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不動産売買・不動産賃貸のトラブル

賃貸借契約書のチェックポイント|不動産売買・賃貸借の法律相談

⑴はじめに

 不動産業者の方々にとって、毎日目にするものであろう賃貸借契約書。

しかし、多くの方々がひな型を用いており、その具体的な内容について目を通したり、深く考えたりすることは、実はあまりないのではないでしょうか。

 そこで、今回は賃貸借契約書(特に借家契約)に記載された内容のうち、特にチェックすべき点を説明していきます。

⑵チェックすべきポイント

①賃貸借契約の形式

現在、個人への賃貸借契約については、賃貸借契約上、定期借家契約となっているものがほとんどであると思います。

それでは、普通の賃貸借契約と定期借家(建物賃貸借)契約はどのような違いがあるのでしょうか。原則として、以下の点が異なります。

定期建物賃貸借契約 ※1普通賃貸借契約
契約方法・公正証書等の書面による契約に限定

・「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを、契約書とは別にあらかじめ書面を交付し、説明する義務あり
特に形式面での指定なし
(書面・口頭いずれでもよい)
更新の有無更新は原則なし
(両当事者が合意すれば可能 ※2)
正当事由がない限り更新される
期間を1年未満とする建物賃貸借契約の効力可能(このような短期の定めも有効)期間の定めのない賃貸借契約とみなされる
建物賃借料の増減に関する特約の効力特約の効力に従う特約がなくとも、当事者が賃料の増減請求権を主張可能
借主からの中途解約の可否床面積が200㎡未満の居住用建物で、やむを得ない事情により、生活の本拠として使用することが困難となった借主からは、特約がなくとも中途解約可能 ※3
(別途中途解約を行うことができる旨の特約は有効)
特段の定めなし(特約等の定めがあれば、それに従う)

※1 表中の説明に関しては。借地借家法38条も参照。

※2 なお、定期借家契約の期間満了後、黙示の契約更新が行われると普通借家(賃貸借)契約として更新される旨判示した裁判例が存在するので、注意されたい(東京地裁平成27年2月24日判決)。

※3 なお、この中途解約権を特約等によって行使不可とすることは許されない(借地借家法37条6項)。

 以上のような違いがありますので、改めてではございますが、きちんと押さえていただくようにお願いいたします(特に、契約方法と中途解約については、契約の効力自体にも関わりますので、気を付けてください)。

②違約金

 不動産業者の方々は、賃借人が起こしうる様々な義務違反・それに基づく損害を担保するために、違約金を定めた条項を契約書に盛り込んでいるかと思います。

以下の③~⑤については、違反が生じやすい事由ではありますので、これらの点について違約金条項がきちんと契約書にあるか、一度見直してみた方が良いかもしれません。

 また、③~⑤以外に違約金の規定対象として考えられるものとしては

  • 契約成立後入居前にキャンセルした場合 ※4
  • 無断でペット等を飼育していた場合(ペット禁止物件について)※5

※4 相場としては、賃料の1か月程度と定めるものが多い。

※5 なお、このような違反については、違約金条項のほかに解約条項も同時に定められることが多い(東京地裁平成22年2月24日判例の事案等も参照)。

 などがあります。

特に前者については、中途解約に関する違約金規定ではカバーできないこともありますので、忘れずに別途設けておくと良いでしょう。

 しかし、実際に生じた損害に比して、著しく高額な金額を違約金として設定してしまうと、当該違約金条項が公序良俗に反するとして、無効となってしまう可能性があります。

また、個人が賃借人となる場合は、違約金条項につき「平均的な損害」を超える部分については無効となります(消費者契約法9条1号)。相場から多少高額といえる程度であっても、無効となる可能性があるため、十分に注意しましょう。

