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自殺の告知義務について|不動産売買・賃貸借の法律相談

⑴物件内での自殺について、なぜ告知義務があるのか?

一般的に、物件内で自殺等が発生した場合、不動産業者(仲介業者)は、当該物件の買主や賃借人(及びその予定者)に対してあらかじめその事実を告知する義務がある、とよく言われています。

しかし、このような義務が法律上定められているのでしょうか。

 結論から申しますと、自殺の告知義務については、法律上明確に規定されているものではないものの、不動産の売主一般に課されている説明義務(情報提供義務)の一内容として、告知義務があるものと判例上考えられています。※1

なぜかといいますと、自殺が発生した事実というのは、買主や賃借人にとって明らかにマイナスとなる事情であり、物件の購入価格や賃料にも大きな影響を与えることから、物件について売買契約を締結するか(賃貸借契約を締結するか)否かの判断に重要な影響を与える事実である、ということができるためです。※2

(事案の概要)
不動産業者である被告が、当該物件でかつて居住者が飛び降り自殺をしたという事実を知っていたにもかかわらず、その事実を買主に告げることなく当該物件を売却したという事案


(判旨の抜粋)
「…飛び降り自殺があった物件であることは,価格にも一定の影響があることは明らかであるから,相手方がこれを購入するか否かを検討する際に告知,説明しておく必要のある事柄であることも明白である。

したがって,被告には,本件売買契約の約2年前に本件建物から居住者が飛び降り自殺する本件死亡事故があったことを知っていた以上,不動産を取り扱う専門業者として,当該不動産を売り渡そうとする相手方である原告に対し,当該事実を告知,説明すべき義務があったというべきである。」

 ※1 松山地裁平成25年11月7日判決・東京地裁平成20年4月28日判決等
 ※2 なお、宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」)35条各号には、不動産業者が買主・賃借人に対し説明義務がある重要事項が列挙されているものの、自殺という事実に関する記載はない。しかし、同条の柱書に「少なくとも次に掲げる事項について」との文言があることから、各号に記載がないことをもって直ちに説明義務が認められない、ということにはならない点に留意する必要がある。

⑵自殺の告知義務の内容とその範囲

 上述のように、自殺があったという事実については告知義務が認められることを前提としたとして、告知義務はどこまで詳細に、またいつまで課されるのでしょうか。

 この点については、事案によって裁判例の判断も分かれており、ケースバイケースである、と言わざるを得ません。

ただし、過去の裁判例から見て、自殺も含めた心理的瑕疵の告知義務に関する考慮要素として挙げられているのは、発生場所、事件の重大性、心理的瑕疵発生からの経過年数、買主(賃借人)の使用目的、物件の状態、近隣住民に事件の記憶が残っているかどうか、(事業用物件の場合)買主(賃借人)に損害が発生しているかどうか、といった点が挙げられており、以上の諸点を総合考慮して、告知義務の可否を判断しているものであると考えられます。

 このうち、自殺においては、自殺の発生場所、経過年数、物件の状態、買主(賃借人)の使用目的が特に判断を左右することから、以下ではこの点を中心に、具体例を挙げて検討していきます。

  ※3 物件そのものに欠陥があるわけではないが、当該物件について、借り手が強い心理的抵抗を感じやすい条件があること。自殺以外の具体例として、過去殺人が発生、墓地が近接している、等が挙げられる。
  ※4 中戸康文「心理的瑕疵に関する裁判例について」(RETIO.2011.7.No82)119頁

α売買

①約5か月前、居住目的での中古住宅売買の事案
(浦和地裁川越支部平成9年8月19日)
➡告知義務アリ

②約1年4か月前、建売住宅建築販売目的での住宅売買(取り壊し前提)の事案
(東京地裁平成18年7月27日)
➡告知義務アリ

③約2年前、建売住宅の売買(自殺が起こった建物取り壊し後、建築された物件の売買)
(大阪地裁平成11年2月18日)
➡告知義務ナシ

④約2年1か月前、賃貸用マンションの売買
(東京地裁平成20年4月28日)
➡告知義務アリ

⑤約6年前、居住目的でのマンション売買
(横浜地裁平成元年9月7日)
➡告知義務アリ

⑥約7年前、居住目的での住宅の売買(自殺は蔵で起こったが、売買当時蔵は取り壊されていた)
(大阪高裁昭和37年6月21日)
➡告知義務ナシ

上記の裁判例を見てみると、居住目的の住宅の場合は、相当長期にわたって告知義務が認められる、と考えられるので、不動産業者としても、告知義務を徹底すべきだと思われます。商業目的(賃貸借等)の売買の場合は、居住目的と比べると告知義務は軽減されるとは言われるものの、告知しておくことがベターであると思われます。

