立ち退きを求めることのできる場合の条件|賃料滞納・建物明渡の法律相談
不動産賃貸を営む場合に、落としてはいけない知識の一つとしてどのような場合に賃借人は物件を退去することになるのかというものがあります。
原因は様々で、円満に物件から引っ越す場合もあれば、何かしらのトラブルがあり、その結果、賃貸人としては賃借人に物件を明け渡して欲しいと思うこともあります。
もっとも、賃借人が賃貸物件に居住している状態は、オーナーにとって収益性が取れている場合が多いことを考えると後者のトラブルを原因とする明渡しを検討する際に、このような知識が必要となることが多いかと思われます。
あまりにも当然のことになりますが、賃借人がオーナーの所有している物件に居住したり、事業用として利用したりすることができるのは、その使用収益を支える権原があるからです。
賃貸借契約がこの権原を与える根拠となります。ですので、翻って考えると、賃借人に対して物件からの立ち退きを求めることのできる場合というのは、この賃貸借契約が終了した場合ということになります。
そこで、賃貸借契約の終了原因について俯瞰してみると、次の場合に終了するということになります。
最も頻度の高いものは解約の申入れ、続いて期間満了(更新拒絶)、トラブルの場合には解除が典型的です。目的物の消失や、混同によっても賃貸借契約は終了しますが、このような原因で終了することはほぼまれといってしまってよいでしょう。
- 期間満了(更新拒絶)
- 解約の申入れ
- 解除
- 目的物の消失
- 混同
逆に、賃貸借契約の終了原因のように見えて終了原因ではないものもあります。
賃借人が死亡した場合などがそうです。
賃貸借契約と異なり、賃料を貰わない貸し借りの形態を使用貸借と呼びますが、こちらの使用貸借の場合であれば、借主の死亡は使用貸借契約の終了原因になります(民法第599条、改正民法第597条第3項)。
しかし、賃料をもらう賃貸借契約となると、このような定めが民法上置かれていないため、相続の対象となるのです。
少し話が逸れますが、高齢化社会に伴い増加している賃借人の死亡時の帰趨について簡単に触れておきます。
まず、相続人がいる場合は賃借人の相続人が賃貸借契約上の地位を承継し、相続人(ら)が旧賃借人に代わって賃料を支払う義務を負ったり、物件を利用したりすることが容認されるということになります。
次に、相続人のいない賃借人が死亡した場合ですが、この賃借人に内縁夫婦関係や、養親子関係がある場合は、借地借家法第36条により権利義務を承継することになります。
他方で、友人が同居していた場合などは一応権利義務の承継はないものと捉えることになりますが、ケースによってはこの点が争われることも想定されるところです。
話を戻して、賃貸借契約終了原因について確認をしてみますと、まず最も多いのが、賃借人からの解約の申入れです。
現在、いずれの賃貸借契約のひな型と呼ばれる契約書にも解約の申入れに関する条項が置かれているはずです。
細かく見ると、1か月前通知であったり、2か月前通知であったりと、どれぐらいの猶予期間をもって解約の申入れを行うか手続的な部分が定められています。
少し突っ込んだ話をすると、実務的には解約の申入れによる明渡しの際に、立会いの下物件の現状の確認を行うことがほとんどかと思われます。
物件の明渡しは賃借人側の都合で行うことが出来ますが、賃貸人側の立会いとなると賃貸人側の都合も考えなければなりません。
細かい点ですが、この点が契約書などに記載がないため、トラブルに発展する場合もあります。
次の賃貸借契約終了原因は、期間満了(更新拒絶)になります。
賃貸人による更新拒絶を行う場合は、借地借家法上「正当の事由」が必要となります。
この正当の事由があるかどうかについては、多くの書籍や裁判例の積み重ねがなされており、詳細はそちらに譲りたいと思います。
サブリースを行っている場合は、賃借人が更新拒絶を行い、賃貸借契約が終了した場合でも、賃貸人は転借人との間で、信義則上賃貸借契約の終了を対抗(主張)できない、とした最高裁判決がありますので注意が必要です(最高裁判決 平成14年3月28日)。
この場合、賃借人が転借人との間で締結している賃貸借(転貸借)契約の内容を賃貸人が賃借人から引き継ぐという理解が主流となっています。
最後に、賃貸借契約の解除についてですが、賃貸借契約を解除するためには、何らか「債務不履行」という状態が生じていることが前提となります。
一部、債務を履行していない訳ではないが債務を履行しないことを明確にしている場合などもありますが、これは債務不履行に準ずる類型として扱っていきます。
この債務不履行という状態ですが、多くは、契約で定められた条項の違反となり又は法律上定められている条文の違反ということになります。
これら違反の結果、約束を守っていない状態が生じ、是正の余地がある場合は是正を求める催告を行うことになりますが、是正の余地がない場合は催告を要せず解除を行うという手続が法律上用意されています。
問題は賃貸借契約においては、売買などの1回きりの契約と異なる長期的な信頼関係が基になっている契約類型ということを理由に若干の修正が行われるという点です。法的には信頼関係破壊の法理などと呼ばれたりします。
具体的には、仮に債務不履行が生じている場合に、更に債務不履行の程度も検討し、信頼関係が破壊されている場合に限り解除を認めるというものになります。
この結果、賃料不払いという債務不履行においては、約2ないし3か月の滞納が賃貸借契約を解除するのに必要な債務不履行の程度だという運用が図られています。
* 本記事は2019年6月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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