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不動産売買・不動産賃貸のトラブル

高齢者賃借人入居の際のポイント|不動産売買・賃貸借の法律相談

⑴はじめに

高齢化が叫ばれて久しい日本において、不動産の管理事業を営んでいる皆様方にとっては、自社の管理物件に高齢者の方々が入居申込みをする、ということはよくあることだと思いますし、これからの高齢化社会において、入居者における高齢者を占める割合はさらに増していくと思われます。

しかし、高齢者の方々を賃借人として管理物件に入居させることには特有のリスクがあるということは否定できません。

一方で、高齢者の方々がこれから増えていくことを考えると、高齢者の方には貸さない、という思い切った経営判断をしていくことも難しいと思われます。

また、一口に高齢者といっても様々で、十分な資金を有している方も少なくありませんので、過度にリスクを恐れて高齢者の入居を拒否する、というのも経営上得策とはいえないですし、現実的ではありません。

そこで、以下では、高齢者が賃借人として入居した際に考えられるリスク及び、それらのリスクへの対策を説明していきます。また、近年、高齢者向けの賃貸住宅について、いくつかの法制度が整備されましたので、その点についても触れていこうかと思います。

⑵高齢者賃借人入居のリスク

高齢者が賃借人として入居した際に考えられるリスクとしては、以下のようなものが挙げられます

①契約の有効性に関するリスク

高齢者のうちの一部の方については、認知症等が進んでいる、あるいは、進みつつあるという場合には意思能力※1に問題がある方もいらっしゃいます。

そのような状況の高齢者と安易に賃貸借契約を締結してしまうと、のちに意思能力が認められず、契約自体が無効となってしまう可能性があります。

また、仮に入居者が被後見人や被保佐人であった場合には、後見人や保佐人の了承を得ない限り、契約が無効となってしまうリスクも存在します(民法9条、13条1項9号)。

②設備上のリスク

高齢者の多くは、身体機能が低下しており、些細なことでもケガをしやすいです。ですので、通常の賃借人であれば問題ない設備であっても、高齢者にとってはケガの要因となることは十分に考えられます(例えば、トイレにおける手すりの有無等)。

そして、入居した高齢者が室内設備に起因する形でけがを負った場合は、トラブルの元となりがちです。

③病気のリスク

後述する④にも繋がりうることでありますが、高齢者は体調を崩しがちです。

近年では一人暮らしの高齢者の方々も増えているところ、このような入居者の場合、発見が遅れてしまうと、最悪の場合そのまま死亡する結果となり、④で説明するような多大な損害が発生してしまう可能性があります。

また、高齢者の方々は、認知症をはじめとした精神的な病を発症している方も少なくありません。

入居した高齢者の方が精神的な病を発症していると、(特に集合住宅の場合に)それによって隣人等に何らかの迷惑や被害をかけてしまうことも考えられ、管理業者としては、その対応に追われる可能性も十分にあるといえます。

④死亡のリスク

悲しいことではありますが、高齢者の方はそれ以外の方々と比べると、病気等による死亡リスクは高いといえます。

そして、高齢者の一人暮らしについては、常に孤独死の可能性が付きまとうこととなります。仮に賃借人が物件内で孤独死し、かつ発見が遅れた場合、死亡された賃借人の方にとって痛ましいことであると同時に、管理業者としては部屋の清掃費用をはじめとして、多大な損害を被ることになりかねません。※2

⑤滞納のリスク

資産状況は人により様々ではありますが、一般的に、高齢者は定年退職後で仕事をしていない方が多く、年金頼りの生活をしてらっしゃる方が多いです。

そして、現状支給されている年金額はそれほど多いものとはいえないことを踏まえると、賃料が払えず滞納状態が生じてしまう可能性は否定できません。

高齢者の方を賃借人とする際に、以上のようなリスクが存在することについては、不動産管理会社の方々にとってまず押さえていただきたいです。


※1 民法の大原則たる、私的自治の前提となる意思決定能力のこと。個々の法律行為によって必要とされる程度は異なるが、概ね小学校入学ないし小学校低学年程度の知能といわれることが多い。

