老朽化物件を建て替えたいので賃借人への明渡を求めたい|不動産売買・賃貸借の法律相談
不動産のオーナーさんや、管理会社の方からよく寄せられる相談の一つに、老朽化物件を建て替えたいので、賃借人への明渡を求めたい、というご相談があります。
目次
基本的なルールの確認
まず賃貸人と賃借人との賃貸借契約が定期借家契約なのか、そうではない一般的な契約かの確認が必要となります。
これは契約書に、契約の更新がないことの定めがあり、なおかつ、契約の更新がなく期間の満了により当該建物の賃貸借が終了することについての書面を受け取っていると思いますので、その契約書と書面を確認すればわかります。
定期借家契約の場合には、話は単純です。契約の更新がないわけですから、契約期間が満了した場合には、明渡しを求めることができます。
たとえば、賃貸借契約の契約期間が、2020年2月末日までであれば、その日までに明渡をしてもらう必要がありますし、明渡しがなされないのであれば、建物明渡請求訴訟などで裁判により強制的に明渡しを求めることができます。
定期借家契約の場合で問題となるのは、契約書面に不備がある場合、借地借家法上38条2項により必要とされている書面交付と説明義務に不備がある場合、定期借家契約の期間が満了しているにもかかわらず、継続して建物の利用が続いているケースで、明渡しを求める場合などです。
この場合には、個別の事情により、明渡を求められるかどうかが異なります。事情を説明の上で弁護士に法律相談すべきケースといえるでしょう。
(定期建物賃貸借)
第三十八条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
3 建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
(以下略)
次に、定期借家契約ではない一般の賃貸借契約が結ばれている場合です。
こちらのケースの方が問題点は多いといえるでしょう。
まず、契約期間が満了したとしても、明渡しを求めることはできません。
ときどき一般のオーナーさんから質問を受けるのは、3年契約で契約の満了が2020年2月末日だからそこで出て行ってもらえる、と誤解されているケースです。
確かに、契約書上3年契約で、契約期間の満了が2020年2月末日と記載されていれば、契約書の文書をそのまま読めば、2020年2月末日に明渡しを求められると思ってしまうかもしれません。
しかし、結論的には、そうではありません。
2020年2月末日に明渡しを求めるためには、2020年2月末日での契約の更新を拒絶する正当な理由があることが必要です。
借地借家法28条という法律があり、解約申し入れ、更新拒絶には、法律上「正当な理由」がなければならない、というルールになっているからです。
この「正当な理由」がなければ契約の更新を拒絶することができず、契約が更新されてしまうのです。
この借地借家法28条は「強行法規」(借地借家法30条)ですので、前述の定期借家契約を結ぶ場合は別として、「賃貸借契約するときに、3年経ったら出て行くと約束していた!」とか、契約書上に「更新しない契約とする」と記載していても、これまた前述の38条2項の説明をしていない等の定期借家契約の要件(書面による契約、38条2項の書面交付と説明)が行われていなければ、契約は続くことになります。
それでは、どのような場合に、この「正当な理由」があると認められ、更新拒絶ができるのでしょうか。借地借家法上は以下のとおり記載されています。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
すなわち、
① 建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情
② 建物の賃貸借に関する従前の経過
③ 建物の利用状況及び建物の現況
④ 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
このような要素が考慮されることになります。
建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情
建物の賃貸人側がどのような事情があって明渡しを求めたいか、また、建物の賃借人がどのような事情があって建物を引き続き賃貸したいか、といった事情が考慮されます。賃貸人側としては、自らがその物件に居住したい、物件を立て替えたい、といった事情などです。賃借人側が建物を利用したい事情としては、自ら居住したい、物件で引き続き営業したい、といった事情などです。
建物の賃貸借に関する従前の経過
賃貸借契約を締結する経緯や契約内容、契約期間、賃料の支払い状況そのほかの用法遵守違反などの債務不履行やトラブルの有無などです。
建物の利用状況及び建物の現況
老朽化を理由として明渡を求める場合には、この老朽化していることはまさに「建物の現況」が明渡しを認める方向にあるということです。
建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに、建物の賃借人に対して財産上の給付を行う
いわゆる立退料といわれるもので、退去するにあたり、賃借人に対して支払う金銭的給付にあたります。
よくある相談としては、立退料の相場はどのようなものですか、といわれるケースがありますが、こちらについてはケースバイケースということになります。基本的な考え方としては、明渡して同程度の物件に移転することに伴う、賃借人側の経済的損失をカバーするだけの費用という考え方を一つの基準とすることもあります。
たとえば、店舗などであれば、その店舗が他の物件を賃貸して移動する引っ越し代金、不動産の仲介手数料、新しい物件との差額賃料、内装などの費用そして移転にかかる期間の営業利益や、移転による一時的な客払いに対する補償などです。
これらも必ずしも一つの基準であると言うだけで、その損失をカバーすれば立ち退きが認められるものではないことには注意が必要です。
