法務問題

賃借人が破産した場合、賃貸借契約はどうなるのか|弁護士によるコロナウイルス対策の法律相談

新型コロナウイルスの影響による倒産の増加

新型コロナ関連倒産が増加しています。2020年6月30日付けのNHKニュースによると、新型コロナ関連倒産が全国で300社になり、飲食店が最多だそうです。

今後も新型コロナウイルス感染症の影響により、さらに賃借人が破産・倒産するようなケースも増えると考えられます。

そこで、賃借人が破産した場合に賃貸借契約が法律的にどうなるか、確認したいと思います。

賃借人が破産した場合に賃貸借契約は解除できるのか

法律相談などの際に、賃借人が破産した場合に、当然に賃貸借契約が解除できると考えられている方がよくいらっしゃいます。

ですがこれは誤解で、結論的には、破産したことそれ自体を理由として賃貸借契約を解除することはできません。

たとえ、賃貸借契約書に「賃借人が破産したときには賃貸借契約を解除することができる」という記載があったとしても、です。

この点については、古い借家法の時代に最高裁判決(最高裁昭和43年11月21日判決 )があります。

同判決では「建物の賃借人が、破産宣告の申立てを受けたときは、賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は、賃貸人の解約を制限する借家法1条の2の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから同法6条により無効と解すべきである」と、破産を理由とする賃貸借契約の解除の特約自体を無効と判断しています。

そして、この判決が現在の借地借家法のもとでも妥当すると解釈されています。

賃料不払いを原因とする賃貸借契約の解除は可能

もちろん、これは破産しても賃料が支払われている場合であって、賃借人に賃料の不払いがあれば、賃料不払いを理由として契約を解除し、立ち退きを求めることができると考えられます。

これは賃借人が破産したからという理由での解除ではなく、賃料不払いを理由とする解除です。 

1か月でも賃料不払いがあれば賃貸借契約が解除できるのか

それでは、1か月分でも賃料の不払いがあれば賃貸借契約は解除することができるのでしょうか。

結論からすると、1か月分の不払いで直ちに賃貸借契約を解除することはできません。

賃料不払いに基づき賃貸借契約を解除する場合には、単なる賃料不払いではなく、信頼関係を破壊された場合でなければ解除することはできません。

この点は、「信頼関係破壊の法理」と呼ばれています。

信頼関係の破壊があったかどうかについては、

賃料不払いの程度・賃料不払いに至った事情・過去の賃料支払い状況等・賃借人の対応など様々な事情を考慮して判断されると考えられます。

ちなみに、賃貸借契約書に「1か月でも賃料不払いがあれば賃貸借契約を解除できる」という記載があったとしても、1か月分の賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除することはできないと考えられます。

この点は、上記の「賃借人が破産した場合に賃貸借契約を解除することができる」という条項があっても無効となるのと同様に、賃借人に不利なものとして借地借家法により無効となると考えられます。

何か月分の賃料不払いがあれば賃貸借契約を解除できるのか

それでは、具体的に何か月程度の賃料不払いがあれば賃貸借契約は解除できるのでしょうか?

この点について、一般的には、3か月分程度の賃料不払いがあれば信頼関係を破壊するものとして賃貸借解除ができるといわれています。

もちろん、これは一つの例であって、賃借人側に問題となるような言動や行動など信頼関係を破壊するような事情が加われば、より短い期間で信頼関係が破壊されたと判断されて解除が認められる可能性もあります。

一方で、賃借人側に賃料を支払えないことについてやむをえない事情がある場合には、3か月分程度の賃料不払いがあっても、信頼関係が破壊されているとまではいえず、解除は認められにくいでしょう。

新型コロナウイルスの影響による賃料不払いについて

以上のような観点からすると、新型コロナウイルス感染拡大の影響による賃料不払いについても別途の考慮が必要と考えられます。

新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動への影響は大きく、特に飲食店などに対する影響はかつてないほどに甚大といえるからです。