※2 ここで考えられる損害としては、本文で上げた部屋の清掃費用以外に、物件に心理的瑕疵が認められ、一定期間の賃貸不能状態及び賃料減額状態に追い込まれることによる損害等が挙げられる。これらの損害については、連帯保証人や遺族に対する損害賠償請求が可能ではあるが、回収可能性は遺族や連帯保証人の有無・及び資力に左右される。また、集合住宅の場合、特定の物件内で死者が出ることによって、他の部屋についても入居が敬遠されてしまうということにより生じる空室損害も軽視できないところではあるが、これに関する損害賠償請求は判例上認められていない。

(3)リスクに対する対策

(2)で、高齢者賃借人入居の際のリスクについて説明しましたが、それでは、どのようにすればこのようなリスクを減らすことができるのでしょうか。

以下では、取りうる手段について説明していきます。

① 入居者の現状について、賃貸借契約締結前にきちんとヒアリングを行う

入居者の経済状況や収入、家族構成、持病の有無等を契約締結前にきちんと調査することで、上述したリスクがどの程度あるか、という点を管理業者(オーナー)の方できちんと把握することができます。

これは、以下に記載するリスク回避の手段をどの程度取るのか、という方法決定の観点からも極めて重要といえるので、しっかりと行うようにしましょう。

また、ヒアリングを行う際には、上記のような事情を確認することに加え、友人関係やコミュニケーション能力の有無を確かめるという点も同じく重要です。

なぜなら、定期的に会う友人がいる、もしくは、周囲の人間とコミュニケーションをとることのできる方については、一般的に孤独死のリスクは低いとされているためです。

② 契約書において、緊急連絡先の記載を必須にする

高齢者の方々は、病気や入院などにより、通常の賃借人と比べて緊急連絡先を利用する可能性が非常に高いです。そのような場合に備えて、確実に対応してもらえる緊急連絡先を契約締結時にきちんと記載してもらうようにしましょう。

このときに、緊急連絡先の実効性を確保するために

  • 緊急連絡先と賃借人の関係が親密かつ良好であるか
  • 物件の近距離に居住しているかどうか

といった点にも注意を払うとなお良いでしょう。

また、複数の緊急連絡先を記載してもらえるとより確実かもしれません。

③ 連帯保証人を必須にする(もしくは、機関保証に加入してもらう)

上述のように、高齢者の入居者(特に定職についていない方)については、どうしても賃料滞納のリスクがあります。そこで、そのリスクを軽減すべく、親族などに連帯保証人となってもらいましょう。

ただ、身寄りのない高齢者(もしくは、親族と疎遠で、連帯保証人となってもらうことが期待できない方)も一定数いらっしゃいます。そのような場合には、各保証会社による機関保証を積極的に利用しましょう。※3

④ 賃借人に保険に加入してもらう

万が一賃借人が死亡した場合に、それにより生ずる原状回復費用(清掃費用等)、遺品整理や葬儀費用を補償してもらえるよう、契約時に少額短期保険※4に加入してもらう、というのもよい手です。

少額短期保険であれば保険料が低額に抑えられるため、賃借人の理解も得られやすいかと思います。

⑤ 契約書の条項を工夫する

上述のようなリスクを軽減するべく、契約書に様々な特約を盛り込んでおく、というのも重要です。

上述のリスクを回避するために考えられる特約としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 長期の入院を要する等、一定の病気に賃借人がなった場合(もしくは、一定期間以上の入院が決定した場合)には、賃貸借契約を解除できる旨の特約※5
  • 一定期間部屋を開ける場合には、事前に管理業者(オーナー)に必ず連絡を入れる旨の特約
  • 賃借人と一定期間以上連絡がつかない場合には、室内の安全確認を警察官立会いの下実施できる旨の特約

ただし、以上のような特約を盛り込む際には、それがどのような意図から付加されたものであるか、必ず賃借人本人及び親族(連帯保証人)にきちんと説明しましょう。そうしなければ、無用なトラブルを招いてしまうからです。※6

※補足:既存の入居者が高齢者となった場合の対策

高齢者との賃貸借契約の締結によるリスクについては、⑴で説明した通りではありますが、これは、何も新規の入居に限らず、既存の入居者が高齢者になった場合にも同様に生じるものといえます。

そのような場合にどのような対策を取ればよいか、という点についてですが、以下のようなものが考えられます。

ア 契約の見直し(定期借家契約の場合)

