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退職代行からの連絡があった場合の会社としての対処法 ―退職代行からの連絡があった場合について、弁護士からのアドバイス

退職代行会社からの突然の連絡

以前に、顧問先の社長より、退職代行会社から連絡があったので対応をどうすべきか、というご相談がありました。

なんでも、突然、従業員の「代理」を名乗る人から社長の携帯電話宛に電話がかかってきて

「○○さんの代理で連絡をしているが、退職するので明日以降は出社しない云々・・・」という連絡があり、

なんて失礼な連絡なんだと憤慨されていました。

確かに、社長がそう仰るのも無理もない話で、自分から辞めたいと言うならまだしも、

突然、知らない会社の人から連絡が来て辞めたいと言われて、

しかも社長の携帯電話に直接かけてきたなどということですので、面食らって当然でしょう。

退職代行サービスと顧問弁護士への相談

退職代行サービスというのは、従業員の方が直接、自分からは会社に退職するとは言いにくいので、代行会社を利用して退職を申し出て、自分の代わりに会社に退職の意思を伝え、退職手続を代理で進めてもらうサービスのようです。

このようなサービスは、ブラック企業から退職することを容易にすることで価値があると評価されることもあります。

確かに、退職をさせないよう執拗に説得する(場合によっては恫喝する)ような企業を退職するためには有意義なサービスという一面もあるように思います。

ただ、その一方で、普通の会社が(もちろん、何を以って普通かという議論はあるとして)、従業員が突然出社しなくなり、素性のわからない退職代行会社から連絡が来て困惑している、といった相談も少なくありません。

上記の例のように、社長の携帯電話に突然、電話をかけてくるような突飛な対応は珍しいのかもしれませんが、マスコミなどでも報道され、それなりの利用者があるのか、ときどき退職代行から連絡があったけどどうしたらよいだろう?といった相談を受けることがあります。

会社として最低限確認すべきポイント

まず、会社として最低限度確認が必要なところは、正式な権限がある代理人であるかどうか、です。

先の連絡があった例からもわかる通り、突然、電話がかかってきて○○さんの代理と称して退職の意向を表明されたとしても、その電話をかけている人が、本当に従業員の方の正式な代理人かどうかがかわりません。

会社としては、特に、弁護士等々からの正式な連絡であればまだしも、素性の知れない株式会社の担当者から連絡があって、辞めたいと言われたからといって、退職の手続を進めるわけにはいかないでしょう。

電話連絡だけでは、本当に正統な代理権を付与された代理人からの連絡かもわかりませんし、突然の連絡では通話内容の記録を残すこともできません。

そのような連絡だけを鵜呑みにして退職手続を進めていく、というのも慎重さを欠くように思われます。

少なくとも、

・退職届という様式の書面による退職の意思表示

 (前提として、就業規則に書面による退職手続をとるように規程しておく必要もあると思います。)

・代行サービスであれば、書面による就任通知

 (どこの誰が代理して退職届を提出するのか、その責任の所在を明らかにする。)

・本人が代行サービスに依頼したことを明らかにする委任状

 (特に、弁護士でない代行会社であれば、どのような範囲で業務の委任を受けているかも明らかでないので、委任状は必須と思われます。本当に本人の意思かを確認し記録化する意味で実印+印鑑証明書での確認もほしいところです。)

程度は確認する必要があると思います。

委任状等の書面が十分でなければ追完等々を求めることになりますし、明らかに不備が多く退職の意思表示とは言えないような場合には、退職の意思表示がないものとして扱う(要するに出勤命令等を出し、連絡がなければ無断欠勤の取り扱いとする)ような処置にせざるをえません。

このような書面関係を受領して、なおかつ、その内容に問題がないのであれば、当該会社が従業員に代わって退職する代理権を有していると認められ、こちらを代理人として、退職手続を進めていくことができるでしょう。

退職代行と引き継ぎ問題でのトラブル

そのほか、このような退職代行サービスを利用している場合、引き継ぎの問題も生じえます。

このようなケースでは、突然、引き継ぎなく出社しなくなったり、ごく簡易な引き継ぎメモだけが残されたりという場合などもあり、十分な引き継ぎがなされていないこともあります。

