共有不動産を売却したいが協力が得られない
所有している不動産を売却したいと思っています。その不動産は、3分の1はAさん、3分の2の持ち分を私が所有している共有不動産です。
このような不動産は、私が2分の1を超える持ち分を所有しているのですから、私の判断で売却することができるのでしょうか。
回答:共有不動産は、共有者全員の同意がなければ売却できません。
共有不動産を売却することは、民法上の「変更」行為に該当します。共有物については、主に変更行為、管理行為、保存行為という3つがあり、不動産の売却は典型的な処分行為に該当します。
したがって、当該不動産を売却するためには、共有者全員で売却するという合意がなければなりません。言い換えれば、共有者のうち一人が売却に反対している場合には、当該不動産を売却することはできません。
変更行為(処分行為)(共有者全員):不動産売買が典型
管理行為(持分の過半数):賃貸
保存行為(各共有者):修理
(共有物の使用)
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
(共有持分の割合の推定)
第二百五十条 各共有者の持分は、相等しいものと推定する。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
持ち分だけを売却することはできる
上記の話は、不動産全体を売却するときの話です。
不動産全体ではなく、当該不動産についての持ち分だけであれば、売却することができます。
要するに、あなた、Aさん及びBさんが3人で3分の1ずつ共有している不動産があったとします。
この不動産を売却しようとする場合には、あなたとAさん、Bさんの3人の承諾が必要となります。全員の承諾が必要だからです。
ですが、あなたの持つこの不動産への3分の1の持ち分を売却するという場合には、あなたが自由に売却することができます。
このように、不動産の持ち分であれば売却できるのですが、通常、あまりこの持ち分だけを売却するケースは多くないと思います。
不動産の持ち分を所有していたとしても、結局、その不動産を単独で売却することはできないなど、持ち分を所有しているだけでは使い勝手が必ずしもよくないからです。
不動産についてどのような取り扱いをするにしても、ほかの共有者との協議が必要であるなど面倒も少なくありません。
このような事情がありますので、共有不動産の持ち分を売却しようとしても、通常はなかなか買い取ってもらえなかったり、あるいは相当程度に低い金額でしか売却することができないと思われます。
どのような場合に共有不動産となるか
典型的なケース①
遺産分割協議を行った際に、特定の相続人の単独所有とせずに、複数の相続人間での共有状態にしたような場合です。
通常は、遺産分割で共有とすることはそれほど多くはないのですが、誰が所有するかを決めにくいのでとりあえず問題の先送りとして共有状態で相続する場合には、賃貸マンションなどについて、賃料などの収益を半分ずつ受けとることにしようとして、共有とする場合などです。
典型的なケース②
複数人で特定の物件を共同購入したような場合です。賃貸用マンションを収益分配するために、4人で1億円ずつ4億円の物件を購入したような場合に、4人が4分の1ずつ持ち分を所有しているようなケースです。また、親子間などでも、新しく家を建てる際に、夫婦と親でお金を出し合った場合に共有不動産となるケースがあります。
では、このような共有不動産を売却するためには、どのような方法があるでしょうか。
このような場合には、共有物分割請求という方法があります。
この共有物分割は、民法に定めのある制度で、簡単にいえば、共有不動産のままで使い勝手が悪い場合に、分割してそれぞれ単独所有にして使い勝手をよくしてしまいましょう、というものです。
民法には、以下のとおり規程があります。
(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
第二百五十七条 前条の規定は、第二百二十九条に規定する共有物については、適用しない。
(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる
内容としては、共有不動産については
① 原則いつでも分割請求できる
② 協議が整わないときには、裁判所に分割請求することができる
③ 裁判所に分割請求をした場合に、共有物の分割をすることができないとき、または、分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所はその競売を命じることができる、
というものです。順番に確認してみましょう。
原則いつでも分割請求できる
共有不動産については、原則としていつでも分割請求ができる、というものです。
「原則として」というのは、例外的に、分割請求ができない場合もあるということです。その一つは、256条ただし書に記載されているとおり、「分割しない」という約束がされている場合です。
たとえば、亡くなった方の相続財産について、とりあえず共有状態で相続し、3年間は分割しないことにして、その後、取り扱いを協議しよう、といった約束をしたとすると、その約束は有効で、その3年間は共有分分割ができないということになります。
民法の規定をみてのとおり、5年以内の約束であればよく、更新することができます(3年間更新しない約束をするという話をして、期限が来るところで、やっぱりもう3年間分割しないことにしましょう、という約束をした場合にはその約束自体は有効だということです。)
もう一つ、分割できないケースは民法257条に定められています。「前条の規定は、第二百二十九条に規定する共有物については、適用しない。」というものです。こちらはどういうことかというと、民法229条を確認すればわかります。
(境界標等の共有の推定)
第二百二十九条 境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。
民法は境界線上に設けた境界標などは、共有と推定するとしています。土地と土地の境界に設置するものなので、どちらか一方の所有物ではなく、隣接する土地所有者が共有する、という規程です。土地と土地との境界に設置するものだから共有としているのに、それを共有物分割請求でどちらのものか明らかにしようというのは意味がありません。なので、共有物分割請求の対象から外しているのです。
協議が整わないときには裁判所に分割請求できる
共有物の分割協議が整わないときには、裁判所に分割請求を行うことができます。この裁判所へ分割を求めることを、共有物分割請求訴訟といいます。
共有物分割請求と調停
共有分分割請求の方法としては、調停という方法もあります。
調停というのは、裁判所で行う話し合いの手続です。離婚調停のように、離婚裁判を行う前には、法律上、必ず調停を行わなければならないというものではありません。話し合いで解決することが望ましい案件や、話し合いでの解決する余地が十分にあるケースでは、裁判所での調停手続を経ることがあります。
共有物分割の方法
共有物を分割する方法について説明します。
まず、裁判による分割の場合には、現物分割の方法があります。
こちらは、現に不動産の現物を分割する方法です。
たとえば、3人で3分の1ずつ600平方メートルの土地を共有しているような場合には、(土地の条件等にもよりますが)200平方メートルずつ3つに分けるイメージです。(もちろん、価値的に公平になるよう分割するので、面積がそのまま3分の1というわけでは必ずしもないと思われます。)
ほかにも共有物の450平方メートルと150平方メートルにわけて、価値の差については金銭で清算するといった方法もあります。(一部価格賠償)
こちらについては、裁判所上での話し合いで調整していき、話がまとまらなければ最終的には判決により、裁判所により分割されるものです。
持分買い取り業者の参入~最近のよくあるケース
一部の共有者が不動産業者などに持ち分を買い取ってもらい、その業者が共有物分割請求等を求めてくるケースです。
たとえば、もともとは、兄弟三人の共有であった不動産については、ご兄弟の誰かが不動産の持ち分を不動産業者に売却し、その持ち分を購入した不動産業者が共有物分割の交渉などを行ってくる場合です。
兄弟間の関係によっては話し合いが面倒だったり、あるいは、すでにトラブルがあるようなケースでは自分で直接関与したくないといった理由で、持ち分を売却してしまうケースがあります。このようなケースは最近では少なくないといえると思います。
* 本記事は2019年6月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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