建物賃貸借における借地借家法上認められている貸し方を整理できていますか?|民泊・マンスリーの法律相談
旅館業に基づく物件運用や、昨年より始まった住宅宿泊事業法(民泊)に基づく物件運用ではなく、従来からスタンダードな方法である民法と借地借家法、そして宅地建物取引業法などを考えながら、いわば伝統的な貸し方の整理を行ってみたいと思います。
伝統的といっても、例えば、「定期建物賃貸借契約」(借地借家法38条)ですが、この定期借家権のスタートは平成11年12月15日に交付された「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」であり、約20年の歴史に留まるというところになります。
そのためか、平成21年度における住宅市場動向調査では、定期借家について、「知っている」との答えは僅か24%あまり、約半数が呼称を含め「知らない」と回答しています。
この調査から更に10年経過した現在ではどうでしょうか?
オリンピックも迫っていることから、賃貸ポータルサイトなどでも見かけるようになってきたと筆者自身は思っておりますが、積極的な利用となると限定的な様子も窺われます。
一般的な賃貸とこの借地借家法上の定期建物賃貸借(以下「定期借家」と表記)の内容の違いですが、大きく4つに分けられます。
- ①契約締結方法
- ②契約期間(更新)
- ③賃料増減額
- ④中途解約
①契約締結方法
定期借家契約の場合は、書面による契約の締結が必要となります(借地借家法38条1項)。
この点に関しては、実務運用上は特段支障が無いように思われますが、
全く無関係というわけでもありません。
このように契約締結の方法について要式性が定められている場合、
締結方法は大きく3つに区分されます。
最も簡便な方法なものが諾成(口頭)での契約です。
ほとんどの契約はこの諾成契約で成立するものと考えられるため、
諾成での成立が認められる場合を無要式契約と呼んだりします。
諾成契約の利点は、成立の簡便さですが、
証拠が残りづらいというきらいがありますので、
複雑な条項を内容とする契約時においては、
諾成での契約を避けるべきでしょう。
次に書面による契約です。
原則的には諾成での契約とセットで
書面による方法が考えられることが多いです。
利点と注意点も逆になります。
契約締結において、書面であれば時間的にも書面作成にも
手間がかかりますが、裁判上の証拠や契約内容の
客観化を図りやすい媒体となっています。
そして3つ目として、近時注目されている電子による方法です。
法令上も電磁的記録などの用語が示すように、
電子的な方法を許す法令もあるところですが、
まだまだITの台頭から時間が十分でないということなどもあり、
全般的に電子処理が可能とまでは言い難い状況です。
この3つの方法を前提とすると、定期借家契約においては、
書面を法令上は求めていますが、2つの意味があることが分かります。
1つは口頭での契約排除ですが、もう1つは電子契約には
まだ対応していないということです。
このようなことから、定期借家契約においては、
書面の郵送に関する時間や費用を見込む必要があるという点がポイントになります。
他方で、郵送が不可避的に発生してしまうため、
IT重説を導入している場合における、重要事項説明書の事前送付に併せて送付すれば、
一度の郵送で、重要事項説明(IT重説)と定期借家契約関連書類の送付
を行うことができるので、IT重説を導入している場合には、
幾分かの業務効率化が図られるものと考えられます。
【宅地建物取引業法】
(重要事項の説明等)
第三十五条 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
【借地借家法法】
(定期建物賃貸借)
第三十八条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。 この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
3 建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
4 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。 ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。
5 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。 この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
6 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
7 第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない