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前回の記事の記事では、不良入居者に対する必要性について解説しました。
今回は、その必要性を踏まえた上で、具体的なトラブル対応策を紹介します。
不良入居者のトラブルは、さまざまな類型がありますが今回は3つの類型を取り上げ、それぞれの対応策を紹介します。
まず、1つ目の類型は、騒音等の迷惑行為になります。
騒音等の迷惑行為で押さえておかなければいけない点は、まず、通常の利用で許容されるラインを超えるものか否かを判断することです。
すなわち、迷惑行為と評価できるか否か、法的用語としては、「受忍限度を超えたものであるか否か」という判断が非常に難しいということです。
理由としては、どこまでが生活音でどこからが騒音なのかという騒音の程度は、個々人の感じ方によって大きく異なる部分があるからです。そして、一部の方は通常であれば許容すべき生活音でも、騒音と感じてしまいます。
そのような場合であっても、当然その方にとっては騒音なので、クレームにはなり得ますが、「クレームを言われた対象は、何かしらの迷惑行為をしているんだな」と決めつけて、それを前提に対応しようとすると、逆に問題になることもあります。
クレームを言われた対象の方に「騒音をやめてください」と伝えても、「いや、うちはそんなことしていないのに、何でそんなこと言われなきゃいけないんだ」と言われるケースもあります。クレームを言われた対象の方に、騒音を出しているという認識がない(そして、実際に生活音として許容される程度であった)場合は、非常に面倒なトラブルに発展しますので、対応の際は気をつけなければなりません。
騒音問題は証拠を押さえることが非常に重要ですが、証拠集めは大変です。「横の部屋がうるさいので、何とかしてほしい」などという苦情が入ったりすることはよくあります。しかし、確認のために現場に行ったとしても、その時は騒音が発生していないことが多くあります。
また、騒音が実際に発生している現場を確認できたとしても、それが騒音(受任限度を超える程度のもの)であったと法的に主張するための客観的証拠とするには、騒音計等を利用して計測する必要があります。
更に、騒音計等を利用したとしても、どこから通常の利用で許容されるラインを超えたとするのかはケースバイケースとなり、立地や時間帯にもよりますので、証拠を立証するのは難しいこともあります。
ただ一方で、騒音等の迷惑行為については、大体、近隣住民からの苦情によって発覚することが多いので、裏をかえせば、騒音を放置すると、近隣住民もしくは同じ物件に居住している他の入居者からの管理上のクレームにつながりやすくなりますので、やはり早期の対応が必要ということになります。
この3点がこの類型において押さえるべきポイントになります。これを踏まえた上で、具体的な対応策を説明します。
まず1つ目は、例えば101号室の人がうるさいので何とかしてくれという苦情が入った場合、この101号室の人が迷惑行為をしたと決めつけないことです。
要するに、初期対応においては、騒音があったことを前提としない、という点が重要になります。
よくあることですが、苦情を入れてくる側がクレーマー気質で問題となったというパターンが往々にしてあります。
苦情が入ったとしても、もちろん「対応します。確認します。」というお話は、その場でしていただいて良いのですが、実際に騒音があったことを前提に対応するのは少し時期尚早ということになります。
2つ目は、仮に対応するにしても、いきなり退去交渉に進むのではなく、段階を踏んで行うことが重要です。先述した通り、騒音というものは、証拠を押さえることが困難で、その騒音が法律上、規約上問題になるか否かという点においても、その受忍限度を超えたか否かという点がどうしても問題になります。
そのため、いきなり確たる証拠を押さえないまま退去交渉をするのは避けた方が良いでしょう。また、注意喚起をすることで、ある程度おさまる場合もあります。個別の事案の状況にによっても変わるところですが、注意喚起や個別通知をしてもダメだった場合に、初めて退去交渉等を考えていく手順になります。
そして、3つ目は、退去交渉を念頭に置くことです。騒音等や迷惑行為が確認されていて、通知や注意喚起をしてもどうにもならなかったという場合です。
このような場合は、退去を念頭に置いて交渉を進めなくてはならないということになります。
騒音が法律上何に違反するのかという点ですが、善管注意義務という義務の違反になります。賃借人が、その賃貸物件を利用する際に課せられる使用収益や目的に沿った形で使用・収益する義務に違反するという考え方もあるところですが、いずれにせよ、「騒音が法律上の義務に違反している」という点を明確に指摘することから始まると思っていただければ良いでしょう。
そして、この(善管注意義務)違反を指摘した上で「度を越えた騒音については法律(規約)違反です。今まで通告しても止まらなかったので、退去の明け渡しを求めたいと考えています。」といったイメージ・手順で交渉を進めていきます。
ただし、裁判の場合、善管注意義務違反が認定されるか否かという点を争うことになると、ハードルが高くなりますの。
退去交渉を念頭に置いて、騒音等の迷惑行為に対して交渉を行う場合には、必ず弁護士などの専門家に相談しましょう。
2つ目の類型は、修繕等への非協力的姿勢(修繕・立入拒否)です。
こちらは、築年数が経過した、物件修繕の必要性が高い物件等においてよく問題となります。
築年数が経過した物件は、オーナーの義務として修繕・設備交換等がどうしても必要になります(オーナーの義務を管理会社や不動産業者の方が代わりに行うことも多いです)。ただ、いずれにせよ、物件の老朽化による修繕や設備が壊れた場合の交換は、基本的に部屋の中で交換、修繕工事を行ったりする場合が多く、入居者の方の協力が必要となるケースは多いです。
続いては、どういう形で問題行動化するかという点です。よくあるのが、入居者側から、これ壊れたから修繕してほしい、設備を動かしてほしい等、修繕や交換を求めてきたにも関わらず、なぜか修繕に協力しないで、さらに言えば物件内の立ち入りを拒否するといったケースがあります。
