〜不要な土地や老朽化した建物を放棄したい〜 不動産弁護士専門相談
目次
Q.不要な土地は寄付できないのか?
私たちがときどき受けるご相談として、
「不要な土地建物があるので、自治体などに「寄付」する手続をとってほしい」
というものがあります。
確かに、昨今では、空き家問題や不要土地が広がる中、将来的に固定資産税を払い続ける負担や、土地建物を管理しなければならない負担を避けたい、というのも十分に理解できる話です。
ですが、こちら一般的には、寄付を受け入れてもらうことは難しいことが多いです。
なぜなら、「もともと所有者が必要ないから寄付したい」という不動産については、自治体にとっても必要ないということが多いと思われるからです。
寄付しようとした土地が、偶然にも拡大を予定している公共用地に隣接しているとか、道路用地として利用することが予定されている場所にかかっているなどで、偶然にも自治体の利害と合致するような場合であれば別です。
しかし通常は、わざわざ固定資産税の税収がとれなくなり、管理の手間が増えるのに、不要な土地の寄付を受けるなどということは考えにくいと思われます。
Q.不要な土地だけを放棄できないか?
次に、寄付できないとすると、放棄することはできないかというのが次に受ける相談内容です。
不要なものだから放棄、つまり捨ててしまえないか、というご相談です。
ですが、こちらについても、結論としては、必要のない不動産「だけ」を放棄することができるかというと、こちらはできないと考えられています。
こちらの不動産の放棄については、現行法上、民法上の一般的な放棄規定の他に手続もなく、最高裁判決などもないものと思われます。
参考になる裁判例としては、「放棄したから土地名義を引き取ってほしい」という理由で、国と裁判した裁判があります。
(高裁での裁判例として、平成28年12月21日広島高裁松江支部判決)
こちらの裁判は、山林の所有者が、国に対して訴訟を提起し、その訴訟のなかで山林の不動産の所有権を放棄し、山林の名義を民法239条2項に基づき移転登記するよう求めたものです。
結論としては、このように所有権を放棄することが「権利濫用」として、「放棄する」との所有者側の主張は認められませんでした。
この高裁判決をどのように評価するか否かは、いろいろ議論があると思われますが、結論として、放棄が認められませんでした。
【参考】民法 (無主物の帰属)
第二百三十九条 (略)
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
Q.相続放棄によってすべて解決するのか?
それでは、相続放棄という制度があるので、相続の際に、いらない不動産だけを相続放棄したらどうなるか、というご相談もあります。
確かに、相続放棄をすれば不要な不動産を放棄することができます。
しかし、相続放棄をするかどうか、というのは、すべての財産を相続するか、すべての財産を相続しないか、という選択になります。
要するに、「不動産は必要ないから相続放棄して、預貯金はほしいから相続する」
「あの不動産は相続するが、あの不動産は必要ないから放棄する」といった選択はできない、ということです。
いいとこ取りはできない、ということです。
それでは、「亡くなった方の預貯金も土地もいらない、一切の財産が必要ないから放棄したい」という場合は無事に放棄できるのでしょうか。
この場合も実は、そう簡単ではなかったりします。
確かに、裁判所で手続をとって相続放棄をすれば、相続放棄の効果としては、不要な不動産を放棄することができます。
ただし、その影響と効果については知っておく必要があります。
たとえば、親が亡くなり(親の配偶者はすでに他界)、子どもが相続放棄したようなケースを想定してみましょう。
この場合に、子どもが親の財産も必要ないとして、相続放棄をしたとします。そうすると、どうなるか。
相続の順位としては、子どもが相続放棄をすれば、次は親(親の親なので祖父母です。)が相続することになります。孫には行きません。
事故や病気で若くして親が亡くなる場合を除き、親よりも祖父母が先に亡くなっているケースが多いです。
そうなると、第三順位は兄弟ですから、親の兄弟(相続放棄する者からすると叔父叔母)、兄弟がすでに亡くなっている場合には(相続放棄する者からみて従兄弟)が相続することになります。
つまり、自分は親の財産は不要だから、ということで相続放棄を行うと、親の不動産や預貯金は、叔父叔母や従兄弟が相続することになります。
確かに、相続放棄で不動産を放棄することができるのですが、これは、叔父叔母の立場からするといい気はしない場合があります。
親戚が不動産をいらないからといって、不動産の相続を放棄して「あとの管理はお願いね〜」と投げるのはいかがなものか。それなら、不動産の相続放棄をやめて、自分たちで管理してよ…」という話になります。
このような結果は、不動産を「押しつけられた」ものとして、不愉快に思う人もいるかもしれません。
Q.さらに放棄によって、相続人となった者がさらに放棄したらどうなる?
