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2024.01.25
2024.09.04
コラム

入居した建物にトコジラミが発生した場合の法的責任

コラム監修者

一新総合法律事務所 東京事務所

東京弁護士会所属

不動産会社を中心に、不動産オーナー、不動産に関連するサービスを提供する企業のトラブル/法律相談を対応しています。年間1,100件以上(2023年実績)の不動産に関する相談を扱ってきた実績から、不動産分野の各種法律相談や契約書作成等幅広く対応が可能です。

トコジラミの数は増加傾向にある

戦後の日本ではトコジラミの数は徐々に減少していましたが、海外ではホテル等でトコジラミが原因で休業せざるを得なくなり、数億円単位の訴訟になった事例もあります。

トコジラミは、基本的に屋内に生息し、人や物に付着したり、産卵したりして、生息エリアを拡大していきます。

夜行性で日中は寝具や家具、カーテンレールの隙間などに潜んでいます。そして夜になると、暗くなった部屋で就寝中の人の血を吸うのです。

下記のように、2019年まで増加を続け、コロナ禍で減少していましたが、去年は再び増加に転じました[1]

[1] https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230511/k10014063891000.html

トコジラミの発生で、宿泊施設は債務不履行責任を負う可能性も

賃貸借契約を締結した貸主には、適切に貸し出した部屋の「使用及び収益を相手方にさせる」(民法601条)必要があります。

さらに、ホテルなどの宿泊施設の場合には、旅館業法に部屋の衛生状態につき定めがあります。

同法第4条で「営業者は、旅館業の施設について、換気、採光、照明、防湿及び清潔その他宿泊者の衛生に必要な措置を講じなければならない。」とあり、具体的な措置の内容は都道府県ごとに条例で定めています。

たとえば、東京都であれば、旅館業法施行条例4条4号で「客室、応接室、食堂、調理場、配膳室、玄関、浴室、脱衣室、洗面所、便所、廊下、階段等は、常に清潔にしておくこと。」と規定があることから、宿泊する部屋は衛生的でなければならないことになります[2]

したがって、貸主が部屋の清掃等を怠り、借主にトコジラミによる損害が生じた場合には、上記の賃貸借契約や宿泊契約に違反して、債務不履行責任を負いうることになります(民法415条)。

[2] https://www.gourmetbiz.net/176633/

トコジラミの発生で、貸主責任が否定された裁判事例

トコジラミの発生に係る損害は裁判にもなっています。

鳥取県の旅館に宿泊した住職が、トコジラミが多数いる客室で虫に刺されたことにより仕事ができなくなったとして、同旅館を相手に約160万円の損害賠償を求めた訴訟では、「客室の安全確認を怠った」として旅館側の過失が認められ、10万円の支払いが命じられています。(神戸地裁平成16年6月29日判決)

一方で、「本件ホテルの客室内においてトコジラミの生息が確認される都度,専門業者に依頼して,薬剤散布等による駆除作業,清掃等を実施し,その後も,トコジラミの生息の有無を繰り返し調査し,対応していたことが認められ,かかる事情に照らすと,原告にトコジラミの駆除につき注意義務違反があったとまではいえない。被告は,ホテルの営業中にも本件ホテルの客室内でトコジラミの生息が確認されたことから,原告の実施した駆除作業では不十分である旨の主張をするが,そもそもトコジラミの侵入を防止するのは困難である上,徹底した薬剤散布等による駆除作業を実施したとしても,トコジラミの卵に効果はなく,原告の上記の対応は,費用対効果等に照らし現実的なものといえ,株式会社Cの依頼を受けてトコジラミの駆除作業を実施した株式会社Gの担当者も,このことを否定しないのであって,被告の上記主張を採用することはできない。」として、貸主の責任を否定したものがあります。(東京地裁平成24年10月31日判決)

賃貸物件で賃貸人の責任が否定された事例

さらに、トコジラミではないものの、アパートに入居した賃借人が、部屋から大量の虫が発生し、本件建物には、隠れた瑕疵があり、また、賃借人の喘息の持病を知りながら、体調に及ぼす影響等について説明もせず、害虫駆除作業を行ったため、本件建物で生活することができなくなり退去せざるを得なくなったとして、賃貸人に対し、退去費用等を請求した事案があります。

これについて裁判所は「Yは、大量の虫が湧いたとの通報を受けた直後から、その要望に応えて応急の措置を講じ、専門の駆除業者に本件建物内を確認させ、その後日程調整をして、1回目の駆除作業を行った。その駆除作業の日程については、賃借人が薬剤を使用することの影響について医師に確認すると述べ、その連絡が遅れたためである。よって、Yは、本件建物に虫が発生しないようにするため、必要な対応を行っていたと認めるのが相当で、Yが虫の調査やその駆除を適時に行わず、Xに賃借物を使用収益させる義務を怠ったと認めることはできない。」として、賃貸人側では賃借人の健康等に配慮する義務に反したとは認められないと判示し、賃借人側の請求を退けています。(東京地裁令和元年9月20日判決)

貸主の適切な対応で、責任を免れる余地もある

以上のように、トコジラミなど、外部から持ち込まれることにより不可避的に発生してしまう損害については、貸主側において薬剤の塗布を行うなど常に適切な対応を行うことにより、その責任を免れる余地もあると思われます。

実際に虫の発生により賃借人の健康被害が発生してしまった場合でも、適切な対応を行うとともに、損害賠償などの話になった際には、貸主の責任に詳しい弁護士に相談されることをお勧めいたします。

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