不動産と相続問題

不動産の遺産分割協議をしないとどうなる?|不動産と相続問題

被相続人がなくなると、その被相続人の財産(相続財産)について、相続人の間で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するかを決めます。

それでは、この遺産分割協議をしないとどうなるでしょうか。

まず、遺産分割をしなければならない義務はありません。

相続税であれば10か月以内の申告が必要となりますが、遺産分割についてはそのような期限の定めはありません。

法定相続分に従った相続税の申告を行い、あるいは、相続税の申告が必要ないケースであればそのまま、不動産の名義も変更せずそのままにしておくこともあります。

特に、相続登記をするとしても、司法書士の方に依頼するとしても手数料がかかりますし、自分でやるとしても資料収集や登録免除税がかかります。

このような費用の負担があるために、相続登記が行われないままのケースもあります。ではそのような場合にどのような不利益があるでしょうか。

まず、一つは相続人の誰かに借金等があり、相続財産が差し押えられることがあります。相続人の誰かに借金がある場合に、相続財産に対する仮差し押えや差し押さえがなされるケースがあります。

これは相続人の関与がなくても、相続財産について、法定相続分に対して、法定相続分どおりに登記をかけて、その借金のある相続人の持ち分に差し押さえをかけることができます。

このような差し押さえがあると、その差し押さえを外さなければ不動産の売却等の処分を行うことは困難になります。

また、一旦、差し押さえがなされると、その後に遺産分割協議を行い、借金のある相続人を受け取り分がないという内容で遺産分割協議をまとめたとしても、この差し押さえを外すことはできません。民法909条には以下のとおりに定められています。

第909条

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

このように遺産分割をして、借金のある相続人が財産を受けとらないことにすると、相続開始時(=通常は、被相続人の死亡時)より、相続財産は借金のある相続人の受け取り分がなかったことになります。

そうすると、財産の差し押さえはできないというのが同条本文からの論理的な帰結なのですが、同条ただし書により、「第三者の権利を害することはでいない」と定められており、差し押さえを行った者に対しては、遺産分割協議で決めたから最初から財産はなく差し押さえは駄目ですよ、とはいえないというルールとなっています。

なお、方法としては、借金のある相続人が相続放棄の手続をとれば差し押さえに対抗することはできます。こちらの場合には、上記の909条ただし書のような第三者保護規定がないからです

第939条

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす

ただ、この相続放棄により差し押さえに対抗できるケースも多くはないと思われます。相続法規の申述ができる期間は、相続開始をしったときから3か月以内ですので、通常、遺産分割で放置されているようなケースはそれ以上の期間が経過していることが通常と思われるからです。

(さらにいえば、相続放棄の申述は受理されるかもしれませんが、差し押さえまでされているケースなので、その後の訴訟等で争われると放棄が認められないという可能性は十分にあると思われます。)

少し難しい説明をしましたが、とにかく相続人の一人に借金があり、財産が差し押さえられるという事態が想定され、差し押さえられた後に対応するのはそれなりの手間と費用と労力がかかるということです。

そのほか、もう一つの問題点は、相続人が多数化して、処分ができなくなってしまうという点です。

不動産を処分しようとしたり(売却等)、建物を取り壊そうとする場合には、相続人全員の合意(承諾)が必要となります。

そうなると、法律上は遺産分割協議をせずに不動産の登記をそのままにしていると、合意(承諾)が必要な相続人が増えて、相続登記が困難というケースが生じます。

たとえば、亡くなった方の相続人が兄弟3人である、という場合には、3人の合意で当該不動産の売却等の処分をすることができます。

ところが、遺産分割協議をしないままその相続人のうちの一人が亡くなると、その亡くなった方の相続人の方(たとえば、妻や子ども)の承諾が必要となります。

さらに、その子どもが亡くなったという場合には、さらにその妻や子どもの承諾が必要となります。

このようにして、相続関係は複雑となり大変に広い範囲の相続人から承諾を得なければなりません。

特に最近多いケースとしては、空き家などの解体撤去する際の承諾の問題です。

近年では空き家は社会問題化していることは周知のとおりですが、この空き家の解体は処分行為です。(なお、処分後の登記申請のことを指しているものではありません。)

そうなると、原則論としては、空き家の撤去のためには相続人を見つけ出して承諾を得ていく必要があります。

ところが、資産価値が低いがゆえに名義がそのままになっていて、相続人を見つけようとすると多くの相続人が全国各地に散らばっているということも少なくありません。

また、子どもがいない方がなくなった場合には、(親が亡くなって入れば)、その相続人は兄弟、兄弟が亡くなっていればその子ども(甥姪)が相続することになります。

そのような場合ですと、関係が疎遠であったり、また、兄弟も高齢であったりすると、承諾するための判断能力(意思能力)を欠いていて、承諾が必要が得られなくなるというケースもあります。

このような財産を動かすのにはそれなりの工夫や手続が必要となりますし、場合によっては財産が処分できずに塩漬けとなってしまうケースもあります。

その意味でも、遺産分割協議を行って相続登記を行っておくことが必要です。

以上のとおり、遺産分割協議については義務ではありませんが、財産を放っておくと借金による差し押さえであったり、将来の土地建物の処分が困難になることが予想されます。したがって、適切に遺産分割協議を行って対応しておくことが必要です。

また、すでに長期間にわたって遺産分割協議が行われていない土地建物を処分や整理したいという場合にも、経験豊富な弁護士が対応することで解決できる場合もありますので、ご相談ください。

 本記事は2019年6月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
 記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。
 当事務所は、本サイト上で提供している情報に関していかなる保証もするものではありません。本サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、当事務所は一切の責任を負いません。
 本サイト上に記載されている情報やURLは予告なしに変更、削除することがあります。情報の変更および削除によって何らかの損害が発生したとしても、当事務所は一切責任を負いません。

不動産と相続問題カテゴリの最新記事