さらに、法律上の有効性に関する問題以外にも、高額な違約金を設定しすぎると、賃借人に敬遠されてしまう可能性もあります。

これらの点を考慮して、損害の担保という目的の観点から、違約金として適切な額を設定するようにしましょう。

③中途解約のルール

不動産業者の方々としては、契約期間の途中で解約された場合に備えた、違約金の支払条項が盛り込まれた契約書を用いている方々が多いと思います。

前提として、①でも述べたように、途中解約について定めた特約自体は、いずれの種類の賃貸借契約であっても有効です(①も参照)。

 しかし、②でも説明したように、高額すぎる違約金は無効となってしまう可能性があるため注意が必要です。

個人が賃借人である場合の違約金の相場は1か月程度といわれています。※6 

一方で、法人や事業者が賃借人の場合(事業用の物件の賃貸借)の違約金については、比較的高額でも認められる傾向があり、裁判例の中には、賃料1年分の限度で違約金条項を有効と判断したものもあります。※7

※6 ただし、フリーレントや礼金ゼロ物件である場合は、通常の賃貸借契約と比べて、中途解約によって賃貸人側が負う損害が大きい(継続した賃料支払いで初期のマイナスを回収する予定での賃貸)ため、相場よりも高額な違約金を定めても有効となる場合が多い。上記のような物件であれば、概ね賃料の2か月分程度を違約金として定めても、有効であるとされている。

※7 東京地裁平成8年8月22日判決。なお、本裁判例の事案で問題となった賃貸借契約は、中途解約の違約金を、契約の残り期間満了までの賃料相当額と定めていた。ちなみに、フリーレント物件については、契約期間の残り期間満了までの賃料相当額を特約として定めたものにつき、有効である(合理性が認められる)との判断を行った裁判例が存在する(東京地裁平成25年6月25日判決)。

④利用目的違反

 不動産業者の方にとって、自身の管理物件について、予定外の目的で使われることは望ましくないことかと思います。

そこで、賃貸借契約書の中に、賃借人が予定外の用途で物件を使用した場合に解除できる旨の条項を入れている不動産業者の方は多いかと思います。

 しかし、このような条項を定めていたからといって、必ずしも解除できる、というわけではありません。

賃貸借契約を解除するためには、解除事由(これは条項に定めておけば満たします)に加えて、信頼関係が破壊された、といえなければいけません。※8

 過去の裁判例において、信頼関係が破壊されたとされる(契約解除が認められた)利用目的違反の例としては、以下のものが挙げられます。

  • 賃借人が、無断で(シェアハウス利用目的として)転貸したこと ※9
  • 事業用の物件の賃借人が、賃貸人に無断で外壁を塗装したり、内装を行ったこと ※10
  • ペット禁止物件で、賃借人が賃貸人の要請を無視し、動物の飼育を継続したこと ※11
  • マンションの賃借人が、隣人に嫌がらせをし、立ち退きを余儀なくさせた場合 ※12
  • アパートで賃借人が受忍限度を超える騒音を発生させたこと ※13

※8 最高裁昭和27年4月25日判決。

※9 東京地裁平成28年12月19日判決。ただし、判決ではシェアハウスのために無断で部屋の工事も行っており、これと併せて信頼関係の破壊が認められている点については留意する必要がある。

※10 東京地裁平成22年5月13日判決。

※11 東京地裁平成22年2月24日判決。なお、これは一軒家でキツネを飼育していた、という事案である。

※12 東京地裁平成10年5月12日判決。嫌がらせの具体的内容としては、騒音を発生させていないのに、隣人に対し「騒音がうるさい」として執拗に抗議を重ねた、というものである。

※13 東京地裁昭和54年11月27日判決。

以上のような違反については、解除特約を定めておくことがよいでしょう。

⑤増改築に関するルール

④で説明したもののうち、特に問題となりやすいのが、増改築に関するルール及び増改築禁止特約(もしくは、増改築の際に賃貸人による事前の承諾を要する旨の特約)の効力についてです。

