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2020年民法改正施行に向けて|賃料等を滞納した場合の損害金の利率に関する民法改正(債権法改正)

遅延損害金の考え方(原則論)

まず、原則論からです。

賃貸借契約書で、賃料を毎月月末までに支払うという取り決めにしていた場合に、末日の支払いを怠ったとします。

そうなると、本来、貸主は受け取れるはずの賃料を受け取れなかったことに加えて、本来であれば、賃料を受け取って有効活用できたのに、それを有効活用できなかったという損失が生じます。

他方で支払う約束の日に支払わなかった賃借人は、約束を破ったという意味でも責任がありますし、賃料の支払いを先送りして得をしています。

そこで、賃貸借契約書では、通常、賃借人に対し、支払いが遅れたときに利息のように追加で負担を課していることが通常です。

これを遅延損害金といいます。

たとえば、「支払いを怠ったときには、年10パーセントの割合で遅延損害金を課す」などです。

この場合、賃料5万円で1年間支払いが遅れたら、賃料の10%である5000円が損害金として加算されて、5万5000円を支払わなければならなくなります。

半年であれば2500円加算されますし、1日遅れたとしても厳密には日割りで遅延損害金がつきます。

(ちなみに、この損害金を「1日遅れたら10万円支払う」とか、「支払いが遅れたら賃料を3倍にする」といった取り決めができるかどうか、という損害金設定の限界の問題については、別途、こちらから。)

遅延損害金については、賃貸借契約で定めることができますので、よほどの暴利で公序良俗に反する場合や、消費者契約法に違反するような場合を除いては、契約書の記載どおりのルールで遅延損害金が発生するというのが原則です。

ですので、先に結論をお伝えすると、賃貸借契約書上に、賃料等の支払いが遅れた場合の遅延損害金の取り決めがあるのであれば、直接的には民法改正(債権法改正)の影響を受けることはないと思われます。

法定利率とは何か

では、今回の改正で影響が生じる法定利率とは何でしょうか。

これは、上記のような賃貸借契約書で取り決めが存在していない場合の問題です。

賃貸借契約書で遅延損害金を○%にするという取り決めがない場合に、取り決めがないから遅延損害金が発生しないかというと、そうではありません。

契約書に記載がない場合には、民法上のルールが適用されることになります。

約束ではなく法律上定められたものなので、法定利率と呼びます。

これが現行民法では年5%と定められていました。

つまり、賃料10万円を1年間支払わなかったら、年5%ですから5000円の損害金を支払わなければならないということです。

この年5%という利率が、今回改正されます。

これまで、年5%固定であったものが、

・3年ごとに見直される変動性

・改正後は3%に

になります。

つまり、賃料10万円を1年間支払わなかったら、

年3%で3000円の損害金を支払わなければならないことになります。

なぜ改正されたか

では、なぜこのように固定5%から変動3%へ改正されたのでしょうか。

理由としては、法定利率の5%が高いと言われていたからです。

考え方としては、冒頭で述べたとおり、支払期日通りに支払われたとすれば、

賃貸人(債権者)は、そのお金を使って運用するなどして利益を得られたかもしれないのに、それができなくなってしまったから、という考え方です。

そうなると、たとえば、銀行預金等の利息などと比較すれば明らかなとおり、

現状、年5%というのが高すぎるというわけです。

もちろん、年3%なら合理的なのか、という議論はあるのでしょうが、とりあえず3%になりました。

そして、社会情勢にもより変化すべきという観点から、3年ごとに改正することになりました。

ちなみに詳細は以下の国会答弁が詳しいので引用します。

(衆議院ホームページ http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000419220161118009.htm

第192回国会 法務委員会 第9号(平成28年11月18日(金曜日))

○小川政府参考人

法定利率の引き下げ幅の検討に当たりましては、
貸出金利の水準を参照にすべきであるというふうに考えられるわけですが、
法定利率の適用場面はさまざまでありますため、借り手が大企業である場合だけでなく、
中小企業あるいは一般消費者である場合の水準も広く考慮に入れる必要があるかと考えられます。
 
例えば、借り主が大企業や公共団体である場合には極めて低金利となり、
かつ、その貸付額も多額に上りますが、
国内銀行の貸出約定平均金利の平均値にはこのような特殊性のある大口の貸し出しも含まれるため、
貸出約定平均金利は、そのままでは、
借り主が中小企業または一般消費者である場合も視野に入れた数値としては
低過ぎるということに留意する必要があろうかと思います。
 
同様に、御指摘がございましたプライムレートにつきましても、
優良企業向けの貸し出しに適用される最優遇金利でありますために、
借り主が中小企業または一般消費者である場合を視野に入れれば、
これも相当に低いものと言わざるを得ないと考えられます。
 
さらに、法定利率の引き下げの際には、
遅延損害金の額が低くなり過ぎると債務の不履行を助長する結果となりかねないことや、
これまで百二十年にわたりまして年五%で実務運用がされてきたこととの
バランスも考慮する必要があるといった実務的な観点からの指摘も強くされたところでございます。
 
改正法案におきましては、以上のさまざまな事情を総合的に判断するとともに、
実務上取り扱いが容易な、簡明な数値とする必要性なども勘案いたしまして、
引き下げ後の法定利率を年三%といたしたものでございます。

まとめ

結論としては、法定利率の民法改正(債権法改正)については、

賃貸借契約書に取り決めがなされているのであれば、それほど影響はない、

ということかと思います。

(金銭債務の特則)

第四百十九条 
1. 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、
その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。
ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2. 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3. 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
 
【現行民法】
(法定利率)
第四百四条 
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。
 
【改正民法】
(法定利率)
第四百四条 
1. 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、
その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2. 法定利率は、年三パーセントとする。
3. 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、
三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
(以下省略)

* 本記事は2019年4月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。


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