経営者向け危機管理マニュアル|弁護士によるコロナウイルス対策の法律相談
目次
経営者向け危機管理マニュアル ~感染症への対応に関して~
現在、新型コロナウイルス(以下「コロナ」)の流行に伴い、日本国内においても感染者が急増しており、首都圏や関西圏を対象として緊急事態宣言が発令されており、感染症対策の必要性がこれまで以上に高まっております。
このようなかつてない状況に、取り急ぎ、会社としてどのような対策を取るべきか、どのような点に注意すべきか、という点について、以下のとおり整理しました。
会社としての対応策の徹底・明示
現在、感染拡大が特に著しい地域(4月10日現在、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県の7都府県)において、新型インフルエンザ等対特別措置法(以下「特措法」)32条に基づく緊急事態宣言が発令されております。今回の緊急事態宣言の内容としては、基本的には以下のものとなります(特措法45条及び内閣官房HP)。
① 不要不急の外出の自粛等の要請
② 遊技場や遊興施設等の使用制限等の要請
以上のように、現状発令されている緊急事態宣言は、法律上いずれも「要請」段階に留まるものであり、現行法上、外出の自粛や施設の使用制限を強制することはできません(いわゆる「ロックダウン(都市封鎖)」との違いはこの点です)。
そして、①の「不要不急の外出」に、仕事のための通勤は含まれません。したがいまして、緊急事態宣言が出たからと言って、企業活動を完全にストップさせる必要まではございません。
ただし、あくまで要請に留まるものといえ、上記の要請に反する企業活動を強行することは、会社に対して大きなマイナスイメージを与えうるものとなります。
業務の性質等により個別的な検討は求められますが、業務の継続を前提としつつも
▶「不必要な従業員の通勤・出社を減らす方策」
▶「従業員に対する感染症対策」
以上2点については、最低限検討する必要があります。その際には、以下のサイトをはじめとして、政府・行政から発表されている感染症対策の基本指針を参考とすることが良いでしょう。
※内閣官房の特設サイト
※厚生労働省HP
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
そして、これらの検討結果について、概要程度でよろしいので、HP等で外部に告知するようにしましょう。
事業の継続に関する対応の検討
コロナの流行の全国的拡大及び一部地域における緊急事態宣言に伴い、現状としては、感染症対策の履行が最優先事項となります。一方で、やみくもに営業を停止することは、会社の継続的運営に重大な支障を生じさせることとなります。
未知のウイルスに対して不安な気持ちを抱くことは十分に分かりますが、感染拡大と同様に、会社の業績悪化も会社にとって、そして従業員にとって大きな問題です。現在の状況がどこまで続くかの見通しが見えない状況であるからこそ、継続した企業活動を続けていく重要性を意識するようにしましょう。
業務の性質や個々の状況により差異は生じるかもしれませんが、経営者の皆様方におきましては、以下のような観点から検討を行う必要があると思います。
①「業務の一時休業」「業務の一時縮小」「業務の継続」いずれを行うかの検討
② ア「業務の一時休業」の場合・休業期間により生じる損失の確認
・休業期間においても発生する経費(テナント賃料・給与等)の確認
・上記経費の調達方法の検討
イ「業務の一時縮小」の場合
・業務の縮小範囲の確認(感染症対策において縮小が求められる業務は何か)
・縮小分により生じる損失の確認
・縮小に伴う従業員の勤務体制の変更の検討
・勤務時における、従業員に対する感染症対策の徹底(飛沫感染及び接触感染の防止)
ウ「業務の継続」の場合・業務継続の必要性の検討(売り上げの見込み及び従業員等への説明の観点から必要)
・在宅で対応が可能な業務の検討(出勤の頻度を減らすことは、最も有効な感染症対策の一つです)
・勤務時における、従業員に対する感染症対策の徹底・感染疑いの者が出た場合の対応の検討
在宅勤務やテレワーク、時差出勤等の導入の検討
現在、感染拡大の主な要因として、感染者との濃厚接触(①必要な感染予防策をせずに手で触れること、または②対面で互いに手を伸ばしたら届く距離(目安として2メートル)で一定時間以上接触があった場合を指す)が挙げられております。
多数の従業員が同室内で勤務する環境は、まさしくこの濃厚接触を生じさせる環境にあるといえますし、通勤の際の満員電車等も、濃厚接触の状況に該当します。
このような濃厚接触の状況を極力避けるべく、社内において、従業員のテレワーク(在宅勤務)や時差出勤等の導入を検討することも重要な感染症対策となります。
もちろん、業務の性質や内容、機材の準備状況等によって、完全な導入が難しいところも多いとは思いますが、既に多くの会社が導入している効果的な対応であります。
何より、このような働き方を導入することは、平常時においても従業員の満足度を上げることに繋がります。このような緊急事態を契機として、一度導入を検討してみてはいかがでしょうか(実際の導入方法に関しては、下記参考資料も併せてご参照ください)。
※総務省「情報システム担当者のためのテレワーク導入手順書」
(https://www.soumu.go.jp/main_content/000668432.pdf)
なお、テレワークの導入の際には「従業員における在宅執務の環境」をある程度把握する必要がございます。把握すべき点としては、主に以下のとおりです。