→契約を見直す際に、少額短期保険の加入や特約条項を盛り込む等を再契約の条件とします。

イ 賃借人の変更

→契約上の賃借人は高齢者の親族等にしておき、その上で既存の賃借人の居住を許容する、という形に契約を変更します。

こうすることで、賃料滞納のリスクが減少すると同時に、万が一実際の居住者が死亡した場合の原状回復請求費用等の回収可能性が上昇します。


※3 近年、高齢者居住支援の一環として、保証代行を請け負う保証会社が増えてきている。また、家賃債務保証を行う一般財団法人(高齢者住宅財団:http://www.koujuuzai.or.jp/service/rent_guarantees/)等も存在する。

※4 本文記載のような費用を補償する少額短期保険の扱っている保険会社の例として、以下のようなものがある

・アイアル少額短期保険「無縁社会のお守り」:http://www.air-ins.co.jp/muen/

・ハウスガード「オーナーズプロテクター」:http://www.hg-ssi.com/owners_protector/

※5 ただし、この特約を入れる際には、身元保証人を立てることができる場合が前提となる。

※6 なお、賃借人に一方的に不利な特約については無効となる(借地借家法37条)。上記特約の効力について、裁判で争いとなった場合には、無効となりうる可能性があることは留意したい。事前にきちんとした説明を行うというのは、このような事態を避けるため、という意味合いも有する。

(4)高齢者向け居住施設に関する制度の活用~サ高住と登録住宅~

ここまで、高齢者賃借人の入居に関するリスクとその対策について説明してきましたが、高齢者の入居者の増加というのは、管理業者(オーナー)の方々にとって悪いことばかりではありません。

現在、高齢者が増加し、その居住の継続保障が問題となっている中で、公的な制度がいくつか整備されています。

これらの制度を上手く活用することで、管理業者にとって高齢者向けの住居の提供という、需要の増大が確実視される新たなビジネスチャンスをものにできる可能性がある、というポジティブな側面も確かに存在するのです。

そこで、最後に、現在整備されている高齢者向けの住居制度の概略について説明していきます。※7

①サービス付き高齢者向け住宅(以下「サ高住」といいます。)

ⅰ 概要

サ高住とは、地域の介護・医療と連携しながら、生活支援等のサービスを入居者

(原則60歳以上の者)に提供するバリアフリー構造の住まいであって、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(以下、「高齢者住まい法」といいます。)で定められた一定の基準を満たして都道府県等に登録された物件※8を指します(高齢者住まい法5条)。

ⅱ 特徴

サ高住に登録されるためには、状況把握(安否確認)と生活相談のサービスを備えていることが必要とされます(同法5条)。

また、契約書の作成義務、入居者の同意を得ない居室の移動が認められないこと、事業者からの一方的な解約不可等の契約上の基準も定められています(同法7条6号)。

同法に定められた義務違反を運営事業者が行った場合には、行政の指導監督がなされ(同法24条)、それに違反すると登録が取り消されることとなります(同法26条)。

なお、登録された物件については、生活支援サービスの概要や、退去状況、費用内訳、認知症や看取りの対応といった「運営情報」が公開されることとなります。※9

ⅲ 課題

ア:有料老人ホームとの関係性の不明確さ

現状、サ高住に入居する高齢者の9割程度が要支援・要介護者であることから、サ高住の多くが、老人福祉法29条で規定される有料老人ホームの定義に該当するサービス(食事提供等)を提供しています。

その結果、実質的に有料老人ホームと同一のサービスを提供していることとなるのですが、両者は契約構造が異なるのです。※10

この違いが、一部のサービスが提供されない場合の責任追及等に違いを生じさせる可能性があるといえます。

イ:サ高住とサブリース

上述したように、サ高住においては、居住保障の観点から、事業者からの一方的な解約を認めていませんが、登録物件がサブリースの形態をとっている場合、マスターリース契約の解除によって、居住者の保障が害される可能性が高いのです。この点について、法律上の手当てが未だなされていない、という点は問題です。

ウ:緊急連絡先と身元保証

サ高住では、賃貸借契約の締結に当たって、連帯保証人と緊急連絡先の両者を要求することが一般的であったところ、今後、身寄りのない高齢者の増加に伴って、(金銭面については機関保証等で対応するとして)、身元保証をどのように行うのか、という問題があります。※11

