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墓地寺院法務研究会

生前に遺品整理をお願いしておくことは可能なのか?~遺品整理に関する遺言や死後事務委任契約の有効性~

はじめに

   別の記事(「遺品整理の依頼者をどう見つけるのか?」)でも説明したように、遺品整理を実際に受ける場合には、相続人間の遺産分割が終了するのを待ってからが原則となります。

しかしながら、遺品整理に関しては、一般的に亡くなられた後それほど日を置かずに行われることが通常です。

また、賃貸物件等に居住している場合などは、さらに急を要することがございます。

 以上を踏まえますと、遺品整理のニーズとして、生前に遺品整理のご依頼を本人から頂き、本人が実際に亡くなられた後は、そのご依頼に基づいて遺品整理を実行すれば良いのではないか、という考え方が出てくるのはいたって自然なことであります。

 しかしながら、生前の本人のお願いに基づき、遺品整理を実行することが法的に問題ないのか、依頼をする側及び依頼を受ける側の双方で不安に感じられる方もいるかと思いますので、今回は、その点について解説していきます。

生前に死後の遺品整理をお願いする方法

①遺言

 皆様が自身の死後のことについて、まず思い浮かべられるものといたしましては、遺言を作成し、死後の遺品整理について記載しておく、ということが考えられます。

②死後事務委任契約

 死後事務契約とは「委任者が受任者に対し、自己の死後の事務(葬儀・埋葬に関するものが典型例です)について、生前に委任をする契約」です。

形式面等について様々な定めがある遺言と比べ簡易に締結することが可能なものであり、近年このような契約を締結する人も増えてきております。

生前に、遺品整理業者もしくは特定の親族との間で、遺品整理に関する死後事務委任契約を締結しておく、ということは一つの手法として考えられます。

生前に遺品整理をお願いする方法として考えられる方法としては、以下の方法があります。この両者について、どのような点に注意すべきか、どちらの方法を取るべきか、ということにつきまして、以下で説明していきます。

遺言に関しての注意点

 遺言の形式で生前に遺品整理について定めておくことにつきましては、以下のような注意点がございます。

(ア)要式面について厳格な定めがある

遺言は、「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」(民法960条)と明記されており、法律が定める要式を満たさなければ、効力が生じません。法律上定められている遺言の方式としては

●自筆証書遺言

●秘密証書遺言

●公正証書遺言

の3つがありますが、このうち、最も簡易であり、自分限りで行う事のできる自筆証書遺言であっても、

・遺言者(遺言を残す人)が、その全文、日付、氏名を自書し、押印する必要がある(パソコン等による作成は不可)[1]

・遺言の内容を変更する場合には、変更箇所を指示し、これを変更した旨を付記し、さらにこれに署名し、かつその変更場所に押印する必要がある。

といった、厳格な定めがあります(民法968条1・3項)。

(イ)遺言において遺品整理に関する事項を記載しても、法的効力が認められない可能性が高い

一般的なイメージと異なり、遺言というものは、要式面を遵守したうえで、一度作成すれば記載した事項全てについて効力が生じるわけではなく、法律で定められた事項(法定事項)に関する遺言のみ効力が生じるものとされています。

これは、遺言というものは、遺言者の死亡後に、遺言者の一方的な意思表示のみでその効力を生じさせるものであり、遺言の内容が親族をはじめ、様々な影響を与える可能性がありますので、遺言によって効力が生じる範囲を明確にし、後日の紛争を予防するためです。

そして、遺言の法定事項については、財産の処分に関する方法や相続先の指定等をはじめとする事項が定められているのですが、

「遺品整理」については、別の記事(「遺品整理業の概要」)でも解説したように、様々な法的性質を有するものでありまして、

必ずしも遺言の法定事項の範囲に収まるものではございません。

すなわち、遺言で遺品整理に関する事項を記載していたとしても、法的効力を有するわけではなく、あくまで事実上の拘束力を有することにすぎない、ということになります[2]

死後事務委任契約に関する注意点

 自身の遺品整理について、生前に死後事務委任契約を締結することにつきましては、以下のような注意点がございます。

(ア)契約の定め方によっては、相続人によって契約を解除される可能性がある

 民法上、(準)委任契約[3]に関しては、当事者の一方が死亡した場合には、契約自体が終了するとの定めがございます(民法653条第1号、民放656条)。

しかしながら、この規程は任意規定(当事者間で別の定めをした場合には、適用されないものとする規定)ですので、当事者間で死亡後に委任の効力を生じさせる旨合意すれば問題はございません。

