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仲介手数料原則0.5か月分!?東京地裁令和元年8月7日判決を徹底解説

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 毎日新聞に、「賃貸住宅の仲介手数料は原則0.5カ月分 手数料の一部返還認める 東京地裁」という記事が掲載されました。

この記事について、「仲介手数料が原則0.5か月分までしか受け取れなくなってしまうの?」と、私たちの顧問先会社の皆様からこの判決について問い合わせを受けていますので、こちらの判決について解説してみたいと思います。

基本の確認

前提ルールの確認

まずは前提の確認です。不動産仲介業者(宅地建物取引業者)が、賃貸物件を仲介した場合に受けることができる報酬の額(仲介手数料)については、法令により、上限が定められています。

※(昭和四十五年十月二十三日建設省告示第千五百五十二号) 最終改正平成二十九年十二月八日国土交通省告示第千百五十五号

「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」にルールが定められています。「売買等」と記載されていますが、賃貸についても「第4」に記載があります。

宅地建物取引業者が宅地又は建物の貸借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額(当該媒介に係る消費税等相当額を含む。以下この規定において同じ。)の合計額は、当該宅地又は建物の借賃(当該貸借に係る消費税等相当額を含まないものとし、当該媒介が使用貸借に係るものであ る場合においては、当該宅地又は建物の通常の借賃をいう。以下同じ。)の一月分の一・〇八倍に相当 する金額以内とする。(前段)

この場合において、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方 から受けることのできる報酬の額は、当該媒介の依頼を受けるに当たつて当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の一月分の〇・五四倍に相当する金額以内とする。(後段)

前段のルールの確認

まず、上記の前段についてですが、依頼者の双方から受け取ることができる報酬が1か月分の1.08倍に相当する金額以内と記載されています。「1.08倍」というのは消費税を含むためですので、税抜き1か月分以内ということになります。

依頼者というのは、賃貸借の場合は、貸主である「オーナー」と、借主である「賃借人」(入居者など)ですので、その双方から合計1か月分を超えない金額内で報酬を受け取ることができることになります。

たとえば、月額賃料10万円の物件の賃貸借契約の場合には、

【具体例】

<CASE①>
オーナー側から5万円(0.5か月)、入居者から5万円(0.5か月)を媒介報酬として受けることは、双方から合計10万円(1か月)以内なので問題ありません。
<CASE②>
オーナー側から2.5万円(0.25か月)、入居者から2.5万円(0.25か月)を媒介報酬として受けることは双方から合計5万円(0.5か月)以内なので問題ありません。
<CASE③>
オーナーから2.5万円(0.25か月)、入居者から7.5万円(0.75か月)を媒介報酬で受けることも問題ありません。
CASE④
オーナーから5万円を受け取りつつ、賃借人からの媒介報酬として1か月分の10万円を受け取るとなれば、双方依頼者から合計15万円(1.5か月分)を受け取ることになり、1か月分を超えますのでこの規定違反となります。

まずこれが上記規定の前段の話です。

後段のルールの確認

これに加えて、「居住の用に供する建物の賃貸借の媒介」つまり、居住目的の賃貸借の場合には、別途の後段のルールが追加されます。なお、マンスリーマンションも法律上は、一般的な居住目的の賃貸借契約ですので、この後段の規定が適用されると考えられます。

では、この後段の規定はどのような規制でしょうか。

こちらは、「当該媒介の依頼を受けるに当たつて当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の一月分の〇・五四倍に相当する金額以内」というものです。つまり、依頼者の承諾を得ない限り、1か月分の0.54倍、つまり税抜きで0.5か月分が上限となります。

ですので、「依頼者の承諾を得ない限りは」、媒介手数料は、オーナーから0.5か月、賃借人から0.5か月で合計1か月分まで受領でき、それが上限となります。

あまりルールは周知されていない??

