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2024.05.10
コラム

不動産管理会社が知っておくべき入居者トラブル対応-Part3-

前回は不良入居者トラブルの類型について解説しました。

今回は、実際に対応した過去の事例をご紹介します。

今回ご紹介する事例を、自社で抱えているトラブル解決の参考にしていただければと思います。

本記事は、不良入居者対応に関する最後の項目になります。

最後の項目は、過去に対応した実際の退去事例を紹介します。

集合住宅における不良入居者対応

まず事案の概要は、集合住宅における一室に入居していた方が、問題行動を起こす入居者(不良入居者)であったため対応に困っているという事案です。

本案件は、相談が来た時点で大体20年程度の入居実績があり、問題行動はあったが、それまでに賃料滞納はない状態でした。いわゆる賃料滞納を理由にして、明け渡しを求めることが難しい案件でした。では、具体的にどういった問題行動が報告されていたのか解説します。

1つ目は、近隣住民への問題行動です(具体的には暴言暴行等)

2つ目は、内覧者への妨害や管理会社への暴言です。

3つ目は、修繕のための立ち入りを拒否する行動です。

4つ目は、管理会社の依頼を無視する問題行動です。

これらの4つの問題があったため、何とか退去を前提に交渉していただけないか、という形で相談を受けました。

本案件は、相談を受けた上で、正式に受任に至る場合に、見通しとして以下の点をお伝えしました。

退去交渉にあたっての見通し

1点目は、既に類型や1つ目の対応(記事パート1)で述べた通り、問題行動の立証は簡単ではありません。想像よりハードルが高いということです。

2点目は、仮にその問題行動自体が認められたとしても、明け渡しに至るかどうかという点は、別の法律上のハードルもあるため、難しいところがあるという点をお伝えしました。

3点目は、前述の1点目2点目に関連しますが、今のようなハードルがある以上、仮に交渉し、入居者側が退去に難色を示した場合に、どうしても退去を求めたい場合、オーナー側が一定の立退料もしくは解決金の支払いを求められる、もしくはその懸念があるという点もお伝えしました。

明渡しの実現にあたって、以上の留意点がはあることを伝えた上で、本件については、すでに客付けへの影響や、物件のダメージが出ている以上、早めの対応をした方がよいというアドバイスをしました。

オーナーや管理会社と面談する中で、自分たちだけでの対応に限界があり、専門家にお願いして現状を改善したいという意向がきちんと確認できましたので、この見通しをご了解抱いた上で、正式に受任しました。

退去交渉を進めるにあたっての弁護士としての具体的検討

受任後、実際に退去交渉を進めるにあたって、主に検討したのは以下の2点です。

一点目は、裁判所等で解除の成否が争点になった場合にどのような判断がなされるのか、という点です。

問題行動を全て立証できたとしても、解除が認められない、というリスク(法的に弱い部分がある)という点については、(依頼者側にとっては不利な要素といえますが)交渉を進める前提として認識していました。

2点目は、これまでの相手方(入居者)の対応状況です。

法的根拠が弱いのであれば、弁護士名義で書面を出して、法的な問題点を具体的に提示した上で改めて交渉を進めていく、という進めることも考えられますが、オーナー・管理会社と相手方のやり取りや相手方の行動を見る限り、弁護士を介したとしても、安易に退去に応じるとは考え難い状態でした。

この2点を踏まえた結果、ベターな選択肢として、民事調停を利用して退去・交渉を進めることを決めました。

民事調停について

続いて、その調停を利用して実際どうなったかを説明します。

調停においては、こちら側(オーナー側)が退去請求を前提とする申立てを行った上で、その後裁判所を介して様々な問題行動についての、事実関係の認否等を確認し、(事実としての)問題行動の存在をある程度前提として固めつつ、退去合意の獲得に向け、条件面の交渉を重ねました。

結果、一定額の金銭の支払いと、調停成立から3ヶ月後に退去という内容で調停が成立し、実際に退去が実現しました。

退去の実現に至った3つのポイント

次に、実際の対応事例を踏まえた上で、難しいと言われる不良入居者の退去について、なぜ退去の実現に至ったかについて、(自分なりの整理ではありますが)説明いたします。

1点目は、調停の申立て自体は退去を求める内容であったものの、実際の調停において強硬的な態度を取らなかったことが挙げられます。

退去してほしいという話を初めの段階からしつつも、退去に関する「単なる話し合いの場」を確保するために調停を申し立てた、というスタンスを一貫して維持していました。このようなスタンスを維持することは、調停の場で実際に退去に関する具体的な協議ができる状況を確保する、大きなポイントであったと思います。

2点目は、調停に入る前に、最初の時点で依頼者であるオーナーに「持ち出しの可能性があり、何かしらのお金を払わないといけないですよ」という点を説明し、「そうなったら仕方ない、多少払ってでも出ていってもらった方が長い目で見てプラスだからそれでいいですよ」と了承を得ていた点が挙げられます。