出社できないような事情があればやむを得ないと思いますが、単に退職の意思表示をした以上は出社しにくいから

といった程度の理由で引き継ぎをしないまま出社しなくなったというのであれば、あまりにも不誠実な対応と言わざるを得ないでしょう。

退職代行サービスを利用している場合には、書面やメールで引き継ぎのメモ等が残されるケースがあります。

しかし、メモ書等でスムーズに引き継ぎができるとは限りませんので、しっかりとした引き継ぎを行うには面談で協議しながら話をするのが一番です。

繰り返しですが、ブラック企業からの退職でやむを得ないこともあると思いますし、職場環境になじめずに適応障がい等の診断を受け、退職代行サービスを利用する、等々の事情があれば有意義な方法だと思います。そのような場合の意義を否定しているものではありませんので、なお念のため。

(ただし、その場合でも、弁護士による代理で手続を行った方が望ましいと思います。

後述のとおり、いわゆるブラック企業との間では、紛争性・事件性のある交渉が行われることも十分に想定されますから、ちょっと問題になれば「いやそこは弁護士でなければ対応できません」みたいな弱腰対応では、ブラック企業相手に対応しきれないように思われるからです。こちらはまあ私見ではありますが。)

そもそも弁護士ではない業者が退職代行サービスを行うのは非弁行為で違法ではないか

弁護士でない者が代理として退職代行を行い、会社側と交渉することは、

通常は弁護士法に違反する行為に該当します。

ですので、私がこれまでに確認した退職代行サービスの委任状には、このような記載がありました。

「委任事項、退職手続に関する連絡(交渉を除く)」

「交渉を除く」というところがポイントで、交渉行為を行ってしまうと弁護士法に違反することになるという認識があるのでしょう。

ですが、退職代行を利用して退職せざるを得ないような案件では、手続面を含めて、単に連絡をすれば終わるというものではなく、会社との間で協議したり条件面で交渉したり(残った有給の取り扱いなども含めて)するケースが少なくないと思われます。

そのような場合に、交渉業務ができず、別途弁護士を依頼したり、退職する従業員の方が直接対応したりしなければならないとしたら、あまり意味がないのでは?と疑問に思ってしまいます。

いわゆる使者的に言付けするだけとしたら、行いうる業務の内容は限られるからです。

弁護士法72条

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、
再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、
代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、
又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。

ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

ちなみに、弁護士法違反の行為が行われた場合には、個別的に救済される可能性はあるとしても、基本的には、民法90条違反として無効となると考えられます。これについては少し古いですが、昭和38年6月13日付けの最高裁判決があります。

つまり、非弁行為を行う代行業者が行った退職手続は無効となる可能性が高いということです。

(最判昭和38年6月13日民集17巻5号744頁)

弁護士の資格のない上告人が右趣旨のような契約をなすことは弁護士法七二条本文前段同七七条に抵触するが故に民法九〇条に照しその効力を生ずるに由なきものといわなければならないとし、このような場合右契約をなすこと自体が 前示弁護士法の各法条に抵触するものであつて、右は上告人が右のような契約をなすことを業とする場合に拘らないものであるとした原判決の判断は、当裁判所もこ れを正当として是認する。

おわりに

というわけで、退職代行サービスに関して記載しましたが、弁護士法違反として無効となってしまう場合があることも含め、うまく活用できるケースは少々限られてくるのではないか、実際に、ブラック企業が辞めさせてくれない等々の事情で、退職を誰かに代理しなければならないというケースでは、弁護士に委任すべき案件になっていることが多いのではないか、というのが案件に関与した個人的な感想です。

いずれにしても、担当した案件を見る限りには、これまで述べたような問題が多く含まれており、このような退職代行サービスからの連絡があった場合には、顧問弁護士のアドバイスなどを考慮しながら慎重に対応していくことが望ましいでしょう。


* 本記事は2019年4月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。


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