2020年民法改正施行に向けて|民法改正(債権法改正)に伴う3つの情報提供義務についての解説
目次
民法改正(債権法改正)の概要
2020年4月1日施行の民法改正(債権法改正)により、賃貸人に、
以下のような3つの説明/情報提供義務が発生します。
こちらについてまとめてみたいと思います。
契約締結時に、主債務者が、保証人に対して負う情報提供義務
②主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務(民法458条の2)
契約締結後に、賃貸人が、保証人に対して負う情報提供義務
③主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務(民法458条の3)
滞納などの分割払いを約束して約束が守られなかった場合に、賃貸人が、保証人に対して負う情報提供義務
改正民法に関しては、上記のような3つの情報提供や通知のルールがあります。
大きく分けて、
契約締結時のもの、契約中のもの、滞納の支払いなどを合意した後のもの
というように、時期で3つに分けることができます(契約締結上の情報提供義務が課される範囲についてのものです)。
そもそも誰が説明義務を負うのか、それぞれ法人の場合に適用が除かれるかどうか、
事業用かそれらに問わないか、提供に明確な期限があるのか、
など細かな違いがありますので、整理して理解する必要があります。
【義務その1】契約締結時の情報提供義務
事業のために保証や根保証をして義務を負わせる場合には、
民法上に定められた内容について、情報提供をしなければならない義務です。
この条文は、改正民法で今までにない新しい義務を課したものになります。
義務を負うのは、「主たる債務者」ですので、賃貸借契約では主に賃借人です。
まず、この義務を果たさなければならないのは、「事業のために負担する債務」です。
ですので、オーナーさんが、賃貸マンションの一室を居住用に貸し出す際に、
保証人をつけることがありますが、この場合には、この民法上の情報義務は発生しません。
「事業のため」ではないからです。
この条文が適用されるのは、典型的には、会社が不動産を賃貸する際に、
その賃貸借契約について、個人が保証する場合などです。
なお、法人が保証する場合には適用されません(3項)。
ですので、保証会社が賃料保証する場合には、賃借人は、
この民法上の説明義務を負うことはありません。
ただし、民法上の義務は負わないとしても、
保証会社から資産や収支についての審査等がされることが通常とは思います。
・事業のための保証等であること
・法人が保証する場合には適用されない(3項)
説明をしなければならない内容
改正民法上は、以下のとおり、規定されています。
一. 財産及び収支の状況
二. 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三. 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容。
説明しなかった場合にどうなるのか(ルール違反の効果)
改正民法によると、この義務に違反して、情報を提供しなかったり、
事実と違う情報を提供して、その結果、保証契約を締結したような場合には、
保証契約を取り消すことができます。
たとえば、主債務者が、実際はそうでもないのに、多額の年収があり、
資産も十分あるという説明をして、その説明を信じて契約を締結した場合や、
全くなんの説明もないままとりあえず保証の書面にハンコを押しました、
といったような場合には、保証を取り消すことができる可能性があります
(以前よりあった「迷惑をかけないから保証してくれ」みたいな問題で、
保証人側からの争う要素として、財産状況についての説明がなかった!と主張して、
この規程を利用して争うケースが生じると思われます)。
賃貸人側として注意すべきこと
この条文ですが、賃貸人(オーナー側)として気をつけなければならない点としては、
事業用の賃貸借契約などを結び、保証人をつけた場合
(前述のとおり、法人である保証会社の場合は規定外)、
保証人が賃借人から説明を受けていなかったり、
虚偽の説明を受けていたという場合には、保証が取り消される場合があるということです。
つまり、不誠実な賃借人が、保証人を立てるために虚偽の説明などをしている場合には、
一旦、賃料不払い等が生じ、保証人に対して未払い賃料を請求したところ、
この条文を理由に説明が十分ではなかったと主張され、
保証契約が取り消されてしまう可能性があるということです。
オーナーとして対応すべきことは?
