墓地寺院法務研究会

霊園が経営難の場合墓地はどうなる? ~先祖代々のお墓を確かに引き継ぐために~

はじめに

近年では、お墓(墓地)に関するサービスも多様化しており、それに伴い、公共の墓地ではなく、各々の家の需要にマッチしたサービスを行っている民間企業の霊園から墓地やお墓を購入する方も多いかと思います。

 しかし、民間の霊園などの場合は、公営のものとは異なり、経営が破綻し、倒産してしまう可能性もありますし、また墓地の経営を突然やめてしまう可能性もございます。

お墓というものは、後世にきちんと引き継いでいくことが最も重要なことですので、このような場合にお墓は一体どうなってしまうのだろう、と不安になる方も多いはずです。

そこで、今回は、主に民営の霊園を対象として、墓地の経営主体が何らかの事情で墓地経営を途中でやめようとした場合に、墓地はどうなるのか、という点についてみていきたいと思います。

墓地の経営主体が破綻した場合

まず、一般論として、企業が破産した場合、当該企業が有する財産は、破産法の手続に従って管理・処分がなされます。そして、各債権者は、破産法の手続によってのみ債権の回収が許されることとなります。

 そして、破産手続において、墓地との関わりで問題となり得るのが、破産法53条1項です。

これは、双務契約(契約の双方当事者が、それぞれ対価的な意味を持つ債務を負担しあう契約)について、破産者(破産した当事者です)及び契約の相手方が共に契約に基づく債務の履行を完了していない場合に、破産管財人(破産者の財産を管理・処分する権限を有し、裁判所と共に破産手続を進行させていく人です)がその契約を解除することができる旨定めたものです。

墓地を購入する場合の多くは、売買契約に基づき、お墓を設置する土地の所有権を取得するのではなく、墓地使用契約に基づき、墓地使用権(特定の墓地区画に墳墓を設置し遺骨を埋葬・埋蔵することができ、当該墓地区画に至るまでの通路を通行することができる権利)を取得することになります。

墓地使用権に関する法的性質については争いがあり、機会があれば別の記事で紹介する予定ではございますが、いずれにせよ、墓地使用契約に基づき、墓地経営者には墓地を使用させる義務が課される一方で、墓地使用者(購入者)には墓地使用権等に関する年会費等の支払い義務が課されますので、墓地使用契約は、双務契約ということができます。

したがって、上で紹介した破産法53条1項が適用され、墓地経営主体が破産すると、破産管財人によって墓地使用契約が解除される可能性があり、場合によっては継続して墓地を使用することができない、ということになりかねないようにも思います。

しかし、墓地使用権は、墳墓を設置するための権利であるところ、墳墓とは一般的に、代々にわたって永続的に承継されていくものであり(永久性)、官庁の許可を受けた墓地内においてしか設置できず、容易に移動できない(固定性)という両性質を有するとされており、墓地使用権についても、このような性質を有するものと認められています。

墓地使用権がこのような性質を有すること、破産法53条1項に基づく解除によって、相手方に著しい不公平が生ずる場合には、解除権が否定される旨の判断を行った最高裁判例があること【※1】、墳墓を不用意に撤去すると、刑法上の犯罪に問われる可能性もあること(刑法189条)等を踏まえますと、破産管財人としても、使用者の権利をできる限り保護すべく、墓地使用の継続を前提とした方向性で破産手続が進行していくものと考えられます。【※2】

ただし、上記はあくまで一般論ではありますので、個別の事件における破産手続の進行に関しては、債権者集会等で質問等を行い、逐一確認しておくことが確実でしょう。

墓地の経営主体が墓地の経営を取りやめる場合

まず、墓地を経営(運営)しようとする者は、都道府県知事による許可を受けなければなりません(墓地、埋葬等に関する法律(以下「墓埋法」といいます)10条1項)。

それと同様に、墓地を経営する者が経営を取りやめる(廃止する)場合にも、都道府県知事による許可が必要と定められています(墓埋法10条2項)。

そして、この廃止の許可については、原則として「当該墓地に埋葬された死体又は埋蔵された焼骨の改葬がすべて完了した後」に行うべきとされています【※3】。

改葬とは「お墓に埋葬した遺体や、埋蔵・収蔵した遺骨の全部を他のお墓に移すこと」をいい(墓埋法2条3項)、改葬を行うためには、市町村長の許可が必要となっております(墓埋法5条1項)。

 すなわち、墓地の経営を取りやめるためには

 ①改葬の許可を取る(墓地使用者→市町村長)
 ②廃止の許可を取る(墓地経営者→対都道府県知事)

という2段階の許可が必要となります。従いまして、墓地使用者の承諾なく、無断で墓地の経営を取りやめるということは原則としてありませんので、ご安心ください。【※4】

しかし、墓地経営者から、墓地使用者に対して改葬を承諾すべきことを求める訴訟が提起され、請求が認容された場合、墓地経営者は、その裁判の謄本を添付することで、改葬の許可を受けることができると定められておりますので、この点には注意が必要です(墓埋法施行規則2条2項2号)。

おわりに

ここまで、墓地の経営主体に問題が生じた場合についての墓地(お墓)の取り扱いについて説明してきました。墓地(お墓)の持つ特殊な性質から、通常の場合とは異なり、簡単にはお墓がなくなってしまうという事態はないように法的な解釈がなされております。

しかし、自分の購入したお墓や、先祖代々のお墓がある霊園の経営状態が悪くなった場合に、別のところにお墓を移すべきか(改葬すべきか)否か、という選択は、なかなか自分一人では結論を出しにくいものではあります。

また、別の記事で説明する予定ですが、お墓を移す(改骨)場合の手続も法的な規制が存在し、行政の許可を取得する必要があるため、一筋縄ではいきません。

ですので、「霊園の経営状態が怪しいが、何とかしてお墓を守りたい」と思った方は、早めに弁護士に相談し、対応を協議するべきでしょう。

※1 最判平成12年2月29日判タ1026号110頁。事案としては、会員制ゴルフクラブの会員の破産に関して、ゴルフクラブの会員契約を解除し、経営会社に預託金の返還を請求することで、相手方(経営会社)に著しく不公平な状況が生じるとして、破産管財人による会員契約の解除を否定した、というものです。

※2 なお、お墓(墓地)を継続して使用することが可能となった場合でも、経営主体(から運営を引き継いだ買受人)から使用料(管理料)の値上げが請求される場合がございます。墓地の使用料については、(管理料に関する改訂条項の有無にかかわらず)公平の観点から、経済情勢の変動に応じて改定を行うことが可能であると考えられておりますので、相当額についての値上げであれば応じなければなりません。

仮に値上げに関しての協議が整わない場合には、民事調停や裁判等の手段を用いて、相当な賃料額を確定することも可能です。

※3 通知番号(46)「墓地,埋葬等に関する法律の疑義について」参照

※4 改葬の許可申請については、墓地使用者以外の者が行うことも可能ですが、その場合、墓地使用者による、改葬に関しての承諾書が必要となります(墓埋法施行規則2条2項2号)。

使用者以外の者が行うことも可能ですが、その場合、墓地使用者による、改葬に関しての承諾書が必要となります(墓埋法施行規則2条2項2号)。

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