賃貸物件につき、いわば「名指し」で施設使用の制限・停止等の要請・指示(同法45条2項、3項)があった場合は、具体的な要請・指示の内容にもよりますが、

当該賃貸物件の利用が物理的に制約されることから、上記要件がクリアされ、賃料を減額(又は免除)せざるをえなくなる可能性があります。

これに対し、当該賃貸物件の「名指し」ではなく単に賃借人の業種につき営業自粛要請(同法45条1項)があった場合、その他賃借人が自発的判断として賃貸物件の使用を停止(休業等)した場合は、当該賃貸物件の利用が物理的に制約されるわけではないので、上記要件はクリアされず、賃料の減額は認められないと考えられます。

賃料の猶予や減額の申入れにどう対応すべきか

以上の法的な論点整理からすると、賃借人からの賃料の猶予や減額の申入れに対し、賃貸人が応じなければならない局面は、さほど多くないことがわかります。

ところで、国土交通省からは、各不動産関連団体の長宛てに、2020年3月31日付で下記のような通知が出されており、対応に苦慮されている賃貸人(あるいは管理会社)の方も多いと思います。

賃貸用ビルの所有者など、飲食店をはじめとするテナントに不動産を賃貸する事業を営む事業者におかれましては、新型コロナウイルス感染症の影響により、賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、その置かれた状況に配慮し、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施を検討頂きますよう、貴団体加盟の事業者に対する周知をお願いいたします。

※「新型コロナウイルス感染症に係る対応について(依頼)」より抜粋

https://www.mlit.go.jp/common/001340555.pdf

結論から申し上げると、この国土交通省の通知はあくまでも任意の「お願い」であり、賃貸人側がこれに応じる義務はありません。

コロナショックで困っているのは賃借人だけではなく、賃貸人側にとっても、たとえばローンで物件を購入して月々の返済がある場合など、賃料を安易に猶予・減額すれば死活問題になりかねません。

また、賃借人の中には、コロナショック以前から経営が傾いていたのを、コロナショックに便乗して賃料の猶予・減額を求めるというケースも散見されます。

したがって、賃借人から賃料の猶予や減額の申入れがあった場合には、前述の法的論点整理を前提としてふまえつつ、賃借人の過去の賃料支払実績、将来の業績回復の見込み、仮に退去に至った際の新テナント確保の可能性、賃貸人側の資金繰りの状況等々を総合的に考慮し、あくまでも無理のない範囲で検討すれば十分でしょう。

なお、現在、政府においては、賃貸人が賃料の猶予・減額に応じることを促進すべく、金融機関に対するローン返済条件変更等の要請や、税制上の優遇(損金算入の緩和)などの措置が取られており、今後も拡充される可能性がありますので、参考になさってください。

▶金融庁(https://www.fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20200407.html

▶国税庁(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/kaisei/2004xx/index.htm

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 本記事は2020年4月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
 記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。
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