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【弁護士が解説】遺品整理業に対する法規制とは

はじめに

近年、高齢化社会の進展に伴い、終活関連の事業が急速に成長しております。

その中でも、故人が所有していた遺品の整理等を相続人に代わって代行する業務、いわゆる「遺品整理業」という仕事がにわかに注目を浴びています。

遺品整理業に関しては、特別な設備等をそれほど必要とせず、オフィス等を大々的に設ける必要もないことから初期投資が小さく済むことが多いこと、

業務自体の実施には資格を要しないこと等の理由から、新規参入した、もしくは新規参入を考えていられる業者の方々が急速に増えてきています。

ただ、一口に「遺品整理業」と言っても、実際にはいろいろな業務を行うこととなります。それに伴い、様々な法規制が業務に関係してくることとなります。

この点を意識しないまま安易に業務を始めてしまうと、営業停止命令が下される等の、思わぬ損害が生じる可能性があります。

そこで、遺品整理事業への参入を考えている方々や、現在業務を営んでいるが、法律面のカバーについて少し不安が残ると感じている方々へ「遺品整理業」というものがそもそもどのような業務なのか、という事を概観した上で、「遺品整理業」に対する法規制について説明していきたいと思います。

「遺品整理業」とは

現在各業者にて行われている「遺品整理」サービスの内容は様々ではございますが、共通する部分を抽出すると「遺品整理業」の中心は、下記の5つの業務[1]によって構成されているのではないかと考えられます。

①形見(遺族が保管する物品)と処分する物品の分別(遺品の分類)

②処分する物品のうち、売却可能な物の売却(もしくは、業者による自己買取)

③処分する物品のうち、②以外の物の物品の廃棄・処理(その委託)

④形見の引渡し・部屋の清掃

⑤(業者が自己買取した物品のうち)不要な物品の処分

これらの5つの業務について、どのような法規制が考えられるのか、以下で説明していきます。

「遺品整理業」に関わる法規制

2 「遺品整理業」とはで、「遺品整理業」が上記①~⑤の業務に分類できるとのお話をいたしました。これらのうち、法規制との関係で特に注意すべきなのは、②、③、⑤に関してとなります。

では、具体的にどのような形で法による規制を受けるのか、以下で説明していきます。

業務②(物品の売却・自己買取)に関して

遺品の内、売却可能な物品については、法律上「古物」として扱われることになります(古物営業法2条1項)。

そして、「古物」を(委託を受けて)売買する際には、営業所が所在する都道府県の公安委員会の許可(古物商許可)を得る必要があります(古物営業法2条2項1号、3条1項)。

「遺品整理業」において業務②を行う場合は、依頼者である相続人から委託を受け、依頼者の所有物である物品を代わりに売買することとなりますので[2]、あらかじめ上述のような許可を得ておく必要がある、ということとなります。

また、いったん依頼者から処分予定の物品を買取(自己買取)、その後業者が売却する、という形をとった場合であっても、やはり古物商許可が必要となります[3]

業務③(売却不能の物品の廃棄・処理)に関して

遺品の分類(業務①)の結果、売れない(と判断された物)で、かつ遺族が引取りを拒否した遺品を処分する場合には、これらの遺品は家庭系の一般廃棄物に該当することとなります。

そして、家庭系の一般廃棄物を関しては、収集・運搬を事業者が業務の一環として行う場合には、その業務を行う市区町村の許可(一般廃棄物収集運搬業許可)を受ける必要があります(廃棄物処理法7条1項本文)[4]

上述したように、遺品整理業を行うにあたっては、一般廃棄物収集運搬業許可を得る必要がありますが、

当該許可に関しては、市町村の裁量が大きいため、新規許可が出にくいところや、許可が出るにしても費目が限定される等、取得がやや難しい場合もございます。

そのため、一般廃棄物の収集・運搬に関しては、許可を持つ別の業者にお願いする、という手法も考えられます。

しかしながら、廃棄物処理法上の「収集」「運搬」の定義を踏まえますと、遺品整理を行う業者が、遺品整理を行う居宅から一歩出て家庭系一般廃棄物となった遺品を運んだ時点[5]で「収集」となり、廃棄物処理法違反となり得ます。

したがって、居宅内で「廃棄物」に該当するか否か、すなわち遺品の分類と、依頼者から引取拒否とされたもののうち、売却可能か否かの判別を行う必要があるのですが、現実的にはなかなか難しいといえるでしょう。

したがって、遺品整理業を手掛けるにあたっては、一般廃棄物収集運搬業許可を取得しておくのは必須になるかと思われます。

業務⑤(自己買取り物品のうちの不用品の処分)に関して

業務②で自己買取を行った上で遺品を売却した場合に手元に残った遺品を処分する場合は、これらの遺品は事業系の一般廃棄物となります。

事業系の一般廃棄物に関しては、業者が自ら適正に処理する必要があります(廃棄物処理法3条1項)。

法律上の定めとしては上記のとおりですが、実際には、中小規模事業者のために、多くの自治体が事業系一般廃棄物に関しても、収集・処理を実施しています(実際に業務を行う予定の自治体がどのような扱いをしているのかは、きちんと確認してください)。

ちなみに、事業系一般廃棄物の収集・処理に関しては、別途手数料を徴収している自治体が多くみられます。

なお、処分する物品の中に、いわゆる法律上の産業廃棄物(廃棄物処理法2条4項)に該当する物がある場合には、処理(委託する場合も含む)に関して、法律上厳格なルールが課されており、それを遵守する必要もございます。

参照廃棄物処理業者に処分を委託する場合も、最終的に処分に至るまでその進捗状況を適宜確認し、処分がきちんと行われるために適正な措置を行う努力義務も課されるのです(廃棄物処理法12条7項)。

おわりに

ここまで、「遺品整理業」というものがそもそもどのような業務で構成されているのか、という点を概観した上で、各業務ごとにどのような法規制を受けるのか、という点について説明しました。

「遺品整理業」が新しい業態であることから、現時点でこの業務自体を規制する法律はないのですが、説明したように、実際に業務を進めるにあたっては、様々な法規制に服しておりますし、また取得すべき許可も様々です。

上述の許可の取得に関しては、必要書類の作成・準備や提出先の調査・行政との折衝等を考えると、ご自身の力だけで行うことはなかなか難しいものがあります。

「遺品整理業」というものがまだまだ新しい業務形態であり、行政側の対応も定まりきっていない現状においては、専門家である弁護士にお早めにご相談することを強くお勧めいたします。


脚注

[1]  阿部鋼「遺品整理コンプライアンス~違法行為をしないために~」(クリエイト日報出版部・2015)10頁参照

[2]  委託による売買の形を取る場合には、売買に関しての委任状を取得する必要があるので、その点に注意

[3]  警視庁HP「古物営業法の解説等 許可・届出の要否の確認」(下記URL)参照

https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/tetsuzuki/kobutsu/kaisetsu/kakunin.html

[4]  なお、一般廃棄物収集運搬業許可が不要の例外として、以下のような定めが存在する

  ・専ら再生利用の目的となる一般物(廃棄物処理法7条1項本文但書)

  ・引越荷物運送業者に対する例外規定(廃棄物処理法施行規則2条10号)

  ・家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)

  ・小型家電リサイクル法(使用済み小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律)

[5] 正確には「居宅の敷地境界線を越えて一般廃棄物を運び出した時点」

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