増改築については、実際に賃借人が物件に対して行った行為が、信頼関係の破壊とまで評価できるか、という点がしばしば問題となります。

 過去の裁判例では、増改築に基づく契約解除について以下のように判断されています。

  • 居住用建物の根太・柱の取り換え、2階を拡張し、賃貸用のアパートとして改造した(建物外観上の変化はなし)
  • 増改築禁止特約アリ ➡ 増改築禁止特約は有効とした上で解除は無効 ※14
  • 事業用建物について、シャッター4基設置、事務所部分について壁面の一部、天井を撤去の上築造し直し、階段を移動させるなどの工事を行った(簡易な内装・造作を除く増改築について、事前承諾を得る必要がある旨の特約アリ)➡ 解除は無効 ※15
  • 居住用物件(2階建て)について、シェアハウスとして転貸する目的で、無断で物件を16分割する工事を行った ➡ 解除は有効 ※16(ただし、無断転貸と併せて信頼関係の破壊と評価されています)

※14 最高裁昭和41年4月21日判決。

※15 東京地裁平成6年12月16日判決。

※16 前掲10判決。

以上のように、借家契約においては、大幅な増改築が行われたとして、増改築禁止特約があっても、無断増改築単体を理由に解除が認められる可能性は低い、と言わざるを得ません。※17 

ただ、上記2つの判例いずれについても、建物改築の必要性を一定程度認めた上で解除は無効である、との結論を導きだしていることを踏まえると、そのような必要性が認められない増改築であれば、解除が認められるかもしれません。

※17 なお、借地契約については、土地上の建物に関する増改築禁止特約に違反した場合に、解除が認められた裁判例が散見される(最高裁昭和42年9月21日判決等)。

⑥敷金

 敷金については、退去の際に、敷金から一定額を差し引く旨の特約(いわゆる敷引特約)に関して、賃借人との間でトラブルになりやすいです。

敷引特約においてポイントとなる点について、以下で説明します。

ⅰハウスクリーニング費用に関する敷引特約について

ハウスクリーニング費用(原状回復費用)に関する敷引特約については、次回の記事で詳しく説明しますが、端的に言えば、額とその具体的な行為について明示していなければ無効となる可能性がありますので、その点に注意してください。

ⅱ敷引額について

 敷引特約において、あまりにも高額な額を設定してしまうと、無効となってしまう可能性があります。敷引額について争われた裁判例では、以下のような判断がなされています。

  • 賃料17万5000円の物件において、契約締結時に保証金を100万円賃貸人に供託し、そのうち60万円につき敷引特約が存在した事案 ※18 ➡ 当該敷引特約は有効
  • 賃料9万6000円の物件において、契約締結時に保証金を40万円賃貸人に供託し、そのうち明渡しまでの経過年数に応じて一定額を控除する旨定めた敷引特約が存在した事案 ※19 ➡ 当該敷引特約は有効

※18 最高裁平成23年7月12日判決。なお、判旨ではⅰ敷引条項が契約書に明記されていることⅱ敷引金の額が賃料の額等(礼金の有無及び額も考慮の対象としていると思われる)に照らし高額に過ぎるなどの事情がないこと、との理由から、消費者契約法10条に反せず、有効と判断している。

※19 最高裁平成23年3月24日判決。なお、経過年数に応じて以下の額が控除される旨の特約が定められていた。

経過年数1年未満 18万円    2年未満 21万円    3年未満 24万円    4年未満 27万円

    5年未満 30万円    5年以上 34万円

敷引額が「高額に過ぎる」と評価できるか否かの判断は抽象的なものではあり難しいといえますが、以上を踏まえると、賃料の3~3.5倍程度の敷引特約であれば、過去の裁判例では有効となる可能性が高いといえるでしょう。 ※20

※20 なお、簡裁事例ではあるが、月額賃料の4.3倍の敷引金につき無効と判断したものがある(大阪簡裁平成26年10月24日判決)。

⑦解約通知期日

 住居の移り変わりの激しい現代社会においては、期間満了前に賃借人が何らかの事情によって物件を解約する、ということは頻繁に生じるでしょうし、そのニーズに応えて、不動産業者の方々も、契約書に、賃借人の解約権を留保する条項(いわゆる「期間内解約条項」と呼ばれるものです)を入れておられる方も多いかと思います。

