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2022.11.10
2023.05.30
法改正

【新制度】相続土地国庫帰属制度が2023年開始に。

コラム著者

弁護士  栃原 遼太朗

東京事務所所属

不動産・建築紛争の取り扱いに注力。不動産管理業向け法改正セミナーなど、数多くのセミナー講師を担当。

【講師履歴】株式会社Century21・Japan様主催 「改正個人情報保護法改正セミナー」/弊所主催 「入居者トラブル対応セミナー」 etc.

              

令和5年5月27日より、一定の条件のもと、相続した土地を国に返すことのできる制度が開始予定です。

こちらの制度開始に向けて、民法不動産登記法等をはじめとした既存の法律の改正等に加え、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律、いわゆる相続土地国庫帰属法が令和3年4月に制定されました。

今回のコラムでは、相続土地国庫帰属制度の中心である新法の説明を中心に、制度の概要や利用のために必要な条件等について、皆様にお伝えします。

1. 相続土地国庫帰属法制定の目的

相続土地国庫帰属制度は、現在、地方を中心に問題となっている、所有者不明土地(それに伴う管理不全土地)の増加に歯止めをかけることを目的として制定されました。

なぜなら、所有者不明土地の主要な発生原因が「相続(それに伴う相続登記の未了)」にあるためです。

加えて、所有者は判明しているが、管理が行き届いていないことや管理がされていない土地も多いのが現状です。

そして、この制度の具体的な利用条件等について定めたものが、今回説明する相続土地国庫帰属法となります。

2. 相続土地国庫帰属法の概要

相続土地国庫帰属法により創設された制度を一言で言えば、「相続または遺贈により、土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国に帰属させる制度」となります。

民法上規定されている「土地所有権の放棄」(民法239条)とは異なりますので、この点はご注意ください。

相続土地国庫帰属法と民法上の所有権放棄制度の大きな違いは「行政(法務大臣)の承認の有無」となります。

ただ、当然ではありますが、どの様な相続人や土地であってもこの制度を利用できるというわけではありません。

この制度においては「申請可能な相続人の範囲(申請権者の要件)」及び「利用可能な土地(土地の要件)」の2つについて、法律上一定の制限があります。

3. 国庫帰属制度への申請が可能な者とは

本制度の申請権者としては、法律上「相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により土地の所有権又は共有持分を取得した者」と定められています(新法2条1項)。

すなわち、「相続又は遺贈が原因で土地を取得した人」以外の人については、今回の制度を利用することはできません。

売買等で所有者不明土地を有している方などについては、本制度ではなく、民法や不動産登記法等既存の法改正によって対応することとなります 。

国庫帰属制度への申請が可能な者

【原則】
相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により土地の所有権又は共有持分を取得した者(新法2条1項)。

【例外】
土地の共有持分の全部を相続等以外の原因により取得した共有者は、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した者と共同して行うときに限り、承認申請することが可能(新法2条2項後段)。

本制度において、相続や遺贈によって所有者不明土地を取得した相続人に本制度の申請権者が限定された理由(売買等による取得者が本制度の利用対象者から外された理由)としては、売買等によって所有者不明土地を取得した人については、自己の責任でその土地の管理に関する負担を引き受けている以上、このような土地を国に帰属させて国民の負担で管理することとする必要性は低いと考えられるため、というもののようです。

また、相続の際に複数の相続人で所有者不明土地を相続した場合、本制度を利用するに当たっては、共有者の全員が共同で申請する必要があります(新法2条2項前段)。

4. 国庫帰属制度の対象となる土地とは

本制度を利用するにあたっての要件の2つ目については、対象となる土地が「通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地」に該当しないというものです。

こちらの要件については、法律である程度具体化されており、以下のいずれかに該当する場合には、承認申請が却下または不承認となります。

却下要件(新法2条3項、4条1項2号)

【その事由があれば直ちに通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要すると扱われるもの】

・建物の存する土地
・担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
・通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
 (墓地、境内地、現に通路・水道用地・用悪水路・ため池の用に供されている土地を指します。)
・土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
・境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

不承認要件(新法5条1項各号)

【費用・労力の過分性について個別の判断を要するもの】

・崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
・土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
・除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
・隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
・上記のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

5. 国庫に帰属する際の負担金の納付について

本制度の利用を求めて申請を行い、法務大臣より承認がなされた場合、所有者不明土地を国庫に帰属させることが可能となります。

ただし、そのためには、一定額の負担金の納付が必要となります(新法10条1項)。

その金額については、20万円を原則としつつ、一部の市街地等については、必要となる管理行為を踏まえ土地の面積に応じた負担金が算定されます(新法施行令4条1項)。

なお、負担金として想定されているのは、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額となります。

6. 国庫帰属制度への申請の流れ

国庫帰属制度の利用に関する申請の流れは以下の通りとなります。

7. 国庫帰属制度の利用にあたって

今回は、相続土地国庫帰属法制度のうち、相続土地国庫帰属法の概要を説明いたしました。

この制度の新設により、今後、山林や田畑等の使い道が見出せず、売り手も見つからない土地を相続してしまった場合も相続放棄等の手段によることなく、対象土地の管理から解放される選択肢が新たに選べるようになります。

この制度は以前から注目されていた制度であるため、実際に施行された暁には、非常に多くの申請がなされることが想定されます。

そのため、一回の申請できちんと承認までたどり着けるよう、申請の際には要件等を満たせているか、という点について申請時にきちんと検討しておく必要があります。

行政の申請業務一般に言えることですが、一度申請が却下・もしくは不承認となってしまうと、再度申請を行った際に「一度不承認(却下)がなされた」という点が次の申請時にも影響を与え、審査が厳しくなる可能性は否定できません

以上のとおり、本制度を利用するに当たっては、創設されたばかりの制度であるだけでなく、承認に必要な要件の該当性判断に法律的な知識が要求されるところです。

無駄な費用や時間を使ってしまったり、再承認のハードルを上げてしまわないよう「制度の利用を検討している時点」で弁護士にご相談いただくことを強くお勧めします。

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