高額な立退料を支払うといったとしても、そのことだけで正当事由が認められるものではないことについては注意が必要でしょう。
このあたりは、正当事由を認める他の要素の強弱やそれまでの交渉経緯そのほか一切の事情を考慮して認められるものというほかありません。
たとえば、老朽化の程度ひとつをとっても、老朽化の程度が著しく、賃貸借契約を継続すればむしろ建物が倒壊して賃借人の生命身体の安全に影響を及ぼす可能性が極めて高いような場合には、そもそも賃借人としても継続して居住し続けるのではなく、他の物件を探さなければならない状態にあるため(立ち退きが必須な状態にあるため)立退料は低く(場合によっては必要なく)なるでしょう。
では、具体的にどのような手続で進めていくべきでしょうか。
まず、状況の確認です。ときどきあるのは、長期間の賃貸借が続いている物件であると、一定期間、賃料が支払われていなかったり、長期間の建物の用法違反などが行われていたりする場合もあり、場合によっては、債務不履行解除も検討する必要があるケースもあります。
内容によっては債務不履行解除となりますし、そうでなくても従前の経過の一事情になる場合もあります。
その上で、明渡が認められる正当事由があるのかどうかの調査確認を進めます。こちらは法律的な判断が多々あるところなので、顧問弁護士等と相談しながら進めるべきものと考えられます。
そして、方針の決定です。法律的に明渡が認められる余地が低い物件なのであれば、そのような物件の明渡はあくまでも「お願い」といった形での交渉になります。
当然、避けなければならないのは、「正当事由」が認められる可能性が低く、訴訟提起するなどして強制的に明渡を求める見込みが低いのに、強固な立ち退きのための交渉を行うことです。
これでは単に、賃貸人と賃借人との関係を壊してお互い嫌な気分になるだけです。
正当な事由の中には、準備することでプラスの要素を増やすことができるものがあります。たとえば、賃借人に対して引っ越し際の物件を案内するなどです。
この場合には、賃借人の方からどうしていま現在の物件に継続して居住するメリットがあるのか、(たとえば、営業上、この場所がよいとか、子どもの通学の関係でここに居住していると便利だし転校したくない、など。)などです。
このような事情を聞き取った上で、大体物件が確保できそうかどうか、場合によっては代替物件を提案することも必要となります。
こちらは代替物件について、賃借人から断られたとしてもやむをえないところです。
そうだとしても、賃借人がその場所に居住したいという事情を確認し、その事情を踏まえた代替物件を賃貸人側で探して提供するなどの真摯な対応が重要ですし、その対応を行ったことが、後々に正当事由があることへの主張立証のために生きてくることも少なくありません。
そのほかにも、過去の事情を整理して、また、そのような事実を裏付けることができる証拠関係が存在するかどうかを確認して、正当事由が認められるかどうかを検討してきます。
最後に、賃貸人側として立退料がどの程度準備できるところなのか、するつもりがあるのかどうかについても詰めておく必要があります。
その上で、立ち退きの交渉を始めることになります。
借地借家法上、期間の定めがある場合には、期間満了の1年前から6か月前までの間に、相手方に対して更新しない旨の通知をする必要があります。
期間の定めがある場合というのは、賃貸借契約書及びその中の更新規程などで、契約期間が定まっていている場合です。
この場合には、更新拒絶ということになります。
また、期間の定めがない場合には、解約申し入れを行うことになります。
借地借家法26条1項本文により賃貸借契約が法定更新された場合には、同一条件で更新されますが、同条ただし書により期間の定めのない契約となります。
法定更新で期間の定めがない契約となっているか、自動更新規程などにより同一期間で更新されているかについては、契約書の内容を確認することになります。
立ち退き交渉についてはどのように行うか。オーナー自ら行うか、不動産管理業者が行っているケースもあるようです。
ただ、不動産業者が立ち退き交渉を行う場合に、手数料や報酬などの対価(名目の問題ではなく、交渉を行うことの対価を受け取る)場合には、非弁行為として弁護士法違反となりますので、注意が必要です。
基本的には、上記のような弁護士法との関係での適法性の問題があることや、正当事由がどのように評価されるかを考慮しながら交渉を進める必要があること、交渉といえども将来的に訴訟等へ移行した場合にはその交渉の経緯もまた裁判の中での主張立証されることがあることなどを考慮すると、弁護士に代理人として依頼すべき内容といえると思います。
(解約による建物賃貸借の終了)
第二十七条 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する。
2 前条第二項及び第三項の規定は、建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用する。
(建物賃貸借契約の更新等)
第二十六条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
3 建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。
(強行規定)
第三十条 この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
* 本記事は2019年6月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
* 記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。
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