ですが、実際には、ネット検索された不動産サイトを見てのとおり、借主側から媒介手数料として1か月分を請求するケースが少なくありません。これはどういうことか、というと、「当該媒介の依頼を受けるに当たつて当該依頼者の承諾を得ている場合」に該当して、例外的に、この後段が適用されていないからです。

つまり、賃借人は、規程上は0.5か月が上限の媒介手数料を、承諾したうえで1か月分支払っている、ということになります。

ですが、いままで賃貸借契約を締結して1か月分の仲介手数料を支払ったことがある方でも、この規定の存在を知っていて、「原則0.5か月が上限」なのところを、「当該媒介の依頼を受けるに当たつて当該依頼者の承諾」をして、1か月分を支払っているという認識はあまりないのではないでしょうか。

(そもそも、報酬額は媒介を進める段階であらかじめ約束しているでしょうから、「承諾を得ない」で請求する場合というのは、どういうケースなのか、という問題はあります。そこが、この規定をどう解釈するかにもつながってくるようにも思われます)。

「承諾」の解釈

さて、この規定の「承諾」についてですが、どのような承諾が必要でしょうか。こちらについては、「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」※※国土交通省※※に解釈の際に参考となる記載があります。(なお、下記に引用したものは消費税5%時代のものなのですが、税率の変化を除けば基本的に現在も適用されるものと考えられます)。

「なお、この依頼者の承諾は、宅地建物取引業者が媒介の依頼を受けるに当た って得ておくことが必要であり、依頼後に承諾を得ても後段に規定する承諾と はいえず、後段の規制を受けるものである。」(引用終わり)

このように、媒介の依頼を受けるにあたって承諾を得ることが必要であり、媒介契約の依頼を受けたあとに承諾を得ても駄目だということになります。

【媒介契約前後での取得金のイメージ】

ですので、媒介契約がいつ行われたか、それ以前のところで承諾がなされていたかどうか、が重要なポイントになります。

なお、書面で承諾を得なければならないとの記載はありません。

事案の概要(簡略化しています)

少々理解のために簡略化して説明します。

① 賃貸物件の問い合わせ・入居希望(12/24)
② 賃貸住宅入居申込書を記載して提出(12/28)
③ 物件決めて契約する旨の連絡(1/10)
④ 1か月分の媒介手数料の記載のある賃貸明細書の交付(1/14)
⑤ 重要事項説明・賃貸借契約締結(1/20)

事実関係は、①②③④⑤の順番に進み、媒介手数料が1か月分であることは、④1か月分の媒介手数料の記載のある賃貸明細書の交付、の際に説明が行われました。

【入居者側の主張】

入居者側は②③で媒介契約成立を主張したので、契約成立「後」の④1か月分の媒介手数料の記載のある賃貸明細書の交付、の段階で説明を受けたのだから、事後説明しかない。媒介契約「前」の説明がないから、先ほどのルールに従って0.5か月分の報酬しか会社側は請求できない。なのに、1か月分を支払ったのだから、払いすぎた0.5か月分を返還せよ、と主張しました。

【会社側の主張】

これに対し、会社側は、媒介契約の成立は、⑤の段階で媒介契約が成立しているので、④1か月分の媒介手数料の記載のある賃貸明細書の交付、媒介契約が成立する「前」の段階で説明していることになる。媒介契約成立「前」に説明しているので、事前説明があり、1か月分の媒介手数料を請求しても問題なく、返還しない、というものです。

要するに、入居者側は事後にしか説明がなかった、会社側は事前に説明した、食い違いの生まれた理由は、媒介契約が成立した時期を法律的にどうとらえるか、という違いになります。

【裁判所の判断】

結論的には、裁判所は、入居者側の主張を認め、媒介契約は③の時点で成立しているとしました。

理由は、媒介とは、契約当事者の一方または双方から委託を受けて、両者の間に立って、売買、賃貸借等の契約の成立に向けてあっせん尽力する事実行為をいうところ、⑤の段階ではあっせん業務の大部分が終了しているからその時点で媒介契約が成立するとはいえない。

③の時点で契約締結日を確認し、その上で、勤務先への連絡をとり在籍確認をしたり、賃料などの条件を確認したり、賃貸借契約書や重要事項説明書の作成を行っており、これが媒介行為であるから、③の連絡の時点で媒介契約が成立している。

実務への影響

影響は限定的??

