2020年民法改正施行に向けて|マンスリーマンション契約は改正民法の定型約款で対応ができるのか。
定型約款とは?
定型約款とは、改正民法では、多数の人々に対して同一で画一的なサービス等を提供する取引で用いられる契約条項をいいます。
典型的なものとしては、バスや鉄道などの運用約款や、コンピュータ・ソフトウェアの利用規約などが典型的なものです。
逐一、バスや鉄道に乗る際、あるいは、なにかアプリなどをインストールして利用する際には、多数の人々に対して画一的にルールを適用されることが予定されており、契約書面に目を通して、各条項について、内容を精査してその内容の是非を交渉する等は現実的ではなく、予定もされていないと思います。このようなものに適用するのが、約款です。
このような約款について、改正前の民法では、なんの規程も置かれていませんでしたが、今回の民法改正により、一定のものを「定型約款」と定義して、民法上のルールが適用されることになりました(なお、約款に関するルールは民法上ではありませんが、各種業法に一定の定めがある場合があります。)。
改正民法の内容
改正民法の定型約款は、改正民法548条の2から同条の4に新設されました。
定型取引を「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」と定義し、定型約款を「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義しています。
少々わかりにくいですが、
ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引
その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの
という要件を満たせば、定型取引に該当します。
そして、定型取引に該当すれば、
「契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」について、「個別の条項についても合意したもの」とみなす。
というものです。
本来、契約を締結する際には、双方がその内容を確認した上で締結するわけであり、双方がその内容を確認して合意するからこそ、効力が生じます。
そうなると、定型約款というのは、「契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」、すなわち準備されたものに過ぎないですので、必ずしも、当事者(主にサービスの受け手)が確認しているわけではなく、その内容を確認して合意していません。
なので、本来であれば、合意がなく効力が発生するものではないのですが、一定のルールのものに「合意したものとみなす」としています。
なお、よくある話ですが、「定型約款」というタイトルで書類を作っているから定型約款に該当するとか、そういうものではありません。
定型約款を合意したものとみなす、ことによる効果
その一定のルールというのは、改正民法548条の2第1項記載のとおり、
一 . 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 . 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
となります。
ちなみに、二は、「定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき」であり、「定型約款の内容を相手方に表示していたとき」ではありません。
ですので、約款それ自体を渡して交付するなどの必要はなく、定型約款が契約の内容なりますよと表示していればよいということになります。
上記②のルールをみたすものであれば、定型約款を契約の内容が契約の内容として合意したとみなされます。
そのほか、効果等については下記の条文のとおりのルールがありますが、ここでは一旦割愛します。
このような定型約款の規定ですが、適用されると、定型部分を約款に落とし込みわかりやすいシンプルな契約書で締結することができたり、定型約款の民法584条の4のルールに基づき、約款内容を一定程度変更することができるなどのメリットがあります。
特に、マンスリーマンションなどでは、不特定多数の入居者と反復継続して契約を締結し、なおかつ、その頻度は通常の一般賃貸と比較すれば高いと思われ、定型約款が適用されるのであればメリットはあると思われます。
ではマンスリーマンションに定型約款が適用されるのか?
まず結論からすると、マンスリーマンションについて明確に定型約款が適用されると記載されている文献等は、いまのところ見当たりませんでした。
ただ、マンスリーマンションを含む賃貸借契約については、一般的には、定型約款に該当しないと考えられているようです。
確かに、不動産賃貸借契約は、契約締結するときに「約款」のようなものを添付しているケースもありますし、不特定多数のものを相手方として行う取引ではあります。
ですが、冒頭でも記載したとおり、「多数の人々に対して画一的にルールを適用されることが予定されており、契約書面に目を通して、各条項について、内容を精査してその内容の是非を交渉する等は現実的ではなく、予定もされていない」という観点からすると、
賃貸借契約書は、契約当事者(たとえば、資力や保証人など)や契約の物件ごとに一定程度、ひな形を利用して作成するとしても、加筆修正等が加えられることが想定されており、その意味で、一般的な不動産賃貸借契約については、画一的であることが合理的でないといえるでしょう。
では、マンスリーマンションについては、どうでしょうか。
マンスリーマンションも、もちろん賃貸借契約ですので、上記の不動産賃貸借契約についての一般論は該当します。
その一方で、マンスリーマンションでも、基本的に賃料以外の契約内容が物件や入居者の属性にかかわらず同一であるなど、個性によらず、あるいは、物件属性によらず定型的なものであれば、契約の一部が画一的であることが双方にとって合理的な場合がありうると思います。
家具付きのマンスリーマンションなどは、一般賃貸と比べて、当事者の属性に依存しにくいという意味で宿泊施設等への「宿泊」に近い性質を帯びてきます。
宿泊施設との宿泊契約における約款は、定型約款に該当すると解釈されています。
それとの比較で考えると、法律的な条件を様々そろえていけば、マンスリーマンションを定型約款により運用していく方法もありうるのではないかと考えられます。
その他、参考になりうるものとして、大規模な建物の多数に上る各部屋の賃貸借契約について、契約内容は画一的なものにすることにより賃貸人側が利益を享受する場合には、例外的に、そのひな形が定型約款にあたる場合がある、
と述べられているものがあります(筒井健夫=松村秀樹編著「一問一答 民法(債権関係)改正」246ページ参照(2018商事法務)。
第五款 定型約款
(定型約款の合意)
第五百四十八条の二①定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一. 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二. 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
②前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。(定型約款の内容の表示)
第五百四十八条の三①定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
②定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。(定型約款の変更)
第五百四十八条の四①定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一. 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二. 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
②定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
③第一項第二号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
④第五百四十八条の二第二項の規定は、第一項の規定による定型約款の変更については、適用しない。
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* 本記事は2019年3月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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