 一般的な期間内解約条項の定め方の例としては「賃貸人及び賃借人は、本契約期間内に本契約を解約しようとするときは相手方に~か月前に伝えなければならない。乙が即時に解約をするときは、~か月分の賃料を支払わなければならない」というようなものがあります。※21

 しかし、このような条項も、定め方によっては無効となることがあります。②でも述べたように、違約金が高額に過ぎると、無効になります。

また、解約予告期間が長すぎても、賃借人に過度な負担と評価され、無効となる場合もあります。※22

※21 ちなみに、期間内解約条項がない場合で、賃貸借期間について期間の定めがある場合には、中途解約は認めらない。

※22 なお、解約予告期間を6か月とした特約を有効とした裁判例は存在する(東京地裁平成22年3月26日判決)。ただし、これは、解約予告期間のうち賃借人が退去後の期間を2か月半しかないことも考慮された上での判断であり、6か月単体の有効性が判断されているわけではないということに注意が必要である。

⑧更新料 ※23

 更新料は、敷金と同様、賃借人が物件を選ぶ際に特に着目するポイントの一つといえます。

更新料の額の定め方については、物件の性質や賃借の形式、他の条件との兼ね合いでなかなか一概に決めることは難しいものと思われますが、敷金(敷引特約)と同様、あまりに高額に設定してしまうと、無効となる可能性があるので注意しましょう。

 更新料の有効性の判断要素につきましては、最高裁判例(平成23年7月15日判決)では以下のように判示しています。

 「…賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である」

 つまり、更新料の有効性に関しては

 ①契約書に一義的かつ具体的に更新料の額が記載されていること

 ②額が諸事情に賃料や契約期間等に照らし高額に過ぎるとまではいえないこと

の2つの要件を満たせば有効である、と考えられます。※24

 上記②の点に関して、過去の裁判例は、以下のような判断をしています。

  • 更新される賃貸期間1年、更新料賃料2か月分(共同住宅の1室、賃料3万8000円)➡ 有効 ※25
  • 更新される賃貸期間2年、更新料賃料2か月分(共同住宅の1室、賃料5万2000円、共益費2000円)➡ 有効 ※26
  • 更新される賃貸期間1年、更新料賃料約2.2か月分(共同住宅の1室、賃料4万5000円(共益費等込)、更新料10万円) ➡ 有効 ※27
  • 更新される賃貸期間1年、更新料賃料約3.12か月分(事案:共同住宅の1室、賃料4万8000円、共益費5000円、更新料15万円) ➡ 有効 (ただし、「かろうじて」という留保付き)

※23 更新料の性質は、ⅰ賃料の一部ⅱ期間満了後更新を拒絶しないことの対価とされている(最高裁平成23年7月15日判決)

※24 なお、原状回復費用についても同様の判断基準が定立されている。詳細は次回記事参照。

※25 注釈23判例参照。なお、原審(大阪高裁平成22年2月24日)は無効と判断していた。

※26 大阪高裁平成21年10月29日判決。

※27 大阪高裁平成21年8月27日判決。

以上の通り、上記②の点に関しましては、現在もなお裁判所の判断が確立されている、とは言い難いです。万が一の場合に備えるのであれば、賃貸期間1年の場合は1か月、2年の場合は2か月が限度である、とのように考えておくのが無難でしょう。

⑶おわりに

 ここまで、個人的に賃貸借契約書においてチェックすべきポイントについて説明してきました。

賃貸借契約は、いわば生活や事業の基盤になるものでありますから、その内容を定める賃貸借契約書についても、賃借人側は細かい点まで気にすることが多いです。

そのことを踏まえて、賃貸人である不動産業者と、賃借人の相互が納得できるような契約書を作成していただければと思います。

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