「仲介手数料原則0.5か月分原則」と報道されると、実務的な影響が大きいかのように思われますが、なにかこれまでの実務のルールが変更された、というものではありません。その意味では、当該判決の影響は限定的と考えられます。

どのような対応をすべきか

 では、対処方法としては、どのように考えたらよいでしょうか。

媒介報酬のようなお金の問題で疑義が生じることは企業として避けるべきことでしょうから、物件の案内等を行う段階で媒介報酬が0.5か月分を超える場合には、超えることを明示した説明を行ったといえるよう、各種の書類や業務ルーティンを組んでおく必要があると思います。

一つは、事前に説明したことを説明できるようなやりとりの記録を残すことです。ホームページなどであらかじめ媒介報酬が1か月分であることを明示することです。

また、物件紹介の申込みを受けた時点で、媒介報酬が1か月分であることの承諾を得ることも重要です。そして、そのような運用が、(申込時の承諾を取り忘れた、などということがないように)定着していることが重要です。

おわりに

ちょっとした疑義でも、媒介報酬のようなお金の問題で疑義があることはさけるべきですので、これを機会に申込書類や運用などを見直してみることも重要でしょう。

当事務所では、顧問先の企業の皆様に対し、そのような業務関係の書類が適切かどうか、また運用に問題ないかどうかについてもアドバイスを行っておりま。具体的に何を行うべきかわからない、という場合にはご連絡・相談ください。

参考(判決文でまとめられたルールからの引用)

(3) 告示第四(宅地建物取引業者が貸借の媒介に関して受けることのできる報酬の額)関係

判決文でもこのルールについて説明されています。判決文からの引用

① 前段の規定は宅地建物取引業者が宅地又は建物の貸借の媒介に関して受けることのできる報酬について、その合計額の限度額のみを定めたものであり、貸借の媒介に関しては、売買又は交換の媒介と異なり、依頼者のそれぞれ一方から受ける報酬の額、割合等については特段の規制はない。(したがって報酬の 合計額がこの限度額内であれば依頼者の双方からどのような割合で報酬を受け てもよく、また、依頼者の一方のみから報酬を受けることもできる)。
② 「宅地又は建物の通常の借賃」とは、当該宅地又は建物が賃貸借される場合 に通常定められる適正かつ客観的な賃料を指すものであり、その算定に当たっては、必要に応じて不動産鑑定業者の鑑定評価を求めることとする。
 ③ 後段の規定は、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して宅地建物取引 業者が受けることのできる報酬について、前段に規定する報酬額の合計額の範 囲内において依頼者の一方から受けることのできる限度額を定めているもので あり、依頼者の承諾を得ている場合を除き、依頼者の双方から報酬を受ける場 合のいずれかにあっても依頼者の一方から受ける報酬の額が当該限度額以下で なければならない。
 ④ 「居住の用に供する建物」とは、専ら居住の用に供する建物を指すものであ り、居住の用に供する建物で事務所、店舗その他居住以外の用途を兼ねるものは含まれない。
 ⑤ 「当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合」と は、当該媒介の依頼を受けるに当たって、依頼者から借賃の1月分の0.52 5倍に相当する金額以上の報酬を受けることについての承諾を得ている場合を 指すものであり、その場合においては、依頼者から受ける報酬の合計額が借賃 の1月分の1.05倍に相当する金額を超えない限り、当該承諾に係る依頼者 から受ける報酬の額、割合等については特段の規制はない。 なお、この依頼者の承諾は、宅地建物取引業者が媒介の依頼を受けるに当た って得ておくことが必要であり、依頼後に承諾を得ても後段に規定する承諾と はいえず、後段の規制を受けるものである。

 本記事は2019年9月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
 記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。
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