新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動への影響は、信頼関係の破壊があったかどうかの判断要素である「賃料不払いに至った事情」の一つといえるでしょう。

この点は、法務省民事局の見解としても、以下のとおり、3か月程度の賃料不払いでは、解除が認められないケースも多いと考えられると述べられています。

【法務省民事局の見解】

日本の民法の解釈では、賃料不払を理由に賃貸借契約を解除するには、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されていることが必要です。

最終的には事案ごとの判断となりますが、新型コロナウイルスの影響により3カ月程度の賃料不払が生じても、不払の前後の状況等を踏まえ、信頼関係は破壊されておらず、契約解除(立ち退き請求)が認 められないケースも多いと考えられます。

法人破産の場合の賃貸借契約の取扱い

法人破産の場合には破産管財人が対応する

さて、このように賃借人の破産によって賃貸借契約を解除することはできません。

そうなると、アパートなどの住宅であれば、破産したとしてもそのまま賃借人が住み続けることも多いと考えられますが、店舗など賃借人が法人の場合はどうなるでしょうか。 

この場合、法人について破産手続が開始されると、破産した法人の財産は、破産管財人が管理することが通常です。賃貸借契約についても、破産管財人が取り扱うことになります。

そして、破産管財人には、賃貸借契約のような双務契約を解除する法律上の権限があります。

通常は、破産した会社の賃貸借契約を維持して賃料を支払い続ける理由はないので、将来的には、賃貸借契約は管財人により解除されることになるでしょう。

破産開始前の賃料かどうかで取り扱いが異なる

この場合、破産手続が開始されてから契約が解除されるまでの賃料は、「財団債権」といって、優先的に支払ってもらえることになります。

これに対して、破産手続が開始されるまでの未払賃料は、「破産債権」といって、「財団債権」よりも支払の優先度が落ちます。破産した会社(法人)に財産があれば、財産を現金化して配当することになります。

その際に、優先的に「財団債権」に支払われ、それでも余りがあれば「破産債権」が配当の対象となります。(説明の便宜のために簡略化して説明しています。)

ですが、一般的には支払い可能な預貯金がなかったり、債務超過であるために破産するわけですから、財団債権すらも十分に支払われるかどうか、という状況で、破産債権ともなれば、わずかな支払い(配当)しか期待できないことが通常です。

このように、破産手続が開始される前か後かで、不払いで滞納された賃料が優先的に支払われるかどうかの優先順位が変わってきます。

原状回復費用についても破産開始後の解約かどうかで取り扱いが異なる場合がある

この点については、原状回復費用の支払いについても同様です。(正確には裁判所によって取り扱いが異なりますので、詳しくは弁護士にご相談ください。)

ですので、敷金の差し入れが少なく、テナント等の原状回復費用がかかる場合には注意が必要になります。

破産手続が開始される前に、賃料不払い等で賃貸借契約を解除すると、原状回復義務は「破産債権」となります。

これに対し、破産手続開始後に破産管財人により賃貸借契約が解除された場合には、原状回復費用は「財団債権」として、破産債権より優先順位が高くなります。(東京地裁の運用の場合、繰り返しになりますが、裁判所によって運用が異なります。)

要するに、賃料不払いがあって解除した場合に、結果として、原状回復費用の優先順位が下がってしまう可能性があるので要注意です。

どのタイミングで賃貸借契約を解除するかにより、未払い賃料や原状回復費用を回収できるかどうかが変わってくる可能性があります。特に、敷金で十分に原状回復費用などがカバーされない場合には、要注意です。

不動産に注力する弁護士に聞く

 本記事は2020年7月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
 記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。
 当事務所は、本サイト上で提供している情報に関していかなる保証もするものではありません。本サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、当事務所は一切の責任を負いません。
 本サイト上に記載されている情報やURLは予告なしに変更、削除することがあります。情報の変更および削除によって何らかの損害が発生したとしても、当事務所は一切責任を負いません。

法務問題カテゴリの最新記事