ですので、対策としては、
「賃貸人側でしっかりと主債務者が適切な情報提供を行い、その内容を確認して納得した上で保証人が契約した」
ということを確認していく(契約書等の書面にて)必要があります。
管理会社として対応すべきことは?
管理会社として対応すべきこととしては、契約書の整備はもちろんのこと、
契約時に主債務者から保証人の間に適切に情報提供が行われていることの確認と証拠化が必要です。
<改正債権法の条文>
第四百六十五条の十
1.主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする
保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、 委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
(一)財産及び収支の状況
(二)主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
(三)主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
2.主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、 又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、 それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、 主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを 債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
3.前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。
【義務その2】主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務
次は、主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務です。
こちらは、賃貸人側が保証人に対して負う情報提供義務で、契約締結中のものです。
どういう場面で問題となるでしょうか?
たとえば、賃貸借契約を締結して、保証人をつけていたとします。
その保証人から、賃借人(主債務者)がしっかり支払いをしているか、
滞納がないかどうか質問されたとします。
当然、保証人としては、主債務者が賃料の支払いなどを怠れば、
保証人として賃料等を支払わなければならなくなるのですから、
主債務者がしっかり支払っているかどうかについては、当然の関心事です。
ですから、当然上記のような質問をしたいケースがあるわけです。
ところが、その質問に対して賃貸人側が
なんでも回答してよいかというと少々問題がありました。
それは、賃貸人が、賃借人の賃料等の支払いを怠っていることは
個人情報(正確には、個人データ)に該当しますので、
個人情報(個人データ)を保証人に承諾なく教えてよいのか、という問題です。
これまでは、契約書上に支払状況等の情報提供の同意条項を入れたり、
個人情報保護法の承諾なく個人データの第三者提供ができる例外に
該当するかどうかという検討をしたりしていました。
ですが、この民法改正により、個人情報保護法の「法令に基づく場合」として、
通常は、情報提供することが可能となりました。
要するに、賃貸人が、保証人に対し、賃料の支払い状況について、
賃借人の承諾なく提供できるよう、情報提供義務を負うと、
法改正で整備された、ということです。
いつまでに情報提供しなければならないでしょうか?
法律の条文上は、「遅滞なく」と記載されています。
特に「○日以内」「○か月以内」という明確なルールは存在していません。
違反した場合はどうなる??
違反した場合の制裁についても民法上は特に定められていません。
ですが、民法上の義務ですので、当然のことながら、
このルールに違反したことで損害が発生した場合には、
一般的な民法上のルールに基づき、債務不履行に基づく損害賠償等の問題が発生するでしょう。
管理会社として対応すべきことは?
・賃貸人と賃借人との間で、管理会社を通じて情報提供することについてのルールを定めて、
契約書に明記すること。また、保証人の条項についても整備すること。
・賃貸人から管理会社に対する情報提供の業務について
管理委託契約書に明記するかどうか、取り扱いを決めておくこと。
- ポイント「委託を受けた保証人とは?」
第四百五十八条の二
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、 保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、 主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、 損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無 並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。
【義務その3】主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務
さて、最後は、主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務です。
これはどのようなケースでしょうか?よく私たちの事務所でも、
未払い賃料の督促業務を行うことがあります。
そして、督促の結果、未払い賃料をまとめて支払うことになり、保証人をつけて分割払いの約束をすることがあります。
未払い賃料の最速業務とは。
たとえば、50万円分の賃料の滞納があり、賃借人との話し合いの結果、
