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2024.04.24
2024.04.30
コラム

防犯カメラ設置に関する裁判例を紹介 | 建物に設置された防犯カメラの撤去と損害賠償請求

コラム著者

弁護士  田上 博也

東京事務所所属

不動産オーナーにおける賃貸トラブル案件を主に担当。クライアントに寄り添う姿勢を持ち、信頼に応えることを心掛けている。

              

建物の防犯性を確保するために、防犯カメラの設置は必要不可欠といえます。

しかし、公の場に設置される防犯カメラには常にプライバシーの問題が生じ得ます。

本稿では、防犯カメラの撤去やプライバシー権の侵害を理由とした損害賠償請求がなされた裁判例の概要につき紹介したいと思います。

東京地方裁判所平成27年11月5日判決

結論として、裁判所が防犯カメラの撤去を認めた事案となります。

控訴審でもこの判断は維持されています。

事案

区分所有権を有する被撮影者が、同じ建物の区分所有権を有するカメラ設置者が建物に防犯カメラを4台設置し、これによる監視をしていることが被撮影者のプライバシー権を侵害するとして、防犯カメラの撤去及び慰謝料の支払いを求めた事案です。

裁判所の基準

まず、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについては、法律上保護されるべき人格的利益を有する(保護の対象となりうる)ことを前提に、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかの一般基準として、「撮影の場所、撮影の範囲、撮影の態様、撮影の目的、撮影の必要性、撮影された画像の管理方法等諸般の事情を総合考慮して、 被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」と示しています。同様の基準は以降の裁判例でも参照されています。

認定された事実

  • ・カメラが道路に加え自宅玄関入口や玄関付近や通用口付近などを撮影していた。
  • ・被撮影者が日常生活で使っている道路を撮影していた。
  • ・カメラの設置目的に防犯目的が含まれているが、監視目的は含まれていない。
  • ・カメラで撮影された映像の保存期間は約2週間であり、自動的に上書きされる。

裁判所の判断

防犯カメラの撮影は常に行われており、被撮影者らの外出や帰宅等という日常生活が常に把握されるという被撮影者のプライバシー侵害としては看過できない結果となっているとされました。

他方で、カメラ設置者は、防犯カメラの設置については、カメラ設置者所有建物の1階居室の南側とその窓付近を撮影して防犯を図るものと主張していました。

しかし、窓の防犯対策としては二重鍵を設置するなどのその他の代替手段がないわけではないことなどを考慮して、被撮影者のプライバシーの侵害は社会通念上受任すべき限度を超えているものと判断されました。

東京地裁令和2年1月27日判決

結論として、裁判所が防犯カメラによってプライバシーが侵害されたとする損害賠償請求や防犯カメラの撤去請求を認めなかった事案となります。

事案

建物の所有者が、その建物に隣接している建物の壁面に設置された防犯カメラによって、プライバシー権が侵害されたとして、隣接建物の所有者に損害賠償請求を行った事案になります。

認定された事実

  • ・防犯カメラは、被撮影者の容ぼう等を日常的に撮影することが可能であった。
  • ・防犯カメラの設置目的について、被撮影者が、数日間カメラ設置者宅のガレージ入口に石を積み上げたことがきっかけになって設置された。
  • ・被撮影者の転居後には防犯カメラによる撮影が行われていないことから、一般的な防犯だけではなく、被撮影者の行動を注視することが含まれていたことは否定できない。
  • ・防犯カメラは、被撮影者の玄関や家の内部を撮影するようには設置されていない。
  • ・防犯カメラは固定されており特定の人を追跡して撮影する機能はないこと。
  • ・撮影した映像は別の媒体に移すなどの作業をしない限り上書き保存される仕組みである。

裁判所の判断

防犯カメラの設置目的は、被撮影者のカメラ設置者に対する迷惑行為等を防止するものであったというべきであり、被撮影者の迷惑行為等を防止する目的を達する以上に、被撮影者の日常的な行動を監視する目的があったとまでは認めることはできないとされました。

また、被撮影者がカメラ設置者宅のガレージ前に石を積む行為に不安感を覚えたのはやむを得ないとし、そのような迷惑行為等を防止する目的で防犯カメラを設置したことは不合理とは言えないと判断されました。

さらに、防犯カメラの撮影範囲が屋外であり、全くの私的空間ではないこと、撮影期間が3か月程度であることなどから、防犯カメラによる撮影は、プライバシー権の侵害はあったものの、その程度は社会通念上受忍限度を超えるものと言うことはできないと判断されました。

名古屋地裁令和元年9月5日判決

この事案では、複数の防犯カメラでの撮影が問題となりましたが、いずれも撤去が認められなかったものになります。

事案

本件は、被撮影者らの住所地付近の土地に分譲マンションの建設計画を立て、マンションの建設を行ったカメラ設置者らが、マンションの建設中、建設現場に防犯カメラを10台設置し、これらの防犯カメラによって被撮影者らが各住居に出入りする様子等を撮影したことにより、損害賠償や一部カメラの撤去を求めた事案になります。

以下では問題となった防犯カメラの一部についてのものになります。

認定された事実

  • ・撮影箇所は建設現場北側道路の東端から西向き、西端から東向きに、建設現場の周囲に死角が生じないように設置されていた。
  • ・カメラ設置者らの従業員が1日中モニターに張り付いて映像を見ていたわけではなく、問題が起きた時に確認する程度だった。
  • ・動画データは14日14時間保存され、過去の分から順番に上書きされるようになっていた。 被撮影者らがマンション建設についての反対運動を展開しており、その一環として、マンションの建設現場の北側及び南側に被撮影者らがカラーコーンを複数並べて設置していたことから、撮影対象となっていた場所においても小競り合いなどの不測の事態が生じる可能性があった。

裁判所の判断

上記の事情などを総合考慮して、マンションの建設現場の北側道路を両端から撮影する必要があったと言えるとされました。

また、不測の事態に対応するための証拠保全の必要性から防犯カメラが設置されたものと言え、撮影範囲もその目的に照らして問題ない範囲であるとも判断されました。

その上で、防犯カメラの設置、撮影は社会生活上受忍限度を超える程度であったと認めることはできないと結論づけられました。

まとめ

上記の裁判例では、他の防犯カメラについても問題となっており、それぞれ様々な考慮要素が検討されています。

防犯カメラの撮影やプライバシーの権利の問題は非常に複雑です。問題となった時には不動産問題に特化した弁護士にご依頼されることをお勧めいたします。

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