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遺品整理業特有のクレームとその対策【弁護士が解説】

~遺品整理業特有のクレームとその対策~

はじめに

前回の記事では、一般的なクレーム対応の重要性とその対応の基礎について説明しました。

しかし、クレーム対応については、その業種特有のクレーム要因が存在し、また、それを意識したうえでクレーム対策を行うことが最も重要です。

そこで、今回は遺品整理業特有のクレーム例を紹介するとともに、これらのクレームに関する対策方法について説明していきたいと思います。

遺品整理業におけるクレーム要因

遺品整理業特有のクレームを知るためには、まずは遺品整理業特有の「クレーム要因」を知ることが重要となります。遺品整理業特有の「クレーム要因」としては以下のようなものが挙げられます。

遺品整理業が発展途上の業界であること

遺品整理業が発展途上の業界である、ということは、「遺品整理業」とい うものが何を指すか、という点に関して、利用するお客様の方が固まった理解を有していない、ということです。

また、お客様の認識だけでなく、遺品整理業内においても「遺品整理業」というものの定義について、統一的な理解があるとまではいえません。

遺品整理士認定協会等、業界団体の尽力はありますが、遺品整業務に関しての統一的なルール作りが整備・徹底されているわけではありません。

遺品整理業に関する法整備が未成熟であること

2.1 遺品整理業が発展途上の業界であることでも触れたように、遺品整理業自体が発展途上の業界です。それに伴って、法整備も未成熟です。

別の記事(「遺品整理業の概要」 )でも触れましたが、遺品整理業を始めるにあたって、必須となる資格はありません。

しかし、実際に遺品整理業務を進めるためには、様々な資格取得が要求されます(一般廃棄物収集運搬業許可・古物商等)。

ただ、現状では新規取得が困難な資格・許可も存在します。(例えば、一般廃棄物収集運搬業許可は、自治体の多くが、新規業者に対しては許可を出さない旨の運用を行っています)

以上のような状況から、業務を進めるためには、業者自身の資格取得及び有資格者との連携が必要となります。その関係で、場合によっては一部の業務を請け負えない場合もあります。

請け負う業務の内容を特定しにくいこと

2.1 遺品整理業が発展途上の業界であることでも説明したように、遺品整理業というものに関する共通認識をお客様が有しているわけではありません。

特に、業務のうち、お客様から見えにくい部分(例えば、「処分する」となった物品の処分(もしくは売却等)に要する費用等)に関しての理解を得にくい、という部分はどうしてもあります。

個々の業務内容の業務量に関しても、実際の部屋の状況や遺品の多さ、種類により様々です。

業務内容の全容につき、事前見積もりから正確に予測するのも難しい部分があります。

料金や業務期間に関して認識の齟齬が生じやすいこと

お客様からは「遺品整理業」は難しいものではないという認識を抱かれがちです(端的に言えば「引っ越し作業の延長」と捉えられたりする等)。

しかしながら、実際の遺品整理業務は多岐に渡ります(「遺品整理の概要」参照)

また、遺品整理業が多岐に渡ることに伴い、要する費用についても様々です(人件費や輸送費だけでなく、不要物の処分(委託)費用や保管費用等)。

部屋の状況によって、料金や業務日数に関しても大きな差が生じます

業界自体が発展途上であるため、統一的な相場が形成されておらず、業者により提示する料金・日数に差が大きく生じていることも要因の一つです。

遺品整理によって、遺産分割等の親族間トラブルに巻き込まれるおそれがある

遺品整理の対象となる遺品は、原則としては「相続人全員の共有」です(民法898条)。しかし実際には、相続人の一部(賃貸物件の場合は、オーナー)により依頼がなされるケースが多いです。

そして、業務の性質上、遺品整理は依頼者から迅速な処理を要求されることが多いです。

結果として、他の相続人の意向をきちんと確認しないまま業務を進めることにより、思わぬリスクが生じることもあります。

依頼者の意向≠他の相続人の意向となっていることも十分にあり得ます。

遺品整理業における具体的なクレーム例及びその対策

 2 遺品整理業におけるクレーム要因で、遺品整理業特有のクレーム要因について説明しましたが、こちらを踏まえたうえで、具体的なクレーム例と対策方法について、その一部を紹介します。

【クレーム例その1】(原因①、②)
✔️ 『不用品のリサイクルを行ってくれないのはなぜか』
✔️ 『リサイクルの買い取り費用が思っていたよりも安すぎる』

【対策】

不用品のリサイクル(買取)に関して、業務範囲に含まれているか否かを事前にきちんと説明する。
→行わない理由として、「遺品(不用品)の売却には一定の資格(古物商営業許可)が必要」という説明をすることで納得は得られやすいです。

