2020年民法改正施行に向けて|賃借物の一部滅失による賃料の減額請求に関する民法改正への対応
賃借物の一部滅失に関する民法改正について
マンションやアパートなどを賃貸借している場合に、その一部が滅失した場合や、使用及び収益することができなくなった場合におけるルールが改正されました。
【改正前民法の規程】
(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)
第六百十一条 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
現行民法ですと、たとえば、賃貸物としてアパートの一室を10万円で賃貸している場合に、そのアパートの一部が滅失した(たとえば、隣家からの延焼火災などで物理的に利用できなくなったなど。)場合に、賃料の減額を請求することができます。
滅失したからといって、当然にそれ以降、賃料が5万円になるということではなく、賃借人側から請求してはじめて減額されるというものです。
【民法改正後の規程】
(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
第六百十一条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
まず、改正前は単に「滅失」という文言でしたが、改正後は、「滅失そのほか使用及び収益をすることができなくなった場合」という記載になり、明確に範囲を広げる文言に変更する方向で変更されています。
賃借物を「使用及び収益することができなくなった場合」というわけですので、たとえば、賃借物であるアパートの一部が物理的に滅失した場合のみならず、たとえば、通常の利用をしているのにトイレやシャワーが利用できなくなった場合であれば、賃借物の使用ができなくなったものとして、当然に減額されるように読めます。
ウィークリーマンションを含む家具付きマンションでの影響では、この条文がそのまま適用されるとなると、賃貸物の一部が収益できなかった場合には、当然に賃料減額となると考えられますので、賃貸借契約書を整備する等の対応が必要です。
また、収益することができない場合でも当然に減額となるということですから、たとえば、民泊物件としてサブリース契約していたところ、法改正などの事情によって、契約上予定していた民泊運用ができなくなった場合にどうなのか、といった問題もあるように思われます。
いくら減額されるのか、という問題
こちらの条文が実際の実務に適用されると考えると、なかなか問題点が多いように思います。
たとえば、賃借人の責めによらない事情でトイレやシャワーが使えなかった、あるいは、マンスリーマンションなどでテレビや冷蔵庫等の備え付けの家具が故障していた、という場合には、当然に賃料が減額されるとなると、問題が多いように思います。まず、いくら減額されるのか、という問題です。
「賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額」という条文ですが、そのような算定は相当に難しいように思われます。
物件の一部が使用収益できないとしても、どこどこが利用できなければ○○円賃料が減額されるとして、この○○円をどのように評価していくか、という問題があります。トイレが故障していたらいくらなのか、シャワーが故障していたらいくら減額なのか、という問題です。
事後請求された場合の問題
このように、当然に減額されていることを前提とすれば、前払い家賃であれば賃料を払いすぎているとして過払いに、事後払いであれば支払いを拒むことになると思われます。
長期間にわたって故障していたところ、放置しておいて、あとになって故障していたからと減額請求されたような場合には問題になるように思われます。
通知義務
まずは、契約書上で、一部滅失や使用及び収益ができないことを発見した場合の通知義務を課すという方法があると思います。
そして、賃借人から賃貸人に対して速やかに通知する義務を課し、通知がなされない場合には、賃料が減額されないという規程の設定することも必要と考えられます。
適切に対応しても減額される?という問題
また、故障に対して適切に対応したような場合でも、当然に賃料が減額となることも本来的ではないと思われます。
設備関係も機械である以上は故障しないということはないでしょうし、設備に故障や不具合が見られた場合に、賃借人や管理会社が現実的で合理的な対応を行ったにもかかわらず、賃料が減額されるというのは実情に合わないようにも思います。
たとえば、エアコン設備の調子が悪くなりはじめ、数日して本格的に調子が悪くなったので修理を頼み、業者の手配や部品の手配の関係で2日後に修繕された場合には、調子が悪かった期間の賃料減額をどうみるか、すぐに手配したのにどうしても部品や人手の関係で修理が遅れた場合でも、その期間が賃料減額となるのはどうか、という感もあります。
上記のことからすると、当然に減額されるのではなく、一定の合理的な期間内に修繕した場合には減額されないことを前提として減額について協議する、という契約にする方法もありうるかと思われます。
賃借人の通知義務
少し話はそれますが、賃貸借物件の一部が滅失した場合や設備が故障していることを発見した場合には、賃借人に通知義務があります。
こちらは、民法615条に定められています。
(賃借人の通知義務)
第六百十五条 賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。
水漏れ等が発生して速やかに連絡があり修理すればそれほどの大事に至らなかったのに、長期間にわたって放置していたことから周辺にまで損害が拡大してしまっているような事案がありました。
通知しないとすると、上記の賃借人の通知義務に違反することになり、賃借人は損害の拡大について賠償責任を負わなければなりません。
* 本記事は2019年6月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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