 しかしながら、死亡後も(準)委任契約が終了しないとしても、委任者の死亡によって、当事者としての地位は(特段の指定がなければ)相続人が承継することとなります。

そして、委任契約は原則としていつでも各当事者からの解除が可能です(民法651条)。

したがって、せっかく死後事務委任契約を締結したとしても、相続人によって解除される可能性があり、そうなってしまうと、せっかく死後事務委任契約を締結したとしても、あまり意味がないようにも思えます。

 しかしながら、死後事務委任契約の相続人に対する解除の可否について判断した以下の裁判例においては、死亡しても契約が有効であることを前提に、特段の事情がない限り、死後事務委任契約を解除終了させることは許されない、と判断しました。

※東京高裁平成21年12月21日判決

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

「…本来、委任契約は特段の合意がない限り、委任者の死亡により終了する(民法六五三条一号)のであるが、委任者が、受任者に対し、入院中の諸費用の病院への支払、自己の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払、入院中に世話になった家政婦や友人に対する応分の謝礼金の支払を依頼するなど、

委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者の死亡によっても当然に同契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨と解される

(最高裁平成四年(オ)第六七号同年九月二二日第三小法廷判決・金融法務事情一三五八号五五頁参照)。

さらに、委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者は、自己の死亡後に契約に従って事務が履行がされることを想定して契約を締結しているのであるから、

その契約内容が不明確又は実現困難であったり、委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である。」

以上のように、基本的には、死後事務委任契約を締結しても、死後契約が終了したり、解除されたりする可能性は低いといえるでしょう。ただし、引用裁判例中にもある「特段の事情」というものが何を指すのか、という点につきましては、まだ裁判例も集積されず、不明確な部分が多いですので、「特段の事情」が認められないよう、契約内容については注意を払いましょう。

(イ)遺言と死後事務委任契約が抵触した場合の効力が不明確である

 遺品整理ついて生前にお願いするような方々は、自身の死後に手間や問題が生じないよう、親族や関係者等に対してきちんとした配慮ができる人物であると思いますので、併せて、相続財産に関する遺言等もきちんと作成されていることが多いでしょう。

 ただ、そのような場合に注意してほしいのは、遺言との抵触関係についてです。

例えば、遺言で「室内の物はすべて○○に相続させる」といった文言が定められた一方で、遺品整理に関する死後事務委任契約を締結してしまうと、遺品整理の結果売却・廃棄される物品について抵触が生じてしまうことになります。

このような場合に、両者の効力がどのようになるかについて明確に定められてはおりませんが、法律上、死後の財産の処分に関しては、原則として遺言による処分を想定していることを考えますと、

遺言が死後事務委任契約に優先する結果となり、場合によっては、死後事務委任契約自体の効力が無効となる可能性も否定できません。

 このような事態を防ぐためには、死後事務委任契約の中で「遺言に別段の定めがある場合には遺言による」といった条項を記載し、遺言を優先することを明記しておく等の手法が考えられますが、その場合であっても、遺品整理の業務が遺言と抵触する場合には、一部業務が履行できない、というお話になりますので、慎重な考慮が必要です。

おわりに

 ここまで、生前に遺品整理に関する依頼を行う手法と、その有効性について説明してきました。遺言の場合には効力自体に疑義があることを踏まえますと、生前に遺品整理をお願いする方法としては、死後事務委任契約の方法によることが適切といえるでしょう。

 しかしながら、既に説明したように、遺言と死後事務委任契約の抵触という問題については、現行の法律では解決されておりません。

この問題が発生しないようにするためには、遺言と遺品整理に関する死後事務委任契約の両者の調整が必要となりますが、依頼を検討している高齢者の方が、そのすべてを行うのは難しいですし、

依頼を受ける側である遺品整理業者としても、プライバシーの観点から、依頼者の遺言の作成の有無やその内容を聞き出したり、見せてもらうことは現実的に不可能といえるでしょう。

 そこで、生前に遺品整理を依頼を検討している高齢者の方や、生前時点で依頼を受けるスキーム構築を検討している遺品整理業者の方々につきましては、まずは一度、弁護士に相談することをお勧めいたします。


脚注

[1]  なお、民法改正により、自筆証書遺言においても、相続財産の目録に関しては、自書であることを必ずしも要求されないようになった(民法968条2項)。

[2] なお、遺言の執行について遺言執行者を定めた場合においても、遺言執行者が執行義務を負う「遺言」とは、あくまで遺言の法定事項に関するものに限られるため、遺言に死後事務(遺品整理)に関する記載があった場合であっても、遺言執行者が遺品整理等に関する事項を遺言として執行することはできない(片岡武ほか「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務(第2版)」(日本加除出版・2014)

[3] 遺品整理契約は、事実行為を目的とする準委任契約としての性質(遺品を古物か廃棄物に判断する行為)と法律行為目的とする委任契約としての性質(相続人の代わりに古物を売却・処分等する行為)を併せ持つ。

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