① 家族関係(同居人がいる場合(特に自室がない場合)、守秘義務との関係で問題 になります)
② 設備面(インターネット回線の加入状況、回線速度、デスクの有無等)
※なお、テレワークの導入につき、政府から一定の条件の元、助成が受けられます。併せてご確認下さい。
(https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000617764.pdf)
感染症対策に関しての従業員への説明・徹底
社内における感染症対策や、その一環であるテレワーク(在宅勤務)の導入に関しては、何よりも従業員に対する説明が重要です。
緊急事態であるため、突然の導入は仕方ないにしても、きちんとした説明もないまま導入することは、従業員の日々の業務に大きな支障を生じさせるとともに、従業員の反発を招きかねません。
これらを導入する際には、緊急時であることを説明したうえで、取るべき行動について、従業員任せにせず、具体的に指示することを意識しましょう。
具体的な指示を行うことによって、会社全体における徹底した感染症対策の履行にも繋がります。
労働時間・給与面に関する説明(時差出勤・テレワーク導入の場合)
時差出勤やテレワークを導入した場合に「給与面・勤務形態がどうなるのか」という点は、従業員にとって大きな関心事です。
就業形態の変更は、就業時間の繰り上げ、繰り下げ、休憩時間や通勤時間に該当する時間の取扱い等、様々な点において影響を及ぼすものですので、完全な形でなくとも、一度社内においてこれらの点をある程度整理しておく必要はあります。
以下に、検討すべき主な点を挙げておきます。
① 時差出勤・テレワークによる始業・終業時間の変更に関する同意取得の有無
就業規則において、始業・終業時間の変更に関しての定めがある場合は、従業員から個別の同意を得ることなく変更が可能ですが、その様な定めがない場合には、原則として従業員から同意を得る必要があります(労働契約法9条)。
まずはこの点を確認しましょう。
② 実労働時間の把握
時差出勤・テレワークの場合、従業員ごとに始業・就業時間が異なることになる場合もあるため、通常時よりも各従業員の実労働時間の把握が困難となります。
実労働時間を適切に把握できない場合、気づかぬうちに残業代の未払い等の問題が生じます。
どのように実労働時間を適切に把握すべきか、現在の勤怠管理システムにおいて対応が可能かという点等をはじめとして、一度確認すべきでしょう。
③ 休憩時間に関する労使協定の締結
法律上、原則として従業員の休憩時間は「一斉に」取得しなければなりません(労働基準法34条1・2項)。
時差出勤・テレワークの導入によって、各従業者によって休憩時間が異なる場合には、その旨の労使協定を結ぶ可能性がありますので、この点も踏まえたうえで、就業形態を検討する必要があります。
※なお、金融・広告業をはじめとした一定の業種に関しては、休憩時間の一斉取得に関する上記のルールは適用されません(労働基準法41条)。このような業種に関しては、労使協定の締結は不要となります。
政府・自治体からの経済支援の受給
現在、一部地域での緊急事態宣言の発令に伴って、政府・自治体から中小企業者向けにいくつかの経済的支援策が打ち出されております。主だったものにつき、以下で挙げておりますので、ご参照いただければと思います。
※内閣府HP
(https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/keizaitaisaku.html)
※経済産業省HP
(https://www.meti.go.jp/covid-19/index.html)
(https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200408003/20200408003.html)
※財務省HP
(https://www.mof.go.jp/tax_policy/keizaitaisaku.html)
※東京都産業労働局HP
(https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/attention/2020/0305_13201.html)
このような支援を適切に受給することは、収束がいつ頃になるのか、先行きの見えない現状において、会社を維持するために非常に重要なものとなります。
このほか、今後の状況次第で、更なる経済対策が打ち出される可能性もあります。そのような情報を見落とさないよう、政府や事業所が所在する自治体のHP、各種報道を定期的に確認するようにしましょう。
今回のコロナの大流行は、企業活動にとって大きな影響を生じさせることは間違いありません。しかしながら、継続的な企業活動のためには、このような状況にも対応できる体制を整えることが求められます。
各社とも対応可能な範囲に差異はあるでしょうが、このような危機的状況にも適切に対応することで「リスクに強い企業」のアピールにも繋がり、更なる信用を勝ち得るチャンスともいえます。
最後になりましたが、当マニュアルが多少なりとも各社様のご参考になれば幸いです。
【参考資料】
※厚生省HP「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q3)
※厚生省HP「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-1)
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