それと同時に、サ高住における身元保証人の法的位置づけ(必須か否か)という点についても未だ不明確ですので、この点の整備についても急務とされています。

※11それと同時に、サ高住における身元保証人の法的位置づけ(必須か否か)という点についても未だ不明確ですので、この点の整備についても急務とされています。

エ:看取り対応と介護事故

サ高住においても、看取り対応を行う業者は増加しています。しかし、介護事故が生じた場合に、有料老人ホームと異なり、サ高住はあくまで「住居」という位置づけである以上、運営事業者の責任を問うことができないのですが、それでよいのか、という点も含めて、サ高住契約の法的性質について再確認する必要があるとされています。

②住宅確保要配慮者(以下「要配慮者※12」といいます。)向けの賃貸登録住宅(以下「登録住宅」といいます。)※13

ⅰ 概要

登録住宅とは、民間の空き家を活用し、地域における安定した居住支援体制の構築のための制度です。

登録には一定の基準(耐震性、居住面積等)を満たす必要があり、登録された物件については、要配慮者の入居を拒むことはできません。

登録対象は都道府県等であり、登録を受けた都道府県等が、この登録住宅の情報を開示するとともに、家主の指導監督を行います。

ⅱ 特徴

登録住宅については、経済的支援制度(家主に対しての、登録住宅の改修費用補助及び、入居者に対しての、家賃債務資料の低減化補助)があります。

また、家主支援制度として、家賃債務保証や入居者の見守り保証を、信用力の高い居住支援法人※14等が担ってくれる、という特徴もあります。また、生活保護受給者の住宅扶助費等を家主に直接支払う代理納付制度、というものが新設されました。※15

ⅲ 課題

ア:身元保証の役割の不明瞭さ

サ高住と同様、身寄りのない入居者において、身元保証的な役割をだれが担うか、という点が未だ不明瞭です。

この点について、整備が必要であると考えられます。

イ:地域における体制の不統一

サ高住と異なり、登録住宅は既存の空き家の活用をベースにしているため、その地域ごとにどうしても差異が生じてしまい、全国一律のスキームを形成することが難しいという性質があります。

このことが、登録住宅制度の普及を難しくしている(営利法人が参入に二の足を踏んでいる)ことは事実なのですが、その上で、どのようにして制度を普及させるか、という点はこれからの課題といえるでしょう。


※7 詳細については、矢田尚子「高齢者の居住をめぐる現代的課題」(ジュリスト1515号・2018年)参照。

※8 登録の基準については、高齢者住まい法7条各号参照。

※9 公開される情報については、高齢者住まい法6条項各号参照(同法7条2項、3項)。

※10 有料老人ホームが、入居契約という1つの契約の枠内で、居住と複数の生活支援サービスを行っている一方で、サ高住は、居住(賃貸借)契約を中心に、生活支援等のサービスが、複数事業者(同一グループ内の事業者の場合もある)との請負契約や委任契約に基づいて提供されている。

※11 身元保証代行業者を用いる、という手段も考えられるが、現在のところこのような業者を規制する法律はなく、その信用性には一定の疑念が残る。

※12 これは、高齢者のほか、低額所得者(原則月収15万8000円以下)、被災者、障碍者、子育て世帯等を指す。

※13 詳しくは、国交省ウェブサイト「住宅セーフティネットについて」参照。

※14 都道府県が指定した、地域で居住支援の中核的な役割を担う法人。居住支援協議会(地方公共団体、不動産関係団体、居住支援団体等で構成され、各地域における居住支援にかかわるプラットフォームの役割を果たす)とは異なる。

※15 なお、民法改正(個人根保証契約における極度額の設定の要件化)を踏まえ、家賃債務保証業者登録制度や住宅支援機構による家賃債務保証保険制度も創設された。

(5)終わりに

以上では、高齢者賃借人が入居される場合のリスク及びその対策について一通りの説明を行ってきました。

高齢化社会の日本においては、不動産の管理業務を営む以上は、この問題を避けることはできません。

しかし、リスクをしっかりと把握し上述の対策のいくつかを実行しておけば、万が一の際に予想外の被害を及ぶことは避けられます。

そして、(4)で紹介した制度等についてもまだまだ新しいものであることを考えると、高齢の入居者を受け入れることは、業務拡大のチャンスとも言えます。

この辺りは各管理業者・オーナーの方々の判断にはなりますが、個人的には、高齢者向けの賃貸借サービス、という分野は、これからますます伸びていくのではないか、と考えています。

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