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弁護士 栃原 遼太朗
東京事務所所属
不動産・建築紛争の取り扱いに注力。不動産管理業向け法改正セミナーなど、数多くのセミナー講師を担当。
【講師履歴】株式会社Century21・Japan様主催 「改正個人情報保護法改正セミナー」/弊所主催 「入居者トラブル対応セミナー」 etc.
今回は、不動産賃貸借における賃料増減額請求に関するコラムの4回目の記事となります。
前回の記事では、賃料増減額請求における「賃料の不相当性(相当賃料)」の具体的な判断手法について解説しました。
今回は、「賃料増減額請求の特約の有効性・判断に与える影響」について解説していきます。
1. 賃料増減額請求については、法律(借地借家法)上認められた権利ですので、賃貸借契約上定めがなくとも、賃貸人・賃借人双方が行使することが可能です。
一方で、契約によっては、賃料増額請求について一定の特約が付されている場合もあります。
このような場合に、特約の存在が賃料増減額請求権の行使にどのような影響を与えるのでしょうか。
2.まず、借地借家法(以下「法」)上、賃料増減額請求の特約に関しては以下のように定められています。
(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
(略)
3.以上のとおり、賃料(借賃)を一定期間増額しない旨の特約(以下「賃料不増額特約」)については、法律上その有効性が認められています。
具体的には、賃料不増額特約がある場合には、従来の家賃が「不相当」な状態になったとしても、賃料増額請求は原則認められない[1]、ということです(賃料が「不相当」といえるかどうかの判断については、前回の記事を参照ください)。
[1] 例外として、「不増額特約期間がかなりの長期にわたっていること」「その間に経済的事情の激変が生じたこと」「その激変が当事者の予測を大きく超えたものである」といった事情がある場合には、賃料不増額特約があったとしても、賃料増額請求権が認められる余地がある(横浜地判昭和39年11月28日判判タ172号212頁等)
4.一方で、法32条1項(但書)の反対解釈として、賃料(借賃)を一定期間減額しない旨の特約(以下「賃料不減額特約」)については有効性が認められない(このような特約があったとしても、賃料減額請求権の行使は可能)とされています。
1.賃料増減額請求に関する特約については、すでに説明した通りですが、法律上有効な特約が賃貸借契約上付されていた場合に、特約は賃料増減額請求の判断において、どのような影響を与えるのでしょうか。
2.この点に関して、実務上問題となるのが、一定期間経過ごとに、自動的に賃料の一定割合を増額する特約(以下「賃料自動改定特約」)が付されていた場合になります。
以前の記事でも取り上げた、サブリースに関する複数の最高裁判例(平成15年サブリース判決)においては、このような賃料自動改定特約の有効性は認めた上で、このような特約があったとしても、賃料増減額請求自体は可能、という判断が下されています。
3.賃料自動改定特約が付されていた場合は、賃料増減額請求の当否(及び賃料の不相当性判断)の中で、「特約が付されるに至った経緯(具体的には、当初の約定賃料額と近隣の同種の建物との賃料相場との関係、当該物件の収支予測、敷金および銀行借入金の返済の予定にかかわる事情等)」を十分に考慮すべきものとされています。
個別の事情次第の部分はありますが、少なくともこのような特約が付されていた場合は、特約の存在自体が当初の賃料額決定における重要な要素、と位置付けられることは間違い無いといえるでしょう。
【(参考)最判平成15年10月21日集民211号55頁(平成15年サブリース判決の一つ)】
「…そして,本件契約は,被上告人の転貸事業の一部を構成するものであり,本件契約における賃料額及び本件賃料自動増額特約等に係る約定は,上告人が被上告人の転貸事業のために多額の資本を投下する前提となったものであって,本件契約における重要な要素であったということができる。これらの事情は,本件契約の当事者が,前記の当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから,衡平の見地に照らし,借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する場合に,重要な事情として十分に考慮されるべきである。」
4.なお、賃料自動改定特約が付されていた場合には、特約に基づき、一定期間(たとえば、3年ごと)に、賃料が改定されることになるわけですが、この場合における賃料の不相当性判断(事情の変動によって現在の賃料が当初の賃料と比べて不相当になったこと)における判断基準時がいつになるのか(当初の契約締結時点になるのか、それとも直近の改定時点になるのか)という点も問題になります。
5.こちらの点に関しては、判例によって以下のような判断が下され、賃料自動改定特約が付され、それにより賃料の改定が発生していたとしても、不相当性の判断基準時としては「当初契約時点」であるとされています。
【最判平成20年2月29日集民227号383頁】
「…したがって,本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額は,本件各減額請求の直近合意賃料である本件賃貸借契約締結時の純賃料を基にして,同純賃料が合意された日から本件各減額請求の日までの間の経済事情の変動等を考慮して判断されなければならず,その際,本件自動増額特約の存在及びこれが定められるに至った経緯等も重要な考慮事情になるとしても,本件自動増額特約によって増額された純賃料を基にして,増額前の経済事情の変動等を考慮の対象から除外し,増額された日から減額請求の日までの間に限定して,その間の経済事情の変動等を考慮して判断することは許されないものといわなければならない。本件自動増額特約によって増額された純賃料は,本件賃貸契約締結時における将来の経済事情等の予測に基づくものであり,自動増額時の経済事情等の下での相当な純賃料として当事者が現実に合意したものではないから,本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額を判断する際の基準となる直近合意賃料と認めることはできない。」
今回は、賃料増減額請求における特約の有効性と判断に与える影響について説明しました。
賃料増減額請求の法的性質(強行法規性)もあり、特約があるからといって全く賃料増減額請求に関する問題が生じない(請求する余地がない)わけでもないのが悩ましいところです。
今回をもって、賃料減額請求に関する連載記事は一旦終了となります。
これまでに取り上げたように、賃料増減額請求については、その行使の可否や判断基準等について、様々な法的解釈や過去の裁判例等の集積があり、行使すべきかどうか、行使するとして、実際にどの程度増額(減額)が認定されるのか(または行使された場合にどのように対応するのか)という点については、物件の賃料相場以外にも様々に考慮すべき点があります。
一方で、賃料というものは、継続的に支払う(または受け取る)ものであり、かつ生活・事業の根幹をなすものといえ、その金額の増減は皆様にも大きな影響を与えるものと言えます。
現在事業として物件を賃貸借している方の中で、現在の賃料額にお悩みの方、もしくは賃料の変更を迫られていて対応に苦慮されている方がいらっしゃいましたら、まずは弁護士にご相談ください。
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