不動産の相続登記をしないとどうなるか~遺言がある場合|不動産と相続問題
不動産の相続登記をしないとどうなるか、遺言がある場合についてはどうでしょうか。
(遺産分割協議が成立した場合に登記をしない場合はこちら)
遺言がある場合には、当該不動産を「相続させる」と指定された相続人が相続登記を行います。
遺言が適切に作成されているのであれば、他の相続人の承諾(署名捺印や印鑑証明書)などは必要ありません。
通常は、不動産を受け取る相続人が単独で相続登記を行うことができます。
それでは、このような遺言で財産を受け取ることになっているにもかかわらず、相続登記を行わない場合、どのようなことになるでしょうか。
遺産分割協議後の場合には、対抗要件である登記を備えなければ当該不動産に対する権利を失ってしまう、という話でした。
これに対し、遺言に基づく登記の場合には、結論が異なります。
こちらについては、「遺言に基づき法定相続分と異なる権利の承継がなされた場合には、対抗要件なくしてこれを第三者にも対抗することができる」(最高裁平成14・6・10)という判例法理があります。
つまり、現行法上では、遺産分割協議の後はしっかり登記をしなければ、別に登記をして対抗要件を備えた者が優先するのに対し、遺言に基づく場合には、対抗要件である登記がなくても第三者に対抗できる、すなわち、遺言で財産を承継する人が優先するという結論になると考えられます。
これは合理性について疑問が持たれていました。
遺産分割協議後で財産を取得した者が、財産を取得したことを登記をしていないのであれば、登記をしていなかった者が権利を失ってもやむを得ないという考え方を前提とすると、同様に、遺言によって財産を取得した者であっても、財産を取得したことについて登記をしていないのであれば、権利を失ってもやむを得ないと考えるのが整合的にも思われます。
そこで、2019年7月1日から施行される改正相続法では、この点が改正されました。
相続させるという遺言に基づいて承継された財産については、登記なくして第三者に対抗することができるとしていた現行法の規律を見直し、法定相続分の部分を超える承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できなくしました。
これにより、遺産分割、遺贈及び相続させる旨の遺言のいずれの場合であっても、対抗要件の具備によって権利を取得できるかどうか、優劣が決せられることになりました。
つまり、遺産分割、遺贈及び相続させる旨の遺言のいずれの場合であっても、適切に登記手続を経なければ当該不動産に対する権利を失ってしまうことになるということです。
以上のとおりですので、被相続人の遺言により不動産を取得した場合であっても、速やかに相続登記を行って、不動産を自分の名義に変えておくことをおすすめいたします。
【改正相続法の条文】
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
* 本記事は2019年6月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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