普段の賃料に加えて、毎月5万円ずつを上乗せにして10回支払い、滞納を解消するなどといった書類を作り、保証人もつけるといったケースです。
このようなケースでは、こういった条件がつくことがよくあります。
「支払いを2回以上怠り、その額が10万円に達した場合には、当然に期限の利益を喪失する」
「その場合には、損害金として残額の10%を支払わなければならない」
といった規程です。
この期限の利益を喪失するというのは、法律用語ですが、約束を破ったときに、分割払いでは駄目で、一括して残額を支払わなければならない、といった趣旨です。
本来であれば、賃借人は、5月末日までに5万円、6月末日までに5万円(すぐに5万円払わなくても6月まで払わなくてもよい利益)、7月末日までに5万円(すぐに5万円支払わなければ7月末まで払わなくてもよい利益)(各月末まで支払わなくてもいいという利益を失う)ということです。
さて、このようにして主債務者が分割払いを行うことになり、保証人がつくことになったとします。
問題なく主債務者により分割払いが行われていればよいのですが、支払いが滞ることも少なくありません。
そして、2回支払いが滞って、滞納額が10万円に達してしまいました。
この場合、期限の利益を失うので、主債務者はただちに残額(仮に30万円としましょう)を支払わなければならなくなります。
この場合に、法律上、保証人もまた残額の30万円を直ちに支払わなければならなくなります。
保証人としては、主債務者がしっかり分割払いしてくれていればよいのですが、
滞ると保証人もまた残額すべてを直ちに支払わなければならなくなります。
さらには、前述のとおり、遅延損害金を支払うという約束をする場合もありますので、
保証人が知らないうちに主債務者が滞納していて、保証人に連絡が行くころには膨大な遅延損害金が発生しているとなれば、保証人としては予想外の結果といえるでしょう。
「それならもっと早く教えてくれよ」と言いたいところです。
[民法改正]主債務者が期限の利益を失った場合はどうなるのか。
そこで、今回の民法改正により、主債務者が期限の利益を失ったときには、債権者(賃貸人側)は、保証人にその期限の利益の喪失を知ったときから2か月以内に、その旨(期限の利益を喪失したこと)を通知しなければならない、
というルールが定められました。
なお、このルールは、保証人が法人の場合には適用されません。(民法458条の3第3項)また、通常の賃料の支払いを怠ったとしても、この通知義務の規程は適用されません。
ですので、滞納賃料を分割払いする約束が発生したような少々限定的な場合に適用されることになります。
通知のルールを守らなかった場合はどうなるのか?連絡違反の効果
賃貸人がこのルールを守らなかった場合にはどうなるでしょうか。
この場合には、実際に連絡したときまで遅延損害金を保証人に対して請求することができなくなってしまいます。
つまり、先ほどの例でいえば、2か月分10万円の滞納となり、主債務者が期限の利益を失い、賃貸人がそのことを知ったとします、そうすると、2か月以内に期限の利益を喪失したことを通知したのであれば、損害金を全額請求することができます。
それに対し、少し遅れて3か月後に通知したとします。
そうすると、期限の利益を喪失ときから通知を現にするまでの期間(3か月分)の遅延損害金を請求することができなくなります。
2か月以内に通知なので、3か月後に通知をするということは、1か月分遅れていることになるのですが、請求できない損害金は3か月分になります。
なお、請求ができなくなるのは損害金だけで、元本は請求することができます。
期限の利益とは?
期限の利益についての詳細は、以下の記事にて解説しております。
第四百五十八条の三
1. 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、 その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、 その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
2. 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、 主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた 遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。) に係る保証債務の履行を請求することができない。
3. 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。
経過措置
附則21条により、施行日前に締結された保証契約にかかる保証債務については、なお、従前の例によります。(変更なし)
第二十一条
1. 施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。
2. 保証人になろうとする者は、施行日前においても、 新法第四百六十五条の六第一項(新法第四百六十五条の八第一項において準用する場合を含む。)の公正証書の作成を嘱託することができる。
3. 公証人は、前項の規定による公正証書の作成の嘱託があった場合には、 施行日前においても、新法第四百六十五条の六第二項及び第四百六十五条の七 (これらの規定を新法第四百六十五条の八第一項において準用する場合を含む。) の規定の例により、その作成をすることができる。
* 本記事は2019年4月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
* 記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。
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