遺品整理の依頼者をどう見つけるのか?〜相続人の確定・調査〜
はじめに
あらかじめ本人が生前に死後事務委任契約を締結しているような特殊な場合を除いて、遺品整理業の依頼は、実際に居住される方が亡くなってから受けることとなります。
このような場合に、実際にどのような方々が依頼者になるのか、依頼者となり得る人の居場所をどのように探すのか、という点について、今回は説明していこうと思います。
遺品整理業の依頼者について
遺品整理業がどのようなものかにつきましては、別の記事(「遺品整理業の概要」)で詳しく紹介してありますが、遺品整理業を行う際には、基本的に遺品の処分を伴います。
そして、人(被相続人)が死亡した時点で相続が開始し(民法882条)、被相続人の財産に属していた一切の権利義務を相続人が承継することになりますので(民法896条)、遺品の所有権等については相続人が承継することとなります。
また、相続人が複数いると、相続財産は共有となります(民法898条)。この場合に、遺産分割手続[1]がなされると、遺品は特定の人物に帰属することとなります。
したがいまして、遺品整理業の依頼者(契約の締結当事者)としては、以下のとおりとなります。
(ア)遺産分割手続が終了している場合
分割手続により遺品の帰属先に指定された者(複数人の場合もある)
(イ)遺産分割手続が終了していない場合
相続人全員[2]
(ア)の場合はともかく、(イ)の場合ですと、相続人全員を契約当事者としなければ、遺品整理契約を適法に締結することができず、遺品整理業を行うことができません。
すなわち、遺品整理業を行うにあたって、相続人を見つけ出すことが仕事の前提として重要となります。
相続人の探し方
それでは、どのようにして相続人全員を探すのでしょうか。
ア: 相続人を探すにあたっては、相続人が誰かを確定する必要があります。
このためには、まず「被相続人の戸籍を取得する」こととなります。これに関しては、被相続人の出生から死亡までの全戸籍を取得する必要があります。
また、戸籍「謄本」を取得するようにしてください(戸籍「抄本」ですと、戸籍に記載された一部の方の情報しか記載されておらず、相続人を確定することができません)。
このように、被相続人の死亡から出生までの戸籍を遡って相続人を確定することとなるのですが、これのみでは相続人を確定できません。
なぜなら、戸籍上相続人に該当する場合であっても、以下の2つに該当する場合には、その人物は相続人に当たらないからです。
相続欠格に該当する者(民法891条)
相続放棄を行った者(民法938条)
ですので、戸籍上相続人に該当する人物が、以上の2点について該当しないか確かめる必要があります。
①については、法定の欠格事由が、殺人や相続に関する文書偽造・詐欺等重大な犯罪についてのものですので、他の相続人等に聞き込みを行うことで明らかになる場合が多いかと思われます。
②については、放棄した本人に聞き込みを行うほか、家庭裁判所に確認する方法がございます。
他の相続人や相続債権者等の利害関係人(もしくは、その委任を受けた弁護士等)であれば、被相続人が死亡した場所を管轄する家庭裁判所に照会をかけることで、戸籍上相続人に該当する人物が、相続放棄をしたか否かを確認することができます。
イ: 上記のような手続を経て、相続人が確定した場合には、次は各相続人の住所を調べる必要がございます。
そのための方法として、戸籍の「附票」というものを取得する必要があります。こちらには、相続人の現住所が記載されております。
このように、相続人の確定→住所の調査という流れを経て、各相続人に対し、文書等を送付し、意向を確認する、という方法が、遺品整理を行う前に必要となります。
ウ: 相続人の調査・確定に関する手続をきちんとしないまま、相続人の一部と安易に契約を締結し、遺品整理を行ってしまうと、後々の相続トラブルに巻き込まれてしまう危険性が大きいですので、遺品整理業を営む皆様におかれましては、依頼者と契約を締結する前に、以下の2点についてきちんと確認を取るようにして頂ければと思います。
● 遺産分割手続が終了しているか(遺産分割協議書等を見せてもらい確認)
● 遺産分割手続が終了していない場合は、相続人の所在が確定しており、全員の意思が一致しているか
最終的には皆さま方の判断によるところとはなりますが、後々のトラブルを防ぐべく「遺産分割協議が終了していること」を遺品整理業の請負条件として設けるという考え方もあるかもしれません。
おわりに
今回は、遺品整理業を行う前提となる「依頼者」とは誰か、「依頼者」をどのように探すのか、という点について説明しました。
今回説明した手続に必要な資料については、相続人自身でも取得することができますので、遺品整理業者から相続人に自前で用意してもらうよう働きかけることも可能ではあります。
しかしながら、相続人の確定・調査にはそれなりの手間がかかり、古い戸籍に関しては、記載内容を読むのに一定のコツを要することから、当事者限りで行うよりも、早めに弁護士に相談し、依頼を行った方が良いかと思います
(相続人の確定・調査にとどまらず、相続全般に関しても問題が生じる場合が多々ありますので、その場合の対応も含めると、当初から弁護士に相談しておくと話がスムーズに進むかと思います)。
遺品整理業者の皆様におかれましても、遺品整理の依頼者について「どうも相続関連の手続きがきちんとなされていない」という印象を持たれた場合には、契約締結の前に弁護士に相談することをお勧めします。
補足:相続人の連絡先が分からない、もしくは相続人がいない場合の対応
例えば、「戸籍の附票に記載された住所に相続人が現在居住しておらず、そこに戻ってくる可能性もない」といったような、相続人に対しての連絡手段がない場合には、不在者に関して財産管理人を置くように家庭裁判所に請求し(民法25条1項)、財産管理人に相続した遺品に関する遺品整理契約を締結してもらうことが法律上考えられます。
また、相続人が不在であることが確定した場合も、同様に被相続人の財産管理人を家庭裁判所に請求の上選任してもらい(民法952条1項)、財産管理人に遺品整理の契約を締結してもらう事が法律上可能です。
しかしながら、以上の2つの方法については、あくまで「法律上可能」というだけで、実際の方法としては現実的ではございません。
なぜなら、財産管理人の選任については、相当の手間と費用を要する上、法律上の「不在者」に該当すること、もしくは「相続人が存在しない」ことを立証することは非常に大変であるからです。
したがいまして、このようなことが起こらないように、遺品業者としては「生前に『自身の死後、遺品整理を委託する旨の契約をあらかじめ締結しておく[4]」といった方法が考えられます。
脚注
[1] 遺産分割手続としては、法律上以下の3つの方法が定められている。
- 遺言による分割方法の指定(指定分割:民法908条)
- 共同相続人間の協議による分割(協議分割:民法907条1項)
- 家庭裁判所による分割(審判分割:民法907条2項)
[2] なお、相続人全員が、特定の相続人に対し「遺品の処分を一任する」旨の委任状を作成している場合には、特定の相続人のみを契約当事者とすることは可能であるが、単に「遺品」とすると範囲が大きすぎるので、「被相続人が死亡時に居住していた場所に所在する遺品の一切」といった形で、ある程度の限定をかける必要はあるかと思われる。
[3] こちらについては、家庭裁判所に申述した上で行う「法律上の相続放棄」に関してのものである。単に「財産を承継しない」と親族間で意思表示した場合には、以前として相続人ではあるので、注意が必要(特に、相続放棄をしたか否か本人に確認する際)。
[4] このような契約(いわゆる死後事務委任契約)については、その有効性について議論がありますが、それに関しては別の記事にて紹介します。