リサイクルについて業務範囲内に含むとしても、業者自身としてどこまで行うか(自己買取りでなく、外部委託である場合には、その旨)を説明する。
→外部委託の場合には、買取価格については保証しかねる旨の説明を行い、同意を得る(同意書を取るとなお良いでしょう)。

ある程度の見積もりを出し、売却前に還元する(相当額につき料金から値引きする等)場合には、「売却価格より高額となっても異議を述べない」旨の同意書を必ず取得しておく。


【クレーム例その2】(原因③、④)
✔️ 『遺品整理の業務期間が長すぎる、もっと短くならないのか』
※遺族が遠隔地在住で、立会期間が限定される場合に特に問題となります

【対策】

1.ある程度の所要時間の相場(部屋の広さ、所要時間等)につき、依頼の相談時に事前に伝えておく。

2.立会いを遺品の仕分け時に限定する。
(事前に室内への立ち入り許可等を書面にて取得する等)

3.(一般廃棄物の運搬を外部委託等している場合)委託業者の都合もあり、即日対応が難しいことなどを説明する。


【クレーム例その3】(原因③、④)
『思っていたよりも料金が高すぎる、何とかならないのか』

 【対策】

事前に見積書を作成し、金額算定の根拠(物品の概ねの数量や必要人員、運搬用のトラックの大きさ、所要日数、処分費用(特に家電)等)を記載しておく。
→「見積もり時の想定と大幅に作業量にズレが生じた場合には、追加費用を徴収する」旨を見積書等に明記しておく。(追加費用徴収の基準(作業人員の追加や、追加の運搬業者が必要な場合)をwebサイト等で事前に公開しておくとなお良いでしょう)

過去手がけた事例を「家の広さ」「物の多さ」「依頼した業務内容」等の基準で類型化し、その際の費用と業務量をwebサイト上にて公開し、お客様と費用感を共有できるようにする。


【クレーム例その4】(原因④、⑤)
『遺品整理において処分してほしくないものまで処分されてしまった』

 【対策】

1. 事前に「処分すべきもの」「処分すべきでないもの」を物品の種類ごとに分けて十分なヒアリングを行い、「衣服」「書籍」等だけでなく、ある程度個々に遺品を特定できる表記でチェックリストを作成する。
→物品が多い場合には、種別ごとに固めたうえで明記する(「『○○』との記載のある段ボール内に所在する衣服一式」)といった書き方も考えられます。

2. 遺品の整理(仕分け)段階で、依頼者自身にチェックを行ってもらうようにする。
(このとき、チェック後にチェックリスト等に署名押印等を頂いておく)

3. 怪しいもの・金銭的価値になりそうなものは基本的に残す。。

※ 特に、遺言等が入っていると疑われるものに関しては、開封するとその有効性に疑義が生じる可能性があります(自筆証書遺言に関しては、開封の際に検認手続を経る必要があります:民法1004条1・3項)。

したがいまして、遺言が入っている可能性がある手紙等に関しては、業者側で不用意に開けず、必ず未開封の状態で依頼者に渡すようにしましょう(これは依頼者に「開封し、中身を確認してください」と要望された場合であっても同様です)。


【クレーム例その5】(原因④、⑤)
(不用品に関して)『処分してほしいとの要望を出しているのに、なぜ処分してくれないのか』

 【対策】

1. 遺品の種類によっては、処分(取外し)に一定の資格を有するもの(ガスエアコン等)もあるので、そのような遺品は処分できない旨説明→この点に関し、事前の見積もり時にお伝え出来ればベストです。

2. 遺品のうち、高額な金銭的価値のあるものに関しては、依頼者が処分を要望した場合であっても、処分せず遺族らに処分を任せる。
→依頼者当人が処分(もしくは買取)を要望しても、他の相続人が処分を望まない場合もあるためです

まとめ

遺品整理業におけるクレーム例とその対策について、その一部につき以上のとおり紹介しました。最後に、遺品整理業に関するクレーム対応について、まとめを行いたいと思います。

遺品整理業におけるクレームの原因は、以下の2点に集約されます。

業務自体に関するお客様の理解の乏しさ

遺品整理業者とお客様の共通認識の不存在

一般的に、クレーム対策としては「説明と合意」を徹底することが重要であるが、遺品整理業においては、「お客様は遺品整理業については何も知らない」ということを念頭におき、この点を特に徹底することが何よりも重要です。

✔️「説明と合意」の個々の過程において、面倒でも書面(同意書等)を取っておくことが、後々のトラブルに巻き込まれるのを防ぐことができます。

✔️説明と合意の結果、納得に至らない場合には、勇気をもって請け負うことを断るのも重要です。(安請け合いは更なる被害を招く)

✔️契約書、見積書の作成は必須。特に、見積書をどの程度きちんと作成できるかは非常に重要です。

まとめとしては以上となります。すべてを事業者の方々で行うことは大変な手間ですので、書面関係の整備等に関し、専門家としての弁護士を利用することも一度ご検討ください。


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