自身が求めている修繕のレベルやグレードの通りに設備交換がなされなかった場合や、少なくともそのような交換はなされないだろうという予測が立った場合、修繕や設備交換を求めているにもかかわらず、なぜか協力しないという矛盾した行動を起こす場合があります。
修繕や設備交換について入居者の協力が得られないと、修繕ができないまま放置されることとなり、場合によっては物件自体に大きなダメージを生じる可能性もあります。
業者の立ち入りを拒否する入居者の場合、せっかく業者を手配したのに修繕もできないということで、非常に問題になりやすくなります。そして、非協力的姿勢が招くリスクとして、修繕しないまま放置することで生じるリスクも無視できません。
リスクの一つ目は、入居者自体からのクレームです。賃貸借契約上、物件の修繕義務を賃貸人が賃借人に対し負っています。
修繕しないまま放置していると、本来賃貸人の義務である修繕を行わないのは、賃貸人側が悪い、むしろ契約を破っているといった別の主張につながってくる可能性があります。
さらに、そういった入居者側からのクレームだけでなく、修繕というものは当然必要であるから修繕するわけですが、必要な修繕をしないことにより、物件全体へのダメージが生じます。場合によっては、その物件の老朽化をさらに加速させたり、構造に問題が生じたり、物件全体に関わる可能性も当然ありますので、早急な対応が必要となります。
一方で、1つ目の類型と異なり、2つ目の類型においては、修繕についての協力義務は、民法上・または契約上明確に定められており、これらに基づいて賃借人に業者の立ち入り等を求めることは比較的しやすいとは言えます。
すなわち、こういった修繕について協力しない入居者が出た場合は、「そもそもこれは法律上決まっていることなので協力してください。」と言い得ることを認識しておくことが重要となります。
なお、日管協や全管協の契約書を使用すると、そもそも契約書の修繕の項の中で、修繕については賃貸管理会社側が指定する保護を業者によって行うといった定めが入っています。
このような定めがある場合は、契約書に書いてある以上、こちら側が手配した業者や指定する方法を拒否するのは、法律違反だけでなく、契約違反にもなります。
こういったことが起こった場合には、契約書の修繕の箇所にどういった記載があるのかを確認いただき、こういった記載があれば、それもあわせて指摘することが重要になります。このような点を押さえた上で、優位に交渉を進めていくことが、この類型において押さえるべきポイントになります。
3つ目の類型は、物件の目的外利用です。こちらの典型例は、居住用物件を事業目的として使用しているというものになります。
このような事業目的での利用や目的外利用については、目的外で利用しているという点が明確に証明できれば、法律違反という指摘自体はやり易いところです。ただし、往々にして物件の利用状況というものは、外からはわからない場合が多く、実態として現状の使用状況を把握することは、簡単なことではありません。
さらに、居住用物件を事業目的で使用していれば法律違反になりますが、一口に事業目的といっても、利用の幅は広いです。
近年、コロナ禍の関係もあり増加している、自宅で仕事をする(テレワーク・リモートワーク)の形態や、完全に居住用物件を事業所として登録していて、対外的にも事業所や営業所として利用している場合等では、利用状況としては全く異なるものと言えます。
事業目的での利用(目的外使用)の中でもさまざまなケースが含まれますので、居住用物件を事業目的に使用しているということが認められたからといって、必ずしも契約解除(明渡し)が認められるわけではない、という点は押さえていただければと思います。
また、事業目的に使用しているという話を聞いたからといって、実態を確かめずにいきなり契約違反だと主張することは避けた方が良いでしょう。
以上を踏まえ、物件の目的外利用が疑われる場合の対応策として、押さえるポイントの1つ目は、物件の利用状況について可能な限りの客観的証拠を集めることです。
では、客観的な証拠はどう集めるのでしょうか。
例えば、事業を行う際はホームページ等を作成することが一般的なため、ホームページ上でが物件の所在地がどのように告知されているのかといった点を調査すること等が考えられます。
現地物件の確認の際には、物件の外側に社名を掲示していることや、事務所の看板を設置したり、もしくはそういった、事業目的での利用が伺われる標識が設置されているか否か等々を調査し、証拠となるべき事情をできる限り集めておくことが重要です。
なお、以上のような説明をすると「シンプルに立ち入りを求めればいいじゃないか」「物件の利用状況が規約違反かもしれないので、中を見せてほしい」という主張をすればいいじゃないかと考える方もいらっしゃいます。
ただ、このような要求は大抵拒絶されますし、拒絶された場合にそれを強制させるというのは、契約上はなかなか困難です。
よって、仮に立ち入り調査を求めるにしても、立ち入らずともわかる情報の証拠を集めるというステップはやはり必要です。
また、居住用物件の目的外使用の可能性がある程度明らかになった場合、退去交渉を求める必要がある場合は多いですが、事業用として利用されていたこと(=契約違反の事実)と、賃貸借契約解除や明渡しが肯定されるか否かは別のハードルがあります。ここは注意すべき点です。
「事業目的外利用=解除」ではない点を押さえましょう。契約解除が認められるか否かの判断は、使用の態様や具体的に目的外利用によってどのような損失を被るのか、建物が破壊されているか否か、近隣住民に迷惑をかけているのか否かといった点を踏まえて総合的に判断されます。退去を求めることを考えている場合は、その段階で専門家に相談することが良いかと思います。
ここまで、不良入居者による迷惑行為(問題行動)として、3つの類型について説明しました。
次回は、実際に対応した過去の事例、退去に成功した事例を紹介します。
* 本記事は、2022年6月開催「入居者トラブル対応」セミナーの内容を反映させたセミナーレポートになります。
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