例えば、金銭負担(解決金の支払い等)についてきちんと説明せずに出たとこ勝負にしてしまうと、裁判所からの解決案や相手方からの提案の中で、立退料や解決金の話が出た場合に、依頼者側として、その話は聞いてないし応じられないという話になり、なかなか調停での解決ができないことも十分に考えられました。

しかし、事前に説明し、了承を得ていたことでそういうことにはならず、スムーズな合意に繋がりました。

3点目は、どちらに転ぶか予測不可能でしたが、実際の調停の中でその相手方である不良入居者側の評価や本当に問題行動か否かという点はともかくとして、こちら側の言うような行動をとったことはあると認めていました。とった行動自体を認めていたというのは、話を進めるにあたりが非常に良かった点でした。

スムーズに交渉が進んだのも、申し立てる前に管理会社と協力し、事前の調査に基づき、ある程度問題行動を具体化できて、主張することができたから退去に繋げられたと思います。

本案件の紹介は、あくまでも一例であり、個別の案件によって考慮すべき点は異なるところではありますが、、一つの参考にしてください。

不良入居者対応で注意すべき4つのポイント

最後に、不良入居者対応で注意すべき、4つのポイントをおさらいします。

1点目は、繰り返しにはなりますが、不良入居者の問題行動を理由とする退去の強制は、基本的には難しいこと、法律上簡単ではないという前提は持っておきましょう。

この前提がないままだと、強制的に退去できないかという話になり、最悪の場合クレームがさらに悪化したということになりますので、ここは押さえておきましょう。

2点目は、実際に対応したか否かという点だけではなく、対応している点が外部にわかる形・客観的にわかる形で対応しているか、いわゆる見える化がなされているかという点は意識すべきでしょう。

これは特に騒音関係の問題で重要となります。実際には対応しているのに、対応していないというふうに見えてしまうと、それ自体がまた別のクレームを呼び込むことになります。

少なくとも「掲示板に告知をする等の対応はしています。しかし、なかなか改善に至らないんですよ」というアピールも意識してください。

3点目は、問題行動の存在を前提にしない、ということです。

特に騒音クレームが典型的ですが、クレームを鵜呑みにせず、必ずオーナーもしくは管理会社側で事前に調査を行ってください。方法は前述した2点に加え、それら以外にも様々な方法があります。いずれにせよ、調査をせずに、いきなり動き出すというのは絶対に避けましょう。

4点目は、専門家を関与させること、となります。

調査等を進め、やはり不良入居者であると言わざるを得ず、やはり退去させたい、という結論に至った場合に、退去を実現させるためには、法的な判断基準を踏まえて進める必要がありますが、この基準は抽象的であり、必ずしも明確ではありません。

退去を見据えて交渉しようという段階に至った場合は、専門家(弁護士)を関与させた方がよいでしょう。

専門家を関与させることは、、オーナーに実際の対応状況を説明できる点からも、非常に効果的であるといえます。

なお、不良入居者対応で弁護士を介入させるタイミングは、結論として早ければ早いほど良いでしょう。

初期段階から関与していると、弁護士も当然ながら事案を把握しやすく、適切なアドバイスができます。

さらに、弁護士を関与させる場合は、例えば社長や役職付きの方のみならず、実際の担当者レベルとも協議できる体制があることが好ましいです。

弁護士の早期関与のメリットは、被害の拡大防止にも繋がります。実際の対応方法は、不動産業者であればオーナーに対する事前説明となります。事前説明を弁護士が行うことで、オーナー側からのクレームを防止することができます。

さらに、弁護士を関与させる場合は、例えば社長や役職付きの方のみならず、実際の担当者レベルとも協議できる体制があることが好ましいです。

このような点を踏まえ、不良入居者への対応は、顧問弁護士という形での関与がベストであると、日々の業務の中で実感しています。

単発(スポット)のご依頼の場合は、どうしてもスピード感が遅くなります。依頼を受け、相談を受けて受任の可否を決めて受任に至って、ようやく対応を始めることになります。スポットでのご相談の場合の多くは、自身でやっていたけど、どうにもならないから弁護士にお願いしたいという状態からご相談に来られます。

この段階ですと、クレームをいかにして抑えるか、不良入居者を何とかできないか、という対症療法的な関与に留まってしまいます。要するに、出たクレームを何とかしたいというところで終わってしまい、根本的にクレームがなぜ出たのか、その原因をどうやって直すのか、今後クレームを出さないためにはどうするべきなのか、といった点についての関与ができなくなります。

様々な意見はあるかと思いますが、顧問という形で関与するのが一番適切かつ的確に業務を進められるでしょう。

以上を持って、不動産管理会社様が知っておくべき不良入居者に対するトラブル対応を解説してきました。過去の記事も参考にしていただき、トラブル時の参考にしていただければ幸いです。

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一新総合法律事務所東京事務所 不動産トラブル 電話番号

 本記事は、2022年6月開催「入居者トラブル対応」セミナーの内容を反映させたセミナーレポートになります。

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