一方、自殺が起こった物件を取り壊し、そこに新たに建物を建築した上で当該物件を売買する場合には、告知義務ナシとの判断をされているものが散見されます。経過年数にもよりますが、自殺から一定程度の年数が経過した上で、建て替えるのであれば、告知義務が認められない可能性もあるように思います。

β賃貸借

①単身者用アパートで賃借人が自殺
(東京地裁平成19年8月10日)
➡自殺が発生した部屋については、次の賃借人に対しては告知義務アリ。その次の賃借人に関しては、前の賃借人が相当短期の期間で退出するなどの特段の事情がない限り、告知義務ナシ。

②単身者用アパートの(借り上げ社宅)で賃借人が自殺
(東京地裁平成13年11月29日)
➡2年程度経過すると自殺による心理的瑕疵がなくなるので、告知義務ナシ

 なお、宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」)35条各号には、不動産業者が買主・賃借人に対し説明義務がある重要事項が列挙されているものの、自殺という事実に関する記載はない。

しかし、同条の柱書に「少なくとも次に掲げる事項について」との文言があることから、各号に記載がないことをもって直ちに説明義務が認められない、ということにはならない点に留意する必要がある。

上記の裁判例より、賃貸借の場合は、基本的に自殺者(もしくは自殺が発生した時点での賃借人)の次の次以降の賃借人については、特段の事情のない限り、告知義務はないと思われます。

 自殺後最初の賃借人については、裁判例②が、一定程度の時間の経過によって心理的瑕疵がなくなる旨の判断をしていますが、この裁判例では、大都市圏の単身アパートである、という点が強調されており、このことを踏まえると、2年という期間は標準的な自殺による心理的瑕疵の消滅期間としては短期である、と裁判所が想定していると考えられます。

なので、最初の賃借人については、基本的に告知義務があるもの、と考えていた方がよいでしょう。

⑶告知義務違反の効果

⑵で検討しているように、告知義務が要求される範囲はかなり広いため、不動産業者としては、基本的に自殺が起こった物件の、次の取引相手に対しては告知義務があるものと思っておいた方がよいでしょう。

 しかし、そうはいっても何かのはずみで告知を忘れてしまうかもしれません。その際にはどのような損害が生じるのか、という点について、以下で説明していきます

①契約の解除

 自殺について告知義務が認められる場合にも関わらずこれを怠った場合に、説明義務・情報提供義務違反となるのは⑴で説明したとおりです。

 それでは、上記義務違反を理由として解除は認められるのでしょうか。※5

 結論としては、解除が認められる場合はある、ということになります。 ※6

ここで気を付けていただきたいのが、仮に契約の相手方が、告知義務違反に基づく解除を主張したとしても、それで終わりではなく、加えて損害賠償請求をされる可能性もある、ということです。

②損害賠償

 告知義務違反が認められた場合に損害賠償請求がなされた場合、どのようなものが損害として考えられるのでしょうか。裁判例で認められたものとしては、心理的瑕疵を考慮に入れた売買代金(賃料額)と実際の売買代金(賃料額)の差額(α売買:裁判例②等)、建物取壊し費用や清掃費用等、告知義務に違反したことによって買主(賃借人)が余儀なく支出した費用(α売買:裁判例①等)が挙げられます。

 特に前者の差額については、自殺による心理的瑕疵が物件の価格(賃料)に大きな影響を与えるものとされている(裁判例②では、自殺により物件の市場価格は相場の半額程度であると判断された)ため、想定外に賠償額が高額となることも十分にあり得ます。

 ※5なお、解除以外にも、錯誤無効(民法95条)などを主張して契約の効力の無効を主張することも可能である
 ※6ただ、この解除の法的構成については見解が分かれている。これまでの裁判例では、債務不履行の一種である、契約に付随する信義則上の注意義務違反と評価して解除を認めていたが、契約締結前に生じた告知義務違反を、契約に基づき生じた債務不履行と評価するのは難しいのではないか、という見解も有力である。

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