そしてこの場合、さらに(相続放棄した者からみて)叔父叔母や従兄弟らが相続放棄した場合はどうなるのでしょうか。この場合には、もはや相続人がいない、ということになります。
では、これで無事に終わったかというとそうではありません。
相続人がいないからといって、すぐに国庫に帰属するわけではありません。
相続財産管理人という、相続財産を管理する人を選任して、相続財産の管理などを行ってもらう必要があります。
相続財産管理人が選任されると、選任されたことの官報に掲載し、財産の調査や管理を行い、債権者(被相続人に対してお金を貸していた人など)に相続人捜索や特別縁故者への相続財産の分与、そして、自らの報酬を受領して、最終的に残余財産を国庫に帰属させます。
このような流れを経て、亡くなった方の財産が整理されることになります。放棄したとしてもこのような手続を行わなければ本当の意味で、不動産は整理し切れないということです。
では、「このように全員が相続放棄したらそれで話は終わるのか」というと、これがまた簡単なことではありません。
まず、こちらの相続財産管理人の選任は、裁判所や行政が代わりに選任してくれるというものではなく、誰かが申立を行う必要があります。
申立てを行うためには、書類を集めたり、申立書を作成する必要があります。
さらには、相続財産の内容にもよりますが、裁判所への手数料や相続財産管理人の報酬として一定額を裁判所に納める必要があります。
要するに、放っておいても相続財産管理人が選任されるわけでもないし、それなりの費用(相続財産にどの程度預貯金があるかにもよりますが、予納金だけで目安100万円と言われたケースもあります。)も必要となるということです。
このような手間と費用をかけてまで手続をしたい、という人は必ずしも多くはないかと思います。
Q.相続財産管理人の選任も行わなかったらどうなるか?
では、手間と費用がかかるなら、「相続財産管理人の選任を行わずに放っておいたらどうなるか」という問題があります。
こちらについて、「相続放棄の手続をとって、放棄が完了したのだから相続財産がどうなっても、もう関係ないのではないか」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
相続放棄をしたとしても、その後の相続人や相続財産管理人が、財産の管理を始めるまでは、自己の財産と同じように注意を持って、財産を管理しなければなりません。
つまり、相続放棄をしたとしても、相続財産を別の人が管理を始めなければ、それまでは不動産を管理して、周囲に迷惑がかからないように(自己が管理していたこれまでと同様に)管理を継続しなければならないということです。
そして、不適切な管理により、周りの人が怪我をしたとか、他人の財産に損害を与えたという場合は、管理責任に基づき損害賠償責任を負う可能性が生じます。
第940条
1. 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が 相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、 その財産の管理を継続しなければならない。
2. 第645条 、第646条 、第650条第1項 及び第2項 並びに第918条第2項及び第3項の規 定は、前項の場合について準用する。
「寄付も放棄も駄目なら・・・やはり本来は譲渡」
このように、寄与や放棄といった方法は、なかなかとりにくいものです。やはり、王道は不動産会社を経由して売却や活用を試みることです。
もちろん、これだけ空き家問題や活用が難しい不動産が社会問題になっている昨今ですから、不動産を処分したいからといって、必ずしも売却できるとは限りません。
ですが、管理責任や固定資産税の負担を考えると、それでもなお、売却や贈与などで譲渡する場合は検討が必要です。
贈与になったり、建物の解体費用などを考慮すると、ゼロに近い売買価格になることもあります。しかし、それでもなお、売却して固定資産税や建物管理の負担を免れることが望ましい場合もあります。
譲渡するにしても、税金がどうなるのか、スムーズに移転登記ができるのか、贈与とするのか売買とするのか、条件面はどうするのか、といった点について、事前に準備が必要です。
老朽化した建物がある土地については、あらかじめ費用をかけて建物を解体しなければならないケースもあると思います。
私たちが関与したケースでは、
- 一番多いのは隣接地や近隣地の所有者に売却・贈与
- 空き家バンクなどに登録した結果、売却できたケース
- 不動産業者の関与により活用方法が見いだせたケース
などがあります。
おわりに
このように、不要な土地建物・不動産を寄付や放棄すると行っても、様々な事情を考慮して対応を進める必要があります。
また、各種の手続をとる際には、それなりに手間も時間もかかりますし、法律的な知識や経験が必要なケースも少なくありません。
ぜひ、専門家に相談の上で、よい解決策を選択していただけたらと思います。
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