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旅館業法改正〜上乗せ条例は「法律の範囲内」といえるのか?|民泊・マンスリーの法律相談

2017年12月8日に改正旅館業法が成立し、それに伴い旅館業法施行令なども改正され、2018年6月15日より施行されました。

大きな改正点の中には、

  • ホテル業と旅館業との区別をなくして、ホテル・旅館業としたこと
  • それまでのホテル○室、旅館○室必要というの客室制限をなくしたこと

があります。

すなわち、従来であれば、一定の件数がなければホテル・旅館業を展開することができなかったところ、今回の法改正により、1室からでもホテル・旅館業を営むことができることになりました。

このような話をセミナーですると、よく不動産業の方から、

「いや、一室で旅館業やホテル業ができるといっても、50室くらいはないと、ホテル・旅館業は採算が取れないですよ」

と言われます。

仰るとおりで、ホテル・旅館業では、フロントと従業員の施設内常駐要件があり、その人件費を考えると一室では難しいと言われています。

それに加えて、小規模な施設で旅館業を行おうとすると、これまで簡易宿所などでよく問題となっていた、いわゆるトイレの設置個数の問題も生じます。

ですが、今回の法改正では、それに加えて、フロント等の要件もトイレ要件も緩和されました。(玄関帳場等の基準の緩和)

フロント設置については、「厚生労働省令で定める基準を満たす設備(ビデオカメラによる顔認証による本人確認機能等のICT設備を想定)を、玄関帳場等に代替する機能を有する設備として認めることとする。」とされ、ICT設備により、現実に常駐していなくてもフロント機能を果たすことで代替できる可能性が生まれました。

これまで簡易宿所などでハードルになっていたトイレ要件についても「適当な数の便所を用意すればよいこととする。」として、これまでのように各階のトイレをいくつ設置、という具体的な個数制限があったものが「適当な」という抽象的な要件に緩和されました。

「旅館業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令」について(概要)より引用

これにより、いわゆる管理事務所型(ハブ型)により、一部屋だけのホテル・旅館ができる可能性が広がりました。

つまり、各施設には管理人等が常駐していなくても、近くに(10分以内に駆けつけられる、など)、管理事務所のようなものを作り、そこから駆けつける体制を整える、このようにして、数部屋のホテル・旅館を複数設置し、中央に管理事務所を作ってフロント的機能を持たせることで、小型の旅館を点在させても収益化の可能性が生まれるようになりました。

その結果により、比較的小規模の物件を集中的に仕入れ、中央に管理事務所を置くことにより、旅館・ホテル営業を拡大しようという動きが見られました。

法改正の趣旨としては、このような動きにより、宿泊施設を拡充することを目的としていたと思われますので、まさに期待したとおり、といったところでしょうか。

しかしながら、実際には、特に、東京都内では、この小型の旅館を管理事務所型で運営するということにハードルがあり、かならずしも上手くいかないケースもあるようです。

それが「上乗せ条例」の問題です。

「上乗せ条例」というのは、法律や施行令で定まったルールを超えて、地方公共団体などが条例により、さらにルールを厳しく「上乗せ」することを指します。

国が作る法律、政府が作る政令に対し、地方公共団体がその地域の実情に照らして、条例を制定することができます。

これは憲法94条に以下のとおり定められています。

地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

憲法第九十四条

一般的に、外国人観光客の増加や多様な宿泊施設の選択肢を提供するという観点から、国は、規制緩和の方向で進んでいるといえます。

今回の旅館業法改正及び施行令改正もその枠内にあります。

国は、外国人観光客を増やしたい。

これに対して、地方自治体の立場からすると、外国人観光客が身近に増えるということについては、地域住民から不安の声が出てくることも少なくありません。

また、地元の旅館業からすると、旅館業や民泊新法による規制緩和は、競争激化の側面もあり、緩和して欲しくないと言う声も出てきます。

つまり、総論として、日本に外国人観光客が増えて経済が活性化することについては賛成するが、各論として、自分の身近なところに外国人観光客が増えてくることについては不安がある、という状況が少なくありません。

その結果として、国は規制緩和をするが、地方公共団体は条例で規制するという状況が生じるのです。

この点は、2016年、フロント設置要件が緩和された際に、その施行に伴い各自治体がフロント設置義務を課す条例を制定したようなケースが典型です。

国は緩和、地方自治体は規制です。

この傾向は、今回の旅館業法改正でも同様です。

都内の各自治体では、条例により「営業従事者が常駐できるための設備を設けること」「営業従事者が施設内で常時宿泊者を確認できること」などの上乗せルールを課すことを予定しているようです。

この常駐要件というものがハードルが高い。

せっかく一部屋単位でのホテル・旅館業が認められたとしても、その施設内に、従業者が常駐しなければならないとなると、現実的には、運営は不可能となります。

なぜなら、1室のホテル・旅館のために常時一人の従業員を貼り付けておくわけにはいかないからです。

ということで、旅館業法の規制が緩和されたとしても、このように上乗せ条例により、常駐要件を課せられてしまっては事実上、緩和された意味がない、ということになります。

私の方で顧問対応させて頂いているような会社でも、旅館業法緩和に併せて新たなビジネスチャンスとして取り組みを進めながらも、上乗せ条例の問題で対応に苦労されている方も少なくありません。

このように上乗せ条例が問題となるのですが、ここで疑問が生じます。

法改正の趣旨というか、価値を大きく損なってしまうような条例が許されるのかどうか、という問題です。

*